トルーマンの処刑

 上甲板にはまだ魔女達は戻って来ていなかった。それもそうだろう。シグルズはトルーマンを取っ捕まえてすぐ戻って来ただけなのだから。


「わ、私をどうするつもりだ!?」

「どうするか? 決まってるだろう。今すぐこの場で処刑する」

「ば、馬鹿なことを言うな! 裁判もなしに処刑するなどあり得ん!!」

「裁判ねえ。お前は一旦何十万人の日本人を殺した? その一人一人に裁判をしたのか?」

「そ、そんなのは詭弁だ! 国家の指導者が国策の責任を取らされる訳がないだろ!!」

「ははっ、お前、どの口がそれを言ってるんだ? 貴様が処刑させた日本人は一体何人だ?」

「そ、それは……」


 トルーマンはようやく静かになった。自分がかつて行った虐殺を正当化する方法が思い付かなかったからだ。


「まあ真面目な話をすると、僕は中将なんだ。こう見えて人類艦隊で一番先任の将軍の一人でね。だからお前を処刑する権限はしっかりある」

「か、仮にそうだったとしても、軍事法廷を開くべきだ!!」

「……見苦しいぞ。貴様は裁判なしに何人を処刑させた?」

「さ、裁判はきちんとしたじゃないか!! お前、極東国際軍事裁判を聞いたことがないのか!?」

「そんな茶番が裁判だとでも? これだからアメリカ人は、法律を守るという概念がないんだ。やはり貴様は裁判にかける価値もない。そもそもアメリカなど国際法の保護の外にあるしな。僕の判断で処刑させてもらう」

「ま、待て!! 待ってくれ!!」

「待つ訳ないだろ。貴様に、原子爆弾に殺された人々は、事前に予告もされなかったんだ。事前に死を宣告されているだけ幸運と思え。さあ、どう処刑しようか」


 シグルズは最早、トルーマンの言葉に聞く耳などなかった。直接話してみれば彼なりの正義が聞けるかもしれない僅かな望みもあったが、所詮はアメリカ人の頭目に過ぎない下劣な男であった。トルーマンについて考えることは、トルーマンをどうやって処刑するかだけである。


「そうだな、本当は原子爆弾で殺したいんだが、残念ながらこの世界に原子爆弾はない。出来るだけそれに近い死に方としては……やっぱり火炙りか。いや、火炙りは焼け死ぬ前に窒息死すると言うし、よくないな」

「シグルズ、何をしてるんですか?」


 その時クロエが戻って来た。トルーマンが煩いので一旦殴って黙らせると、シグルズは事情を説明した。


「――出来るだけ苦しんで死ぬ方法ですか」

「ああ、そうだ。何かないかな?」

「直接炎で焼かず、鉄板の上で焼くのがいいのでは? 全身の皮膚が焼け爛れるまで生きてますよ」

「なるほど。それはいいな。早速準備しよう」


 全身火傷で死ぬというのは、トルーマンにもお似合いの処刑方法である。クロエは処刑装置として、人間が屈めば何とか入るくらいの狭い鉄の箱を作り出した。


「これを外から焼けば、中の人間は最大限に苦しんで死にますよ。ああ、しっかり空気穴を開けておかないとダメですが」

「何で君はそんなに手慣れているんだ?」

「普通に我が国の処刑方法の一つですので。まあ数年に一人執行されるくらいの重罪に限られますが」

「そ、そうなのか。まあトルーマンはそんなものじゃ済まないくらいの悪人だ。すぐに処刑しよう」


 シグルズはトルーマンを鉄の箱に入れて叩き起し、すぐに鉄の蓋をした。箱の側面には僅かに空気穴を開けた。


「ま、まさか、この中で私を焼き殺そうと言うのか!?」


 トルーマンは怯えた声で叫ぶ。自分の運命を予想してしまったらしい。


「ああ、そうだ。貴様はゆっくりと、その中で全身を焼かれ、苦しみながら死ぬんだ。貴様が殺した人達の苦しみを、少しでも味わうといい」

「ま、待ってくれ!! お願いだ!! せめてもう少し楽な方法で殺してくれ!!」

「醜いな。本当に醜い、貴様は。貴様に楽に死ねる権利がある訳ないだろ。執行する」


 トルーマンはひたすらに何かを叫び続けていたが、シグルズは全て無視した。シグルズは水から魔法で炎を起こし、鉄の箱を下から焼く。シグルズの炎はそこまで強くないが、トルーマンをゆっくり殺すのには都合がいい。


 トルーマンは足元が赤熱し壁や天井までが赤熱していく中でのたうち回り、30分ほどで動かなくなった。


「これは死んだと思っていいのかな?」

「動かなくなっても生きていることはありますよ」

「まあ、いいか。トルーマンなんかに時間を使うのは勿体ない。この箱ごと海に捨てて、万一生きていたら溺死させよう」

「それがいいですね」


 シグルズは鉄の箱ごとトルーマンを海に捨てた。これにて処刑完了である。


 人類史上最悪の虐殺者でありながら穏やかに死んだトルーマンに天誅を下すことが出来て、誰にも地球のことは言えないが、シグルズは感無量であった。


「さて、ルーズベルトを滅ぼせば、この戦争は終わる。あと一歩だ」

「そうであることを祈っています」


 エンタープライズには結局、艦載機の一つも残されていなかった。魔女達は念の為に艦橋や飛行甲板を破壊すると、人類艦隊の許へ帰還した。アメリカ海軍は完全に壊滅したのである。

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