第二計画
「大将閣下、誠に遺憾ですが、作戦の中止を具申致します」
シグルズは結局、ザイス=インクヴァルト大将に作戦中止を提案するという貧乏クジを引くことになってしまった。
『うむ。君から見ても、厳しいか』
「はい。敵の防衛線は非常に堅固。突撃銃と最高の索敵能力を持つ我々だから何とかなりましたが、他の師団は相当に厳しいかと」
『なるほど。分かった。作戦は中止とする。すぐに全軍に命令を下すが、現状は維持せよ』
「はっ」
この決定の早さ、ザイス=インクヴァルト大将は既に作戦中止を決め込んでいて、誰かにその責任を負わせたかったらしい。何ならこの事態を想定してシグルズを中将に昇格させたのではなかろうか。
「それで、閣下、次の作戦はもう用意してあるのでしょうか」
『もちろんだとも。ガラティアが誇る国家要塞、そう簡単に突破出来るとは思っていない』
「やはり、ですか……」
『そういう訳で、君にはそちらに合流してもらう。君だけでいい。本国に戻ってきてくれ』
「はっ」
かくしてシグルズは自分の機甲旅団を前線に置いて一人本土に戻り、そして次の作戦に投入されるのであった。
○
ガラティア軍は第一防衛線が突破されるだけという想定内の損害でゲルマニア軍を撃退することに成功し、戦況は膠着状態に陥った。ゲルマニア軍が度々放ってくる噴進弾のせいで士気は低下気味だが、そのゲルマニア軍にも積極的な攻勢を行う余力はないようであった。
「――あのようなものが毎日、それもどこに落ちてくるのかも分からないのであれば、攻勢の支度を整えるのもままならんか」
「ええ、陛下。しかし、我々は負けなければよいのです。大した問題ではありません」
オーギュスタンは言う。が、アリスカンダルはあまり納得していない様子。
「そうだろうか。こちらから反撃に出られないのであれば、いずれは緩慢な敗北が待っているだけではないかな?」
「ゲルマニアは、攻めようが守ろうが、戦争を続けるだけで国力に多大な負担がかかります。戦争の長期化で得をするのは我々だけです」
「なるほど。確かに国力への負担度合いは段違いだろうな。まあ、ゲルマニアの生産能力は毎日のように伸びているがな」
アリスカンダルにとって、陣地を守り続けることは趣味ではなかった。彼にとっては野戦に打って出て敵を壊滅させることこそ、戦争の醍醐味なのである。などと論争をしている時であった。
「陛下、ゲルマニア艦隊が出撃したとのこと! 目的地は地中海かと!」
「ほう。地上から攻めるのは諦め、海から攻めようという魂胆か」
これ自体は予想されていたことである。アリスカンダルは特に驚くことはなかった。が、一番興味を示したのは黒公クラウディアである。
「敵の艦隊の規模は?」
「確実なことは分かりませんが、50隻程度の艦隊とのことです」
「その中に戦艦はある?」
「そこまでは、何とも……」
「分かった。なら偵察隊を向かわせる。陛下、念の為、全艦隊を集めておいてください」
「ゲルマニアは本気だと言うことか?」
「本気かもしれない。その時対処が間に合わなくなると困る」
「なるほど。分かった。艦隊を集結させておこう」
ゲルマニア海軍が牽制の為だけに出てくるというのは、あまり前例のないことだ。クラウディアは彼らがビュザンティオンを落としに来ていると判断し、アリスカンダルは彼女の言うように全艦隊を地中海に集結させた。
そうして2日後。
「――ゲルマニア艦隊の規模が判明した。敵は戦艦を擁している」
偵察隊――潜水船隊からの報告がクラウディアに届いた。ゲルマニア艦隊はやはり戦艦を中核とした、ビュザンティオンを落とすことを目的とした艦隊のようだ。
「そうか。で、君としてはどうするべきだと考える?」
アリスカンダルはクラウディアに問う。
「全戦力を投入し、戦艦を迎え撃つ。それしかないのでは?」
「戦艦を撃退出来なかったら?」
「ビュザンティオン全域が戦艦の主砲の射程に入り、防衛なんて言ってられなくなる。それとビタリ半島との接続が失われる」
「なるほど。では、地中海で迎え撃たねばなるまいな」
根本的に港湾都市であるビュザンティオンが海からの攻撃に脆弱なのは百も承知。加えて、地中海の制海権を失った場合、陸路での接続を失っているビタリ半島の軍勢が孤立する。全体の趨勢を左右するほどではないが、みすみすそれを許す訳にもいくまい。
かくしてアリスカンダルは、ゲルマニアとの艦隊決戦に挑むことを決定した。
○
「――まさか、こんなものを既に建造していたとはな」
「イズーナ級は元より量産するつもりだった。このソレイユ・ロワイヤルはその一つに過ぎない、です」
アリスカンダルとクラウディアは今、巨大な帆船の艦橋にいた。イズーナ級魔導戦闘艦二番艦、ソレイユ・ロワイヤルである。戦艦ブリュッヒャーを相打ちながら沈めることに成功したイズーナ級魔導戦闘艦。現状唯一の戦艦に対抗出来る船を、造らない訳がない。
「しかし、これまでの艦名は王族の名前だったというのに、急に普通名詞になるのだな」
「それは……沈むと名前の由来になった人に失礼だし縁起が悪いから」
「まるで最初から沈む気のようじゃないか」
「そんな気はない」
両軍共に最高戦力を用意し、決戦の時が迫る。
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