イズーナとの死闘

「シグルズ殿、左様に思い悩んでいる暇はございませんよ!」

「あ、ああ、そうだな。とにかく奴を攻撃するんだ!」


 シグルズは機関砲を作り出し、イズーナに向けて容赦なく射撃を開始する。クロエと朔は剣と刀を無数に作り出し、次々と投げ付けた。三人で一人の魔女をいたぶっているような構図であるが、イズーナがこの程度で死んでくれる筈もない。


「こんな、ものか? お前達の全力は」

「クッ……何をしても無駄みたいだな」


 機関砲弾など一発で四肢を吹き飛ばし、剣も刀も胴体を軽く引き裂く威力を持っていると言うのに、イズーナはあっという間に全ての損傷を修復して、五体満足で傷一つもなく佇んでいた。これでは隙など生まれようがない。


「ならば、こちらから仕掛けさせて、もらおうか」

「っ! イズーナから離れるんだ!!」


 イズーナが鷹のような勢いで飛びかかったのはクロエであった。クロエはシグルズの警告を受けるとすぐさま全速力で飛んだ。イズーナに近付かれれば、いつの間にか首が飛ばされていることだろう。ニナ以外の人間は首を切り落とされれば死ぬ。


 クロエは逃げながらも全力で攻撃を行い、イズーナの手足だったものがバラバラ地上に落下していくが、イズーナにはまるで効果がなかった。


「クッソ……どうすればいいんだ……」

「シグルズ殿!! 危ない!!」

「ッ!?」


 いつの間にか狙いをシグルズに切り替えたイズーナが、すぐ傍に迫っていた。シグルズは全速力で飛び退いて、即死させられるのだけは回避した。シグルズもまた機関砲を撃ちまくるが、もちろん効果はない。


「朔、そっちに向かったぞ!!」

「分かっております!!」


 今度は朔と追いかけっこをするようだ。魔女達は逃げ惑うばかりで、イズーナに何ら有効な攻撃を喰らわすことは出来なかった。


「こうなったら……毒矢でも撃ってみるか……?」


 シグルズはふと思いつく。毒ならばイズーナにも通用するのではないかと。仮に死なずとも気絶させるくらいは出来るのではないかと。とは言え、毒物を使った武器など毒ガスくらいしか知らなかった。


「毒、か……。極めて原始的だけど、これしかないかな」


 シグルズが作り出したのは吹矢であった。これくらいしか毒を用いる武器など知らないのである。


「おーい! イズーナ、こっちに来い!!」

「シグルズ殿!?」

「シグルズ!?」


 シグルズがイズーナを挑発すると、彼女はすぐにシグルズに注意を向けた。めったに心を動かさない彼女も、口に長い筒をくわえたシグルズの姿には、驚きを隠せなかった。


「何だ、それは?」

「知らないのか? ヴェステンラントの原住民はよく使っている吹矢だ」

「吹矢……? そんなもので何をしようと?」

「そりゃあ君を撃つに決まってるだろう」


 シグルズは吹矢から毒矢を放った。息で飛ばすと同時に魔法でも加速させるので、人間にはまず回避出来ないだろう。イズーナも認識能力は普通の人間と変わらないので回避することは出来ず、右腕に小さな毒矢が突き刺さった。


「そうか。毒、か」

「……察しがいいな」


 イズーナはすぐにシグルズの狙いを理解した。であれば、イズーナは容易に対処することが出来る。


「毒など、無駄、だ」

「そう来たか」


 イズーナは一切の躊躇なく自らの右腕を斬り落とした。毒が回る前にこうされてしまえば、全く意味がない。瞬時に効くような毒でなければイズーナには効果がないようであるが、シグルズにそんな知識はなかった。


 結局いかなる攻撃もイズーナには全く効かず、戦いは膠着状態に陥ってしまった。


「こうなったら……クロエ、僕達がイズーナを引き付けている間に、一人でルーズベルトを殺しに行ってくれるか?」


 イズーナから全力で逃げるという、実に情けない作戦である。しかしこうしている間にも地上では戦闘が続いており、イズーナに構っている暇などないのだ。


「分かりました。そうさせてもらいます」

「ああ、頼んだ。イズーナ、今度はこれでどうだ!」

「ほう……」


 シグルズは長大な対魔女狙撃銃を作り出した。空中を自由自在に動き回るイズーナを狙い撃つのはまず不可能なのだが、イズーナの関心を引ければ十分である。その隙にクロエはそっと戦場を離脱しようとする。


「イズーナ、こいつは魔女を殺す為だけにゲルマニアが開発した銃だ。いくら君でも、この弾が当たったらひとたまりもないだろう」

「……安い挑発、だな。その程度で、私の気が引けるとでも、思ったか?」

「クソッ。ダメか」


 イズーナはシグルズの意図を完全に読んでいた。そしてクロエに狙いを定めると、彼女と同じように剣を作り出して、彼女に投げつけた。


「クロエッ!!」


 弾丸のごとき速度で飛翔した剣はクロエの胸に突き刺さった。クロエは何が起こったのか理解することすら出来ず、意識を失ってしまった。


「木だ。生えろ!!」


 間に合わないとすぐに察したシグルズはクロエの真下に葉の生い茂る木を生やした。クロエは枝に絡まって、落下の衝撃はほとんど吸収させることが出来た。


 シグルズは彼女の許にたどり着くと、胸に刺さった剣を抜いて最低限の治療の魔法をかけた。幸いにして致命傷ではなかったようで、クロエはすぐに意識を取り戻した。

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