新戦艦Ⅱ

「敵艦、我が方に近付いて来ます!」

「やはり機動力では向こうに分があるか。副砲で応戦しよう。シャルンホルストならば、それで十分だ」


 ゲルマニアの新戦艦、シャルンホルスト級戦艦一番艦シャルンホルスト。その艦長はいつも通りにシュトライヒャー提督――ではなく、ブリタンニア海軍軍人のネルソン提督であった。老人ばかりの高級将校の中ではかなり若く、兵士からの人気も高い。


 そして、彼が指揮していることから分かるように、あくまでこの艦隊は枢軸国艦隊であり、ゲルマニア艦隊ではない。ヴェステンラント方面が枢軸国第一艦隊であり、地中海に展開するこちらが枢軸国第二艦隊ということになっている。


 ちなみにシュトライヒャー提督はヴェステンラント方面の艦隊を受け持っている。


 さて、敵艦ソレイユ・ロワイヤルは、魔法の力で通常の船なら不可能な機動を行い、位置取りにおいては向こうが主導権を握っていた。しかし、例え主砲の懐の内に入られようと、シャルンホルストは十分な火力を持っている。


「撃ちまくれ! 敵のエスペラニウムを使い果たさせるんだ!」

「はっ!」


 地球の言葉で言えば、大きさは超弩級戦艦であるが、前弩級戦艦的な武装配置をしているシャルンホルスト。その舷側にはガレオン船や戦列艦のように、すぐ横の敵を狙う副砲が大量に設置されている。片方だけで小型砲48門、中型砲16門である。


 その火力を以てして、シャルンホルストより巨大なソレイユ・ロワイヤルの側面に無数の風穴を開ける。しかしそれらの損傷は、一瞬にして修復され続ける。


「やはり、効いていないようです」

「普通の船なら一撃で沈むような攻撃を、何事もなかったかのように修繕してしまう。これがヴェステンラントの本気か」

「え、ええ」


 撃ち合うこと十数分。ソレイユ・ロワイヤルはあらゆる損傷を完全に修復し、それに対してシャルンホルストはいくつかの副砲を破壊され、徐々に消耗していた。


「わ、我々の方が一方的に消耗していますが……」

「狼狽えるな。敵とて、絶え間なくエスペラニウムを消耗し続けている。全て予想の範囲内だ」


 以前のイズーナとアトミラール・ヒッパーの戦いの様子は、ネルソン提督らもよく聞き及んでいる。今のところは全てがネルソン提督の予想の範囲内で推移している。


「小型砲は、左舷の砲を右舷に移せ! 中型砲については、諦めるしかないが」

「はっ……!」


 艦内に軽く固定してあるだけの小型砲は、交換することも容易である。だが装甲と一体化している中型砲については、どこかの工廠に立ち寄らないと修理が出来ない。


 そうして交戦を続けること、更に十数分。


「敵艦、更に接近してきます!」

「白兵戦で決着をつけるつもりか。昔ながらでいいじゃないか、と言いたいところだが、乗り移らせはしない。甲板、近接戦闘用意!」


 ソレイユ・ロワイヤルは体当たりせんとばかりの勢いで距離を詰め、横付けして兵を送り込む算段だろう。マトモな大砲がなかった中世の戦術である。


「敵艦、すぐそこにっ……!」

「甲板機関砲、射撃開始! 敵を近寄せるな!」


 お互い、人間の姿を視認出来るほどの距離にまで近付いた。そこでネルソン提督は、シャルンホルスト甲板上に100基ほど備え付けられている機関砲の斉射を開始させた。ソレイユ・ロワイヤルから乗り移ろうとする魔導兵達に、先手を打って弾丸の嵐を浴びせてやるのである。


 アトミラール・ヒッパー級は白兵戦への備えを後から増設していったが、シャルンホルスト級は設計段階から魔導兵との戦闘を考慮し、徹底的に接近を拒否する武装が搭載されているのだ。


 しかし、ヴェステンラント軍も考えていることは同じようだ。


「敵軍の弓です!」

「防楯に隠れながら撃つんだ!」


 ソレイユ・ロワイヤル甲板上に並んだ魔導兵が、弓や弩でシャルンホルストの甲板に激しい射撃を行う。無数の矢は雨のように飛来し、甲板に突き刺さって針山の様相を呈する。兵士達は機関砲に取り付けてある防楯に身を隠しながら射撃を続けるが、側方や上方から飛んできた矢は防げず、次々と矢に貫かれてしまう。


「我が方、押されているようですが……」

「クッ……甘く見ていたな。これでは負傷者を回収することもままならない……」


 矢の雨が降り注ぐ甲板。自由に動くことすら出来ない。


「て、提督……」

「とにかく撃ち続けよ! 当たれば奴らも無事では済まん!」


 機関銃ではなく機関砲だ。一発当たりの威力は段違いであり、重歩兵の魔導装甲とて数発で破壊出来る。


 至近距離で並行する両艦は、互いに激しく矢と銃弾を交換し続ける。


 ○


「クラウディア、敵の備えは予想以上のようだが?」

「……確かに。あれだけの機関砲、一瞬でこちらも全滅する」


 片方が苦しい時、もう片方もまた苦しい。黒公クラウディアは、シャルンホルストの持つ強大な火力に、移乗攻撃に踏み切れないでいた。


「では、空から攻めるか?」

「対空機関砲もあるに決まっている。空からも無理」

「では、どうする?」

「それを今考えている」

「面白い案が出ることを期待するよ」

「…………」


 楽しそうにしているアリスカンダルに、クラウディアは少々苛ついた。

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