第五十二章 大八洲本土決戦

樂浪合戦

 ACU2314 8/5 大八洲皇國 山城國 葛埜京


「申し上げます! ガラティア、ヴェステンラント勢、城を発ちました!」


 諸大名集まる大部屋に伝令が駆け込んだ。


「来たか。まったく、仲睦まじいことだ」


 晴政はゲルマニアとの同盟を締結するとすぐさま大八洲に帰還した。そしてその直後、枢軸国の結成に焦ったか、ヴェステンラント・ガラティア連合軍は大規模な侵攻作戦を開始したのであった。


「で? 敵の数は?」

「はっ。陸より迫るガラティア勢はおよそ六万、海より迫るヴェステンラント勢はおよそ八万と見受けられます」

「総勢十四万、か。大した大軍勢をこしらえてきたもんだな」


 嶋津薩摩守は不敵な笑みを浮かべながら言う。


「嶋津殿にとっては、大した敵ではないか」

「嶋津の兵が五千もあれば勝てるな。だが、それは敵が固まってればの話だ。分かれて進んでくるのが寧ろ面倒だな」


 ガラティア軍は中國を経由し陸路より潮仙半嶋に迫り、ヴェステンラント軍は半嶋の西海岸のどこかから上陸するつもりだ。ここで一緒になってかかってきてくれれば連携の隙を突くのは容易かったが、完全に別で進軍されるとそうもいかない。


「なれば嶋津殿、貴殿には潮仙半嶋の海岸の守りを頼みたい。ヴェステンラントだけなら追い返すも容易かろう」

「いいのか、俺で?」

「寡戦に優れた嶋津殿こそ、この役を任せるに値するからな」

「言ってくれるじゃねえか。じゃ、伊達殿のご期待に応えでやるとしよう。その間の薩摩も守りは頼むぞ」

「無論だ。それと、兵が欲しければ近くの大名を勝手に連れて行って構わん」


 潮仙半嶋の沿岸防衛は嶋津家に一任されることとなった。


「そうそう、伊達殿、ガラティアの相手はどうするのだ? 武田家に任せるは、些か不安があるが」


 毛利周防守は晴政に問うた。


 諸大名中最大の規模を誇る武田家。その武士達もまた最強と誉れ高い。が、当主の信晴が死に、後を継いだのは幼い嫡孫。優秀な重臣達が健在とは言え、心許ないのは確かである。


「うむ。だが、ただでさえ家中が大変なことになっているのに、他家の兵を入れるは益々混乱を招くだろう。であるから、毛利周防守殿、そして長曾我部土佐守殿、半嶋に渡り、武田の後詰をしてもらいたい」

「よかろう。任された」

「南方での失態、雪辱の時であるな」


 という訳で、西国の大名のほとんどが潮仙半嶋に渡り、防衛に参加することが決定された。


「しかし伊達殿、東国の武士は働かなくてよいのですか?」


 北條相模守は問う。確かに諸大名中で二位、武田家とほぼ変わらない規模を持つ北條家が手持ち無沙汰になってしまっている。


「北條は、伊達もだが、大八洲本土の守りを固めてもらう。万一にも奴らがこっちに攻め込んできた時の備えだ。よって、東国の大名は肥前、肥後、薩摩の辺りに行ってもらう。やろうと思えばすぐに潮仙にも渡れるからな」


 西国の大名を潮仙半嶋に送り、空いた領地を東国の大名が守る。奇妙な格好になってしまうが、東国の大名が潮仙まで出陣していられる時間はないのである。


「――ま、そういう訳だ。これはこの戦が始まって以来の大戦になる。大八洲が武士の力、奴らに見せつけてやろうぞ!」


 かくして、大八洲と連合軍の総力を上げた戦いが始まった。


 〇


 ACU2314 8/14 樂浪國 安東城


 大八洲と唐土の国境には大きな河が流れている。大八洲本土に足を踏み入れたくば、この河を渡らねばならない。よって、主要な渡河地点は橋を中心にことごとく要塞化され、城塞都市のような趣を見せている。


 その中でもほぼ海沿いの国境南端に位置する安東城は、最も人の行き来が多い大橋を管理する、最も強固な城塞である。


「申し上げます! ガラティア勢四万、三の砦とぶつかりました!」


 ガラティア軍は主力部隊を安東城に向け、真正面から打ち破るつもりである。


「そうか。三の砦は時を稼ぎながら兵を退かせよ。様子見が出来れば十分じゃ。ゆめゆめ、打って出ようなどとは思うな」

「はっ!」


 安東城で武田勢の主力を率いるは眞田信濃守である。彼もまた、嶋津と並び寡戦に優れた武将である。また信濃守は武田家の中でも半独立の大名であり、重臣達より一段地位が高いというのも、ここの守将に選ばれた理由である。


「我らの兵は五千と少し。勝てますかな?」


 隻眼の軍師山本菅助は笑みを浮かべながら尋ねる。


「八倍くらい、大した差ではないわ。この安東城があればな」

「城に頼るとは、眞田殿らしからぬ物言いで」

「頼り切る訳ではない。あくまで城は舞台、舞を舞うのは人じゃ。されど、よき舞台でなければ、舞も映えん」

「なるほど。流石は、信濃守殿にございまする」


 全く危機感のない両名に、配下の諸将は不安になるばかりである。そうこうしているうちに、ガラティア軍は次々と砦を落とし、安東城に迫った。


「ガラティア勢、城門の前に陣を敷いている様子!」

「ふむ。勢いに任せて攻め込むような愚将ではないようですな、アリスカンダルというのは」

「平明京で痛い目に遭っておるからのう。そう迂闊には動くまい」

「我らの策が通じにくい相手にございまするな」


 などと言いつつ、眞田信濃守と山本菅助は将棋でも差しているかのように楽しげな様子であった。

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