魔女の攻撃

「これは遺憾なんだけど、私が出ることにしよう。陛下は安全なところにいて」


 クラウディアは自ら出陣してシャルンホルストを攻撃することを決めた。アリスカンダルを護衛することは出来なくなるので、彼には安全な船内に戻ってもらうように言う。


「言ったではないか。私は戦をこの目で見るのが好きなのだ。君がいなくても、私はここにいるよ」

「……人間は砲弾に当たったら死ぬ」

「心配ない。私にはこれがある」


 アリスカンダルは派手な装飾の施された、人間大の大盾を指さす。


「盾?」

「我が国の盾の製造技術を甘く見ないことだ。ゲルマニアの大砲も、これを貫くことは出来ぬ」

「……分かった。死んでも自己責任だから、よろしく」

「無論だとも」


 アリスカンダルは盾一枚を頼りに、引き続き甲板の上で観戦する。そしてクラウディアは一人、船のへりに立った。。


「さて……水を集めよう」


 クラウディアは魔法の杖を海に向けて構えた。すると、海水がゆっくりとせり上がり、ソレイユ・ロワイヤルとシャルンホルストの間に橋のように、水が不自然に固まった。


「凍れ」


 そして、その水が全て、氷となった。両艦の間に氷の橋が出来たのである。更に魔法をかけ、橋の両端を伸ばし、両艦の甲板に無理やり繋げる。古代のような戦術であるが、これでソレイユ・ロワイヤルとシャルンホルストの甲板は繋がった。


「今だ! 敵艦に突入せよ!」

「「おう!!」」


 クラウディアは兵士を率い、その先頭で巨大な氷の壁を作り持ち上げながら、氷の橋を駆け抜ける。ゲルマニア兵は機関砲で真正面から射撃を行うが、レギオー級の魔女が作る壁を破壊することは出来ない。


「さあ、終わりにしようか」


 ついにシャルンホルストの甲板に到達したクラウディア。氷の壁を叩きつけて正面のゲルマニア兵を一掃すると、兵士達が一気になだれ込む。そして白兵戦が始まった。


 機関砲も乗り移られれば意味がなく、ゲルマニア兵は突撃銃や機関短銃で応戦する。


「これすらも、想定内ということか……」


 シャルンホルストの甲板にはやけに多くの、兵士の動線の邪魔になるような物資や障害物があった。平時においてはただの邪魔だが、このような場合では兵士を守る盾になる。ゲルマニア兵はそこかしこに設置された遮蔽物に身を隠しながら、魔導兵に応戦する。


「隠れながら射撃……いや、それでは勝ち目が薄い。勢いに任せるのが上策。全軍、一気に突破せよ! 敵はそう多くはない」

「「おう!!」」


 持久戦は不利だと判断したクラウディア。兵士達の突撃で、ゲルマニアの防衛線を強行突破することを選んだ。魔導兵は損害を顧みずに突進し、何人かが打ち倒されながらもゲルマニア兵に到達し、魔導剣で一刀両断した。


 各方面で勢いはヴェステンラント側にあり、ゲルマニア側は押される一方。


「よし。これなら勝てる――っ!」


 その時だった。クラウディアが造った氷の橋で大きな爆発が起こり、両端を僅かに残して海中に没した。


「攻撃を受けた?」

「レギオー級の魔女を出すのは、あまりいい作戦ではないよ」


 クラウディアに上から呼びかけるのは、白い翼で宙を舞う、若いゲルマニアの兵士であった。


「君は……シグルズか。直接会うのは、まだ二回目かな」

「ああ、そうだね。お互いにお互いの造った兵器が散々潰しあって来た訳だが」

「そうだね。それで、私を殺しに来たのかな?」

「まあ殺せるのなら殺すかな。主目的はあくまで君を自由に動かさないことだけど」

「なるほど」


 戦況を一人で変えられるレギオー級の魔女。しかしその参戦は慎重に決断するべきだ。何故なら敵も遠慮なくレギオー級の魔女を出してくるからである。


「でも、私はあんまり戦いには向いていないんだよね。お互いに帰るってことで手を打てないかな?」

「そっちが有利過ぎる約束だね。残念ながら、受け入れ難い」

「はぁ。仕方ない」


 クラウディアは黒い翼を広げてシグルズと同じ高さまで飛び上がる。真っ黒い衣装と合わせて悪魔のようだ。


「さあ、来るといい。私は君を殺せる気がしないから」

「望むところだ」


 シグルズは手始めに四連装対空機関砲を空中に作り出し、クラウディアに向けて全力で射撃を行う。クラウディアは即座に氷の壁を作ってそれを全て防いだ。


「氷なんかで機関砲が防げるのか……」

「氷を舐めない方がいい」

「それなら、こうしよう」


 シグルズは巨大な戦車砲を作り出し、クラウディアにその砲口を向けた。


「これで終わりだ」

「それはどうかな」


 シグルズは徹甲弾を装填し、クラウディアに向けて放った。巨大な反動は魔法でも抑えきれず、砲身が後ろにすっ飛んだが、砲弾はしっかり真正面に飛んだ。


「……何? これでも貫けないのか」

「君の最高火力はその程度かな?」


 氷の壁に砲弾が突き刺さっているものの、クラウディア自身は無傷であった。流石はレギオー級。戦車砲程度では死なないのである。


「まあいいさ。だが、君の兵士達はシャルンホルストで孤立している。いずれ殲滅されるよ」

「シャルンホルスト? ああ、船の名前か。まあ確かに、そうかもしれないね」


 クラウディアは無表情に言った。


「何か作戦があるのか……。そう言えば、君達の船の名前は?」

「こっちはソレイユ・ロワイヤル」

「大層な名前を付けたもんだ」


 シグルズとクラウディアは睨み合いを続ける。

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