レモラ独立宣言
ACU2315 4/5 崇高なるメフメト家の国家 ガラティア君侯国 帝都ビュザンティオン
「陛下! 一大事にございます!」
「今度は何だ。またビタリ半島で何かあったのか?」
「そ、その通りです! 王都レモラにて独立勢力が反乱を起こし、聖ペトロ大聖堂を制圧、教皇は殺害されました!! 教会は大混乱に陥っております!」
「……なるほど。確かに連中は教会を嫌っていたが、まさかそこまでするとはな」
多少予想外であったが、そのまで驚くべきことではない。アリスカンダルは落ち着いていた。
「スレイマン将軍、どう思う?」
「はっ。状況を端的に申し上げれば、今や我々とは縁のない国で内戦が起こっているだけのこと。我々が介入する義理はありません。しかし独立運動が政権を握れば……」
「我らに刃向かってくることは想像に難くない、か」
中立国となったレモラ王国とガラティア帝国にはもう縁もゆかりもない。しかし、この内戦で反ガラティア派が政権を握ることは、ガラティアの不利益になる可能性が高い。難しい状況である。
「取り敢えず、内戦の様子は事細かく把握せよ。どちらが勝つかを、まずは見極めねばな」
「はっ」
ガラティア帝国は一先ず、どちらにも肩入れせずに状況を観察することにした。が、結果が出るのにそう時間はかからなかった。
僅かに1週間後のことである。
「申し上げます。メディオラヌム、パノルムスでも蜂起が発生し、反乱軍が都市を占拠した模様です!」
「これで、ビタリ半島の端から端で反乱が起こりましたな」
「教皇庁を失えば、教会の軍事力は弱体。最早、趨勢は決したな」
アリスカンダルは反乱軍がそのうち勝利すると確信した。
「さて、それでは我々は、新政府と連絡を取ることにしよう。すぐにレモラに武官を派遣せよ」
「はっ!」
政権交代を確信したガラティアは、新政権の意向を確かめるべく接触を図った。しかし使者が到着するより前に、彼らは堂々と、その意志を世界に示した。
「――何? 新政府は枢軸国に加わるつもりだと?」
「は、はい。国防上の不安を理由に、枢軸国への加盟を既にゲルマニアに打診しているとのことです」
「なるほど……。どうやら、我々にとって最も不都合な方に、事は進んでいるようだな」
アリスカンダルは不愉快そうに。重臣達は思わず目を伏せた。
「ともかく、レモラ王国を枢軸国に加えるつもりがあるのか、ゲルマニアに問い合わせよ。答えによっては、戦争もやむなしである」
「はっ⋯⋯」
アリスカンダルの怒りがひしひしと伝わる通信がゲルマニアに向けて放たれた。
○
それを受けた総統官邸にて。
「我が総統、ガラティア帝国は、両国の協約を守り、レモラ王国を枢軸国に加えることが断じてないことを保証せよと言ってきました」
「うむ……。何とも面倒なことになってしまったな」
「ええ。レモラが中立国となるのはガラティア帝国と取り決めたことで、遵守しない訳にはいきません。しかし同時に、レモラ人の民族自決を名目にしている以上、彼らの意志を無視する訳にもいきません」
ガラティアとレモラ、ゲルマニアは両国の主張の板挟みになってしまった訳である。
「恐れながら、ガラティアとの約定など、所詮は口約束。我々にそれを守る法的な義務はないのではありませんか?」
ザイス=インクヴァルト大将は言う。確かにレモラを中立化する条約などが結ばれた訳ではない。が、その理屈が通る訳もない。
「大将閣下、国際関係とは決して条約のみで成り立っている訳ではありません。それに、口約束と申されますが、ガラティアとの間には覚書があります。決して形がない訳ではありません」
「覚書など、何の拘束力もないでしょう」
「確かに拘束力はありません。しかしそれを破ることは、我が国の信用を毀損することに他なりません」
「信用など、大したものではないでしょうに」
あくまで国際関係を重視するリッベントロップ外務大臣と、レモラとの関係を重視するザイス=インクヴァルト大将。まあ大将の場合はそこからガラティアとの武力衝突に至ることを望んでいる訳だが。
「我が総統、どうやら収拾がつかなさそうです。いかがなされましょうか?」
カイテル参謀総長はヒンケル総統に解決を委ねた。
「うむ……双方の言い分は共にもっともだ。だが、どちらの意見を採用しようと、いずれかの国を裏切ることになってしまう。ここはガリヴァルディに中立の維持を要請することにしたいのだが、どうだろうか?」
端的に言えばレモラが余計ことをしでかしてくれたから問題が発生している訳で、彼らが中立国のままでいてくれるのならば、何の問題もないのである。
「なるほど。それではガラティア帝国には何と伝えましょうか?」
「保留すると伝えてくれ。現時点で断言は出来んからな」
「はっ」
ヒンケル総統としては可能な限り全方面に誠実に対応したつもりであったし、リッベントロップ外務大臣も妥当な方策であると判断した。しかし、その中途半端なやり方は、アリスカンダルを大いに怒らせることになってしまうのである。
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