枢軸国対連合国

 ACU2315 5/15 帝都ブルグンテン


「我が総統、我が軍は全ての戦線への兵力の配置を完了致しました」


 ザイス=インクヴァルト大将は、今や号令一つで戦争を開始することが可能なことを報告する。


「ヌミディア戦線に30万、ビタリ戦線に50万、ダキア戦線に20万、そして、アイモス戦線に150万を用意し、総計250万。帝国陸軍の7割を動員しました」

「うむ……。流石、仕事が早いな」

「ありがとうございます。アイモス戦線以外の部隊は全て防衛に徹し、逆にアイモス半島では、ガラティア帝国が帝都ビュザンティオンに向けて一直線に進軍、これを迅速に制圧し、スルタン陛下に降伏を迫ります。応じなければ、ガラティアの崩壊あるのみです」


 地球で言うところのバルカン半島を縦断し、イスタンブールに攻め込む。陸続きの侵攻であり、またガラティアとゲルマニアの長年の付き合いから両国の間には複数の幹線道路が存在し、ゲルマニアにとって条件は非常によい。


「分かった。作戦の実行はザイス=インクヴァルト大将に一任する。そう言えば、作戦名は決めたのか?」

「ええ、つい先日決定しました。ガラティア帝国を撃滅するこの作戦は、バルバロッサ作戦と命名します」

「バルバロッサ……大昔のゲルマニア王か」

「はい。彼の如く異民族を打ち倒すことを期待して名付けました」

「この戦争の目的は、世界に平和をもたらすことだ。決して敵の殲滅ではない。それだけは忘れるなよ」

「もちろんです」


 全ての戦争を終わらせる為の戦争。ヒンケル総統はこの戦争をそう見ている。全ては平和を勝ち取る為だ。


「それでは、我が総統、命令を。戦争を始めましょう」

「そうだな。……バルバロッサ作戦を、発動せよ」


 戦争は今、開始された。


 ○


 同日、帝都ビュザンティオンにて。


「陛下っ!! ゲルマニア軍が、ゲルマニア軍が動き始めました!! およそ100万と見られるゲルマニア軍が、一斉に国境を越え、南下を始めました!!」


 当然ながら、ゲルマニア軍が国境を越えた瞬間、アリスカンダルに報告が届いた。遂に戦争が始まったのだ。


「狼狽えるな。戦争はほぼ決まっていた。どちらが先に仕掛けるかの話でしかない。今回はたまたまゲルマニアが先に仕掛けただけで、何も不思議なことはない」

「陛下、申し上げます! 国境の砦が、ことごとく破壊された様子!!」

「だろうな。高々数百人の兵しかおらん砦でゲルマニアの攻勢を防げる筈があるまい」


 ゲルマニア軍はただ国境を越えて侵入しただけでなく、多数のガラティア兵を殺害した。これは脅しなどではなく、本物の戦争である。


「さて、ゲルマニア軍の狙いがここ、ビュザンティオンであることは疑いようはない。奴らがここに辿り着く前に足止めをしなくてはな」

「し、しかし、100万もの軍勢をどうやって……」

「ゲルマニア軍の物量は確かに圧倒的だ。この世界に存在する兵士の3分の2がゲルマニア人なのだから。だが、それが奴らの弱点でもある。連中は大量の兵士と物資を運ぶ為、街道を通らざるを得ない。奴らがどこから攻めてくるかは、ほぼ知れたことである」


 ガラティア軍やヴェステンラント軍はやろうと思えば不毛の荒野を駆け抜けて進軍することも出来るが、大量の物資を輸送し、それを車両に頼っているゲルマニア軍は、整備された街道から進軍するしかない。


 そしてこのような事態はずっと昔から想定されており、街道の要地には砦や城が建設されている。そこで迎え撃ちつつ、時間を稼ぐのだ。


「では文官諸君は、国内の安定化、物資の供給に全力を尽くしたまえ。そして武官諸君は、ヴェステンラント軍と合流するとしよう」


 アリスカンダルはスレイマン将軍と共に離宮に向かった。


「皇帝陛下のご入来である! 一同、控えられよ!」


 アリスカンダルは広い会議室に入る。そこではヴェステンラントからやってきた武将達が彼の到着を待っていた。


「これはこれは皇帝陛下、お初にお目にかかります。私はヴェステンラント合州国の赤公、オーギュスタン・ファン・ルージュと申します」


 会議室の一番手前で待ち構え、真っ先に恭しく頭を下げた男。ゲルマニアとひたすれ戦い続けてきた、赤公オーギュスタンである。


「ヴェステンラント一の策略家と音に聞くオーギュスタン殿か。心強い限りだ」

「ありがとうございます。必ずや陛下のお役に立ってましょう。そして、他の者も紹介します。こちらは白公にして白の魔女クロエ」

「はい。クロエ・ファン・ブランです。私の力も存分にお使いください」

「そしてこちらは、黒公にして黒の魔女クラウディア」

「……よろしく」


 ぶっきらぼうな、黒いドレスを着た少女、黒公クラウディア。水を操る黒の魔女でもある。海での戦いを主とし新艦艇の設計や建造を担当していたが、兵力を余らせている為にガラティアに派遣された。


「失礼だぞ、クラウディア」

「いいのだ。使える人間であれば、礼儀がなってなくとも一向に構わん」

「左様ですか」

「ともかく、心強い友人達だ。共にゲルマニアを叩き潰そうではないか。我々こそが世界の覇者、連合国なのだから」


 枢軸国と連合国の全面衝突の幕開けである。

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