アメリカ艦隊の終わり
ルーズベルトの弱点は、魔法の発動を操り人形の視覚に頼っていることである。そもそも世界のどこでも好きに魔法を発動出来るのなら、こんな戦争を起こす必要すらないのだ。視界を奪われ四肢も奪われたルーズベルトは、自らの肉体を再生させることすら出来ず、胸から上だけで血の海に漂うことしか出来なかった。
「さあ、皆さん、今のうちにこんなところ出ましょう」
クロエが呼びかけると、クラウディア、オリヴィア、朔はルーズベルトの残骸を横目に立ち去る。
「ではルーズベルト、もう二度と会わないことを祈っていますよ」
「いずれまたお会いする時もあるでしょう。楽しみにしていますよ」
「まったく、気持ち悪い」
クロエもその場を去った。アイオワの艦橋とすべての主砲を破壊した魔女達は、早々にアイオワを後にして人類連合艦隊旗艦たる鳳翔に舞い戻った。武装も機関も失ったアイオワは、最早ただ浮いているだけの鉄の塊であった。軍艦としてはこの上ない屈辱であろう。
レギオー級の魔女達が去った後、アイオワの甲板にはイズーナといつの間にか回復しているルーズベルトの姿があった。
「主砲は、どうなったのだ?」
イズーナはルーズベルトに問う。ルーズベルトは肩を竦めて答える。
「残念ながら、主砲塔は全て無力化されてしまいました」
「お前の魔法で、直せないのか?」
「申し訳ありませんが、それは不可能です。私の魔法はあくまで、私が保管している過去に存在した兵器を呼び起こすことしか出来ませんから」
「なれば、アイオワの戦闘能力は失われた、ということか?」
「はい。アイオワは今や、海を漂うことしか出来ません」
「どうする、つもりだ? アメリカはまだ、滅ぶべきではない。今はまだ、人類と殺し合ってもらわねば」
「ご安心を。地上にはまだ多数の軍団が残っております。決して人類軍などには負けませんよ」
「負けることは、許さん」
白人を殲滅することを最終的な目的とするイズーナは、アメリカにまだ滅んでもらう訳にはいかなかった。白人を殺し尽くした後で、イズーナがアメリカを滅ぼすのだ。
○
「――このように、アイオワの戦闘能力は完全に奪いました。今や全く脅威ではありません」
シグルズはレーダー中将にアイオワでの戦闘の一部始終を説明した。
「そうか……。よくやってくれた……。本当に、ありがとう」
レーダー中将は涙ぐみそうになりながら話すが、シグルズにとっては大した仕事ではなかった。
「はっ。しかしまだ、敵の特攻機がどこから現れたのか分かりません。警戒が必要かと」
「そうだな……。とは言え、我が軍に残された戦闘艦艇は、艦載機のない航空母艦が二隻だけだ」
「戦力としては僕達がいます。ともかく今は、敵の全容を把握することに努めましょう」
「その通りだな。全艦、巡航速度で航行を再開せよ」
前進すると、やがて人類艦隊はアメリカ海軍の空母を発見した。既に艦載機を使い果たしたエンタープライズである。両軍共に艦載機のない空母しか海上戦力は残されていないのだ。
「あれは……エンタープライズ……?」
「艦載機は見えないな。敵も我々と同じ状況、ということか」
「提督、今回も僕達の出番でしょう。敵の空母に本当に艦載機が残っていないのか、確認してきます。それに敵の司令官などを捕縛出来るかもしれません」
艦隊の司令官は後方の大型艦でふんぞり返っているのが相場だ。シグルズはエンタープライズにアメリカ軍の高級将校がいると踏み、先程アイオワを攻撃した面々を率いてエンタープライズに飛んだ。
○
エンタープライズはまるで無人であり、対空砲火すらなかった。対空兵器はそれなりに装備されているというのに。シグルズはアメリカ軍の司令官を捕縛出来る可能性が最も高い艦橋に向かい、他の魔女達は艦内の捜索に向かった。
シグルズはエンタープライズの艦橋の窓を叩き割り、無理やり侵入する。すると艦橋の奥に、物陰にうずくまっている背広を着た人影を発見した。
「お前は誰だ? 両手を上げてこちらを向け!」
シグルズは拳銃を向ける。人影はすぐにシグルズの指示に従った。その子男の顔にシグルズは見覚えがあったが、男はすぐにシグルズに縋るようにして話し出した。
「た、助けて下さい! 私はルーズベルトに無理やり働かされていたのです!」
「……名前は?」
「トルーマン、ハリー・S・トルーマンです! どうか撃たないで下さい!」
「ほう。偽名でも使うかと思ったが、案外簡単に自白するじゃないか」
シグルズは拳銃の引き金に指を掛けた。
「な、何を……」
「人類最悪の虐殺者、ルーズベルト大統領の跡を継いだトルーマン大統領、まさかお前もこの世界に召喚されているとはな」
「ま、まさか、お前が日本人の転生者とかいう奴なのか!?」
「ああ。大体、こんなに魔法が使える男なんてこの世界に僕しかいないだろう。さあ、着いてこい。お前を逮捕する」
「や、やめろ!!」
シグルズはトルーマンに銃を突きつけながら手錠をかけ、手錠を引いてエンタープライズの上甲板に連行した。
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