空襲の成果
「ご報告します。テノチティトランの被害は、民家に50件、死者130人、負傷者50人となっております。被害は最小限に抑えることが出来ました」
「それはよかった。やはり空襲など恐るるに足らずだな」
テノチティトランへの空襲からおよそ1時間後。ノフペテン宮殿には現場の情報が概ね揃っていた。オーギュスタンの予想通り、ゲルマニア軍の空爆はほとんど無力化することが出来た。
「オーギュスタン、ゲルマニア軍は明らかに、空襲の威力を誇示することが目的だ。本気で攻撃している訳ではないのは明白だと思うが?」
シモンは問う。ゲルマニア軍がそもそも最小限の犠牲に抑えるように空襲を行ったのは誰にとっても明白であった。それに対してヴェステンラント軍の防空体制がどうこうと言っても、説得力はないのである。
「我々とて、配置した魔女のほんの一部しか動かしていない。そして今回、焼夷弾の炎は簡単に消せることが実証された。例え規模が大きくなろうと、必ずや対処出来るだろう」
「そういうことにしておいてやろう。それで、このような空襲が延々と続いても耐えられると?」
「無論だとも。我が国はこの程度に屈することはない」
「……まあ、それはやってみれば自ずと分かることだろう。それで、これからどうするつもりなんだ? ゲルマニアの要求を我々が呑めないとして、我々の要求を通す手段がないじゃないか」
ヴェステンラントもゲルマニアも決め手を欠く。戦争を継続するのならば、目的を持って遂行するべきである。
「その手段ならば、あるとも。我が赤の国で新しい兵器を開発させておいた。その力をゲルマニアに見せ付けてやるとしよう」
「……何だそれは。聞いていないぞ」
「軍事機密だ。情報を持っている人間は少ない方がよい」
「お前はいつもそうやって……。勝手にやればいい。それでゲルマニア軍を屈服させることが出来るのならな」
「保証は出来んな」
ゲルマニアによる空襲は続けられたが、オーギュスタンの防空体制により物的にも精神的にもほとんど効果を上げられかなかった。そして次はヴェステンラントの手番である。
○
ゲルマニア軍は常に輸送艦隊を本国とクバナカン島の間で行き来させている。例え戦闘がなくとも、前線部隊を維持する為には多大な物資が必要である。
輸送艦隊は戦艦アトミラール・ヒッパーと数隻の甲鉄艦、そして多数のガレオン船で構成されている。当然ながらガレオン船はヴェステンラント海軍に襲われればひとたまりもなく、甲鉄艦もかなり力不足である。
アトミラール・ヒッパーの艦橋にはいつも通りシュトライヒャー提督がおり、艦隊の指揮を執っていた。エウロパでマトモに稼働している艦隊はもうこの艦隊だけなのである。
ヴェステンラントに近い公海上。偵察隊が敵艦隊を発見する。
「西南西20キロパッススに敵艦隊を確認! およそ30隻の艦隊です! ヴァルトルート級などの巨大戦艦はいないようです」
「今頃私達を襲撃しに来たのか? 訳が分からん」
戦艦に対抗し得る戦力を喪失しているヴェステンラント海軍は、不朽の自由作戦の発動以来、全く活動していない。それがいきなり、それも魔導戦闘艦を伴わずに現れた。
「偶然通りかかっただけではないでしょうか?」
「そうだったらいいがな……」
「敵艦隊、我が方に接近している様子です!」
「仕方ない。全艦戦闘配置! 戦艦は前に出ろ!!」
敵海軍に進歩がないとは言え、戦艦以外で戦うのは危険が大きい。シュトライヒャー提督はアトミラール・ヒッパー単艦で処理することに決めた。戦艦が突出し、輸送艦隊と敵艦隊の間に立ち塞がる。
「敵艦、主砲射程に入りました。いつでも撃てます!」
「うむ……。このまま戦えば一方的な蹂躙になってしまう。敵に一度降服勧告を出すんだ」
「はっ!」
この戦力差では戦いにすらならないだろう。戦闘は無意味であるとして、シュトライヒャー提督はヴェステンラント艦隊に降伏を呼び掛ける。しかし向こうからの返答は何もなかった。
「敵艦隊、増速! 我々に敵意があることは確実かと!」
「分かった。全主砲、砲撃を開始せよ! 撃ちまくれっ!!」
6門の主砲が狙いを定め、砲弾を放とうとした――その時であった。
「何だっ!?」
艦橋に爆発のような大きな衝撃が走った。シュトライヒャー提督はこの衝撃に覚えがあった。
「まさか敵の新型砲……いいや、あんな小型船に搭載されている訳がない。状況を確認せよ! それと砲撃は続けろ!」
主砲は焦るように砲弾を放った。数十秒の間を開け、2隻の敵艦を撃沈することが出来た。
「このまま撃ち続け――またかっ!?」
再び衝撃が走る。と同時に、艦橋に報告が入る。
「舷側装甲が貫通されています! 間違いありません! 敵の新型対艦砲による攻撃です!」
「何てこった……。ついにヴェステンラント軍がどの船にも新型砲を載せ始めたのか」
戦艦の装甲をも貫く、戦艦主砲並みの威力を持つヴェステンラントの魔導対艦砲。イズーナ級魔導戦闘艦にしか搭載されていないものだと思われていたが、ついに一般艦艇にも装備され始めたようだ。戦艦の優位性は急速に失われている。
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