無限の敵Ⅱ
「まったく、私よりクロエをこき使った方がいいと思うんだけど」
クラウディアは文句をブツブツ言いながらも、氷の槍を次々に作り出してアメリカ兵を串刺しにして、また塹壕の手前に氷の障害物を多数作り出し、アメリカ軍の陣形を掻き乱していた。アメリカ軍が一気に襲いかかって来ず、局所的に数的優勢を維持出来るのであれば、一般的なヴェステンラント兵でも負けることはまずない。
兵士が負傷すればすぐに後退し、オリヴィアが治療を行う。魔法で修復した傷は一日も経てば開いてしまうが、一度形を整えることが出来れば後は普通の魔女でも状態を維持することが出来た。
「かかれ、かかれ!! 守勢を回っては負けを待つのみ! 敵を根絶やしにするのだ!!」
地上ではスカーレット隊長が各部隊を督戦して回り、アメリカ兵を殺しに攻め掛かり、次々に敵を粉砕していた。彼女がいると塹壕の意味がなくなりそうである。
「地上の皆も頑張っているし、これなら持つか……」
そんな隊長を援護しつつ、クラウディアは一先ず安堵した。とは言え、これは一時凌ぎに過ぎない。
「クラウディア様、またしても敵軍が現れました」
「まったく、何がどうなっているのやら」
不敗の態勢を整えることには一旦成功したが、その先の展望は真っ暗である。
○
さて、このままではいずれアメリカ軍に押し潰されることは必定であり、人類軍は事態を根本的に解決する作戦を必要とした。シグルズ、クロエ、朔は小さな会議を開いていた。
「――まあ、話し合いなんてするまでもないか。ルーズベルトを止める手段は一つしかない」
「ええ。偵察隊が発見したという建造物に一撃を加えるしかないでしょうね」
「抜け駆けはあまり好ましくありませぬが、致し方ございませんかと」
作戦はまたしても、レギオー級の魔女の力に恃んでルーズベルトの本体を叩くというものである。とは言え、アイオワですらそれなりの危機に瀕したのに、敵の本丸を攻略出来るという保障などある筈もない。
「あのルーズベルトが自分の手元をがら空きにしておく訳がない。アイオワよりも強力な敵がいると見るべきだろう。君達を危険に晒してしまうことになるかもしれない」
「自分だけは特別みたいな言い方はよくないですよ、シグルズ。私を舐めないで欲しいものですね」
「わたくしも、あなた方に後れを取る訳には参りません」
「……そうだな。失礼だった。では早速、ルーズベルトを殺しに行こう」
「兵らの指揮は大丈夫なのでございますか?」
「僕の部下のオーレンドルフ幕僚長に任せてある。彼女ならば問題ない。ともかく急ごう。時間をかければその分、味方を失ってしまうからね」
各々が指揮権を居残りのものに移譲すると、三名は早速ルーズベルトを殺しに出陣した。しかしそんな簡単なことを、ルーズベルトが予期していない訳もない。両軍が激しく衝突するのを眼下に飛行していると、またしても彼女が現れたのである。
「イズーナ……またお前か」
シグルズの前に立ち塞がったのはイズーナであった。やはりルーズベルトと組んでいるのだろう。
「前回は、よくも、出し抜いてくれたな」
「戦いとはそういうものだろうに。恨みっこはなしにしてもらいたいね」
「別に、恨んでは、いない」
「そう、か。ならそこをどいてくれないかな?」
「それは、出来ない。まだアメリカに滅んでもらう訳には、いかない」
「シグルズ、無駄ですよ。彼女が白人を滅ぼすのを止めない限り、説得は無意味です」
「だったら、殺すしかないか」
「……はい」
殺すと言われると、クロエは乗り気にはなれなかった。イズーナの肉体は、見た目は、彼女の最も忠実な家来であるマキナそのものなのだから。
「しかし、いかにすれば彼の者を殺せるのでございましょうか?」
「正確には殺すことは不可能だが、イズーナの心臓を抉り出して肉体を再生出来ないように封印することさえ出来れば、無力化することは出来る」
イズーナは心臓さえあれば復活する化け物であり、かつその心臓は既存のいかなる技術でも魔法でも破壊することは出来ない。心臓を肉体が再生出来ないように閉じ込めるしかないのだ。
「クロエ、安心してくれ。殺すんじゃない。無力化するだけだ」
「え、ええ、そうですね。ならばとっととやってしまいましょう」
戦う以外の選択肢はクロエにはない。クロエは覚悟を決めると、剣を作り出して容赦なくイズーナの胸に投げつけた。が、その剣はイズーナの胸に当たると軽々と弾き返されてしまった。
「私の剣が、こんな簡単に……」
「クロエ、無駄だ。そんな簡単に彼女の心臓を抉り出すことは出来ない」
「じゃあどうすればいいんですか?」
「波状攻撃を仕掛け、イズーナに隙を出させるしかない、かな。僕達に出来るかは分からないけど」
ただ一人、女王ニナだけがそれをやってのけた。種々な魔法をレギオー級の魔女並みに使える女王がいて、ようやく互角に持ち込めたのである。果たしてシグルズとクロエと朔とを足して女王に及ぶだろうか。
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