第六十一章 世界大戦

大八洲動く

 ACU2315 5/15 大八洲皇國 潮仙半嶋


「ゲルマニアとガラティアの戦、ついに始まったか」


 関白となった伊達陸奥守晴政であるが、彼が安全な都でのんびりと政治をしている訳もなく、諸大名を率いて潮仙半嶋に渡り、大本営の指揮を自ら執っていた。


「武運が開けましたな、晴政様」


 晴政の知の副将、片倉源十郎は言う。


「ああ、そうだ。この時を待っていた。今こそ、神州より夷狄共をを打ち払い、天下に静謐をもたらす時である!」

「しかし、ガラティア勢には特に動きは見られませぬ。迂闊に動くは危ういかと存じ上げますが……」


 かつては上杉家の総大将であり、レギオー級の魔女の一人でもある長尾左大將朔は言う。上杉家は今や一大名に転落したために政治的な地位は微妙だが、レギオー級の魔女として晴政の側近のような地位にある。


「何、案ずることはない。奴らは後詰を失った。我らが動いても、攻め込んでは来ない」

「大丈夫でございましょうか……」

「ま、その時はその時だ。何とかする」


 大八洲国境を越えて攻め込んでいるガラティア軍。ゲルマニアとの戦争が始まってもその兵が引き抜かれることはなく、表面上は何も変わっていないが、やはり敗北した時に援軍を得られないというのは大きいだろう。危険な行動には出られない筈だ。


「よって、我らはこれより、総力を挙げ、ヴェステンラントを潮仙より叩き出す! 皆、異論はないな?」


 潮仙半嶋の中部に上陸し、それなりの領土を占領し続けているヴェステンラント軍。上陸地点を中心に城や砦を建設し、八万程度の兵力が詰めて大八洲軍と睨み合いを続けている。


 これをこの機に殲滅するのが晴政の計画である。この計画自体に反対する者は特にいなかった。


「関白として命ずる。ヴェステンラント人を一人残らず、皇国より追放せよ!」

「「おう!!」」


 かくして大八洲軍の反撃が開始される。


 ○


 大八洲軍は諸大名の軍勢を合わせて総勢十万を動員した。兵力で勝るが、攻城戦には本来敵の三倍程度の兵力を用意するのが望ましく、決して圧倒的に優勢な訳ではない。


「さて、それでは始めようか。毛利隊は北から、嶋津隊は真ん中から、北條隊は南の責め口から、それぞれ攻め上がるのだ」


 ヴェステンラント軍は複数の砦が連結した有機的な陣地を構築し、大八洲軍の反撃に備えていた。それに対して晴政は、大軍の利を活かして複数の攻め口から同時に攻撃を仕掛けるという、兵法書通りの作戦で攻略することを決めた。


「晴政様は出られないのですか?」


 源十郎は尋ねる。


「俺も出たいが、総大将がそう軽々しく動くものではない。それに、俺が動くのは奴が出てきた時だけだ」

「青の魔女シャルロットとかいう奴ね。あんなの私に任せればいいのに」


 伊達家の侍大將、関白に対しても不遜な態度は何も変わらない少女、鬼庭七石桐は言った。


「お前とて、奴を殺しきれなかったではないか」

「そ、それはそうだけど……」

「俺には秘策があるのだ。まあ楽しみにしておけ」

「秘策? 聞いてないんだけど」

「お前に言ったら秘策ではないだろう」

「あっそう。まあ勝手にすればいいわ。もう貴方が何をしようと咎める奴はいないんだから」

「そうだな。俺はそこまで上り詰めたのだな」


 数年前までは御家取り潰しを恐れて家臣達が晴政の妄言の火消しに追われていたが、今やそんなことをする必要はない。晴政は今や大名を取り潰す側の人間なのだ。


「ともかく、とっとと終わらせよう。ヴェステンラントなど恐るるに足らずだ」

「調子に乗ってヘマをするんじゃないわよ」

「俺はそんな阿呆ではない」


 晴政は後方の本陣でどっしりと構え、大名達をこき使うのであった。


 ○


「申し上げます! 十一番、十七番砦が陥落! 敵軍の勢いは全く衰えません!」


 海辺の城に司令部を構える黄公ドロシアに、敗北の報告が早速飛んできた。馬を走らせながら弓を構え、遠くの兵士達を精確に狙撃していく大八洲の武士達を前に、小規模な砦程度ではとても耐えられなかったのだ。


「こうなる気はしていたわ。まったく、最悪の展開ね。ガラティア軍は動かないの?」

「今のところ、動く様子はないようですが……」

「イブラーヒーム内務卿に通信よ。北方国境の守りが手薄になっているんだからとっとと攻め込めと言っておきなさい」


 ドロシアはガラティア軍に大八洲軍を背後から突けと要請する。が、返答は芳しくないものであった。


「ドロシア様、イブラーヒーム内務卿より、迂闊に兵を動かす訳にはいかず、今すぐ要請に応えることは難しい、とのことです」

「はぁ? 何ヶ月も引き籠って準備が出来てないなんて、言い訳にもならないわ」

「ドロシア、彼も孤立して苦しいのでしょう。自分から動けないのも無理はないと思います」


 青公オリヴィアは言った。晴政の読みとほぼ同じ見解であった。


「……チッ。使えない連中ね。これじゃあ何の為に連合国なんて茶番に付き合ってるんだか」

「まあまあ……。ゲルマニアとの戦争では、両国の協力に役立っていますし……」

「こっちには何もいいことがないじゃない」


 大八洲戦線においては、ガラティアとゲルマニアの戦争は大八洲にとっての利が大きかった。

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