第七十四章 アメリカ本土決戦
アメリカの正体
アメリカ艦隊に勝利した人類連合艦隊は、大天使ルシフェルからもたらされた情報を信じ、かつてグリーンランドと呼ばれた地の西海岸を北上していた。
「しかし、一体どのような場所を探せばいいんだ?」
レーダー中将は呟くようにシグルズに問う。アメリカの本拠地、或いはルーズベルトの本体がどういう見た目をしているのか、全く情報がないのである。
「僕にも分かりません。しかし戦艦やら航空母艦やらが出てくるのですから、見れば分かると信じています」
「楽観的だな、君は……。だが、そう信じる他にないか」
もしも地中に小さな部屋があるとかだったら、どうしようもなかったであろう。実物は流石に分かりやすいものであった。
「か、閣下! 前方に船のようなものを確認しました!」
「船のようなもの? どういうことだ?」
「そ、それが、船が半分だけしかないないようなものが、沿岸に置かれているとのことで……」
「何だそれは……?」
やがてそれに近付くと、見張りの言葉は全く嘘ではなかったことが明らかになった。後ろ半分しかなく、まるで設計図のように綺麗に断面が見える、船の一部のようなものが、陸地に少しだけ乗り上げるようにして幾つか並んでいたのである。
「まさかこれが、アメリカの軍艦が生まれる場所とでも言うのか……?」
「そのようですね。半分だけしかありませんが、僕達を遥かに上回る技術で造られた戦艦であることは、間違いありません」
「時間をかけていれば、これが襲いかかって来たということか……」
「恐らくは。ですがこれで、アメリカがどこにあるのか分かりました。上陸作戦を開始しましょう」
「あ、ああ、そうだな」
輸送艦隊に満載された部隊が、異様な艦艇達の側に上陸を開始した。ゲルマニアからは第88機甲旅団が参戦し、ヴェステンラントと大八洲からはそれぞれ5千が参戦した。そしてシグルズはこの軍団と第88機甲旅団を指揮するべく、雪の降りしきる大地に上陸し、いつもの指揮装甲車に乗り込んだ。
「ヴェロニカ、魔導反応はあるか?」
「友軍のもの以外は、全く確認出来ません。不気味なくらい静かですね……」
「それはそれで困るな。どこを目指せばいいか分からないじゃないか」
「師団長殿、取り敢えずは斥候を出したらどうだ?」
オーレンドルフ幕僚長はそう提案した。シグルズがすぐにヴェステンラント軍に要請して魔女を飛ばしてもらうと、それらしき建物を発見するのに時間はかからなかった。
「ヴェステンラント軍より報告です。北北西およそ2キロパッススに、巨大な建物を発見したとのことです」
「敵は、見えなかったのか?」
「はい。特に見えなかったとのことです」
「それは妙だな……」
「私も同感だ」
アメリカ軍は兵士を無限に作り出すことが出来ると推測されている。先程作りかけの戦艦が放置してあったように、兵士を製造する場所がある筈だ。それが見つけられなくとも、ヴェステンラント大陸に送り込まれる途中の兵士くらい見つけられる筈だ。にも関わらず、軍団は何も見つけられなかった。甚だおかしな話である。
「シグルズ様、ど、どうしますか?」
「敵の拠点が見つかったのなら、攻撃する他にない。全軍、アメリカ軍の本拠地に向けて進軍を開始せよ!」
機甲旅団と魔導兵の連合軍は雪原を進む。歩兵の速度に合わせなければならないので、目的地がすぐそこと言っても、戦車でひとっ飛びとはいかなかった。
敵の姿など全く見えない雪原を進むと、突然妙な報告が入った。
「シグルズ様! 前方に人がいるとのことです!」
「何? どういうことだ」
「ほ、本当に、人が一人だけで立ち塞がっているとのことです!」
「嫌な予感がするな。全軍止まれ! 僕が様子を見てくる」
こんな場所にいる人間など人間ではないに違いない。シグルズはすぐさま最前線に飛んだ。
「やっぱりお前か」
「先日はあなただけお会い出来ませんでしたね、ハーケンブルク中将」
「お前なんかとは会いたくなかったよ、ルーズベルト」
無駄に小綺麗な背広を着たルーズベルトがそこにいた。相変わらず不死身で神出鬼没である。
「で、何の用だ? お前がいくら不死身でも、僕達を止めることは出来ないだろう」
「ええ、その通りです。私一人、ではね」
「何を言ってるんだお前は」
「すぐに分かりますよ」
ルーズベルトは不敵な笑みを浮かべて指を鳴らす。すると突然、彼の背後に地平線を埋め尽くす、魔導兵の軍団が立っていたのである。
「ば、馬鹿なッ!」
「これこそが私の魔法。無際限に現れるアメリカ兵は全て、私の魔法で作られていたのですよ」
「……そんな便利な魔法が使えるのなら、どうしてこれまで一度も使わなかったんだ?」
シグルズはこれもルーズベルトのハッタリではないかと疑った。が、ルーズベルトの答えは最悪のものであった。
「ここでしか使えないから、ですよ。この辺り一帯は私の力の源。ここでならば私は、いくらでも好きなものを作り出せるのです。もちろん無限にね」
「ははっ、面白いじゃないか……」
極寒の地と言うのに、冷や汗が滴り落ちた。
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