大聖堂制圧Ⅲ
「これでどうだ」
シグルズは拳銃の引き金を引いた。拳銃と言っても熊などを殺す為に設計されたものであり、人間に当たれば手足など簡単に吹き飛ぶ代物である。
弾丸は教皇の右肩に命中し、エスペラニウムの剣ごとその腕を吹き飛ばした。
「大した威力ですね。しかし、私の身体をバラバラにしても意味がなかったのですから、腕の一本を吹き飛ばしたところで、痛くもありませんよ」
吹き飛んだ腕と剣は引き寄せられ、元の場所にピッタリとくっついた。
「そんなことは分かってる」
「であれば、貴重な魔法を無駄にしないことをお勧めしますよ」
「面倒だな……」
教皇を葬る手段は、教皇をバラバラにしたところで剣を掠め取る事である。陽の魔女レリア相手にはその手で勝てた。しかし今度の相手は近寄った相手を確実に殺す魔法を持っている。剣を奪い取るのは困難だ。
「このままでは埒が開きません。私も動くとしましょう」
「ほう?」
教皇はようやく立ち上がり、階段を降り出した。どれくらいの距離で安全なのかは分からないが、今の間合いを保っていれば問題なかろうと、教皇が一歩進む度にシグルズとガリヴァルディは一歩下がる。
「どうされますか、少将閣下」
「僕もちょっと思い付いていないんですよ」
シグルズは何度も拳銃を発砲した。その度に教皇の手足が一本か二本吹き飛んだが、彼の歩みは全く止まらなかった。
ジリジリと下がりながら、兵士達の待つ大広間まで交代する。兵士達は一定の距離を保ち前後左右から銃弾を喰らわすが、教皇は自信を貫く無数の弾丸などまるで意に介していないようであった。
「対人徹甲弾が裏目に出たか……」
「どういうことですかな?」
「普通の鉛弾なら体内に弾丸が残って多少は足止め出来るんですが、徹甲弾は貫通してしまって対処が簡単なんです」
「なるほど。それは厄介ですな」
何千、いや何万という銃弾に貫かれても、教皇は全く怯まなかった。彼が流した血が、玉座の間から赤黒い線を描いている。
「クソッ! あの剣を奪えっ!!」
「「おう!!」」
「ま、待て!!」
痺れを切らした兵士が何人か、教皇に突進した。しかしある距離にまで近づいた途端、彼らの首から上と下は別れてしまった。広間に血の彩りがまた加えられる。
「あれは、僕でも近づいたらタダじゃ済まなさそうですね……」
「我々などは文字通り、手も足も出ません」
「どうしたものか……」
発砲を続けながら、一歩ずつ下がり続けるシグルズ。シグルズは魔法で弾を作っているのでいいが、そろそろ兵士達の弾は尽きてきた。
「何か策はないのか……」
下がり続け、大広間からも出ようとしたその時であった。
シグルズの背後からけたたましい銃声が轟き、教皇の四肢はもげて胴体も3つほどの塊に分解された。
「何? 援軍でも来たのか……?」
「どうやらゲルマニアの兵士のようですな」
大聖堂に数十人が突入する。ゲルマニアの軍服は纏っていなかったが、どう見てもゲルマニア人の集団であった。
「師団長殿、助太刀に来たぞ」
「オーレンドルフ幕僚長か。あまり目立たないようにして欲しかったんだがな」
援軍に来たのは第88機甲旅団の兵士達であった。オーレンドルフ幕僚長率いる極少数の部隊である。
「大将閣下の命令で来たのか?」
「ああ。師団長殿が万一にもヘマをした時の為にな。もっとも、流石の閣下も教会にこんな魔女がいるとは思っていなかったようだが」
「そりゃあそうだろうな」
「師団長殿、奴が起きるぞ」
四散した体の残骸が集まり、また一つの体に戻る。教皇の再生力は不死身と言ってもいい領域に達している。
「ああ、やはり恩寵は素晴らしいものです。神の国とはこのようなことを言うのでしょう」
「ふん、この狂人め。総員、放てっ!」
どうやら大聖堂の外に対魔女狙撃銃を持った兵士達が潜んでいるるしい。オーレンドルフ幕僚長が号令を発すると、直ちに教皇の身体は爆散した。
「これじゃあ再生されるだけだ。どうするつもりだ?」
「不死者には炎が効く。突っ込め!」
「「おう!!」」
オーレンドルフ幕僚長が先頭に、兵士達は突撃銃を乱射しながら教皇に突撃した。
「おい馬鹿! 止まれ!!」
シグルズは全力で静止するが、彼女は止まらない。オーレンドルフ幕僚長の死を覚悟したが、彼女は死ななかった。死なずにそのまま教皇の肉片の目の前に立った。
「火炎放射器、放て!!」
兵士達が背負った機械、そこから伸びた射出口より、太い炎が吐き出される。炎の海の中に投じられ、たちまち教皇の身体は真っ黒に焼け焦げる。
「これで……いや、再生しているのか!?」
オーレンドルフ幕僚長は、炎の中でも教皇の頭が皮膚を再生し続けているのに気付く。
「それなら、こうしよう」
「ん?」
シグルズは件の拳銃を教皇の頭に向け、そして彼がずっと被っていた頭を脳漿ごと吹き飛ばした。
「再生が止まったな……」
「あの兜の中にもエスペラニウムを仕込んでいたんだろう」
「なるほどな」
教皇の死体は丸焦げになり、赤熱した甲冑に包まれていた。ようやく教皇は死んだのであった。
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