第六十二章 ビュザンティオン攻略戦

帝都ビュザンティオン大要塞

 ACU2315 5/28 ガラティア帝国 ガラティア君侯国 帝都ビュザンティオン北方


 ゲルマニア軍はガラティア君侯国の西半分に当たるアイモス半島を僅か2週間で(ワラキア領を除き)制圧した。ガラティア軍の抵抗は僅かであり、道中の城や砦は少々砲撃を加えればすぐに降伏した。


 かくしてゲルマニア軍90万は、アイモス半島の南東の端、帝都ビュザンティオンに迫っている。その中にはシグルズ率いる第88機甲旅団もあった。


「流石はアリスカンダル陛下が自慢するビュザンティオン大要塞。これは骨が折れそうだ」


 シグルズは双眼鏡で、地の果てまで広がる塹壕線を眺めている。


 大地の果てから果てまで幾重にも塹壕線が並び、更に数十パッスス間隔で丸太と石とで固められた掘っ立て小屋のような特火点(トーチカ)が配置されている。個人用の要塞なようなもので、砲弾の直撃にも耐え得る防御陣地に、機関銃などを撃つ為の小さな穴だけが開いている。ガラティア軍が何を撃つ気なのかは謎だが。


 また塹壕線の先にはビュザンティオンを直接守る厚い城壁があり、これも飾りではないようだ。何はともあれ、この大量の塹壕を突破しなければならない。


「恒久要塞として強化された塹壕、と言ったところか。しかし、外交官などはこれを見たことがあるのではないのか?」


 オーレンドルフ幕僚長は問う。確かに帝都の目前にあるこの要塞線は、ビュザンティオンに行き来する者なら見た事のある筈だ。


「この辺りを通る時は列車のカーテンを閉めさせられていたそうだ。それには期待出来ないね」

「なるほどな。そのくらいはこっそり覗き見して欲しかったものだが」

「そんな無礼をしたら外交官として入れてもらえないだろうね」

「それもそうか」


 この大要塞について、ゲルマニアはこれまでほとんど何も知らなかった。ガラティアが本腰を入れて情報統制を行っていたということである。それはガラティアの本命がこの要塞であることを意味する。


「ヴェロニカ、敵はどのくらいいる?」

「正面1キロパッススの範囲に、3千人程度が確認出来ます」

「最低でもそれか。これは、無策に攻めたらとんでもない犠牲が出るぞ……」

「ゲルマニアの塹壕より凄そうに見えるのですが……本当に勝てるのですか……?」

「それはザイス=インクヴァルト大将のご命令次第かな。僕達は言われたことをやってればいいんだ」


 この大軍団の中においては第88機甲旅団はほんの一部に過ぎない。勝敗は参謀本部の采配次第だろう。


「あ、シグルズ様、司令部より通信です。威力偵察を行う。他の部隊は引き続き待機せよとのことです」

「威力偵察か。犠牲になる師団は可哀想だけど、見守るしかないね」

「そ、そうですね……」


 敵の装備や練度を知る最も手っ取り早い手段は敵にぶつかってみることだ。当然ながら犠牲は出るが、全体として損害を抑える為にはこれが一番である。一応は精鋭部隊である第88機甲旅団は、そんなことには動員されない。


「第152、153、156師団が動き始めました」

「さて、どうなるかな」


 5万人程度の小部隊(まあゲルマニア以外の基準では大軍だが)で攻撃を仕掛け、敵の様子を見る。シグルズのいる戦線中央から、その様子を確認することが出来た。


 これまでの塹壕突破戦術通り、戦車を先頭に立てて兵士を守り、砲撃と銃撃を行いながら全速力で突撃する。


「おっと、戦車がやられた」

「やはりヴェステンラント軍が大々的に入っているようだな」


 戦車が次々と大破炎上し、兵士達も矢に貫かれる。敵には弩砲が配備されているのだろう。それでも歩みを止めずに進軍するが、途中から流れが変わる。


「まさか……機関銃を使っているのか……?」

「そのようだな。そもそも、あのような陣地から弓を射るのは難しいだろう」

「面倒なことを……」


 ガラティア軍は機関銃を各所の特火点に設置し、迫り来るゲルマニア兵を銃撃している。非装甲目標に対しては弓矢などとは比較にならない制圧力を持つ機関銃。生身の兵士は草刈りをするように薙ぎ倒された。


「ど、どうしてガラティア軍が機関銃なんて使っているのでしょうか?」

「ゲルマニアが輸出したものだろうね。とは言え、彼らに弾丸を供給する能力はない。既に輸出した弾丸を使い切れば、それで終わりだ」

「それはどうかな、師団長殿」

「何か思うところでもあるのか?」

「敵軍は明らかに機関銃の使用を前提とした陣地を構築している。一時的にしか使えない兵器の為に、そんなものを造ると思うか?」

「確かに不合理だが……なら、幕僚長はガラティア軍が機関銃弾を生産する能力を持っていると言いたいのか?」

「その可能性は高いだろう。銃本体が作れずとも、弾薬だけならルシタニアでも作れるのだ。以前からゲルマニアの武器を研究していたガラティアなら、その程度の技術を手に入れていてもおかしくはない」

「本当にそうなら、大変じゃないか」


 中近距離の対歩兵戦闘において絶大な威力を発揮する機関銃。装甲車両を貫く弩や弩砲。そして白兵戦の剣。どの距離でどの対象にも有効な打撃力をこの要塞線は持っているのだ。

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