大御前会議

 ACU2314 7/15 帝都ブルグンテン 王宮


 この日、ヒンケル総統を含む閣僚達、各方面の方面軍司令官、その他有識者達は王宮に招集され、王宮の大会議場、ゲルマニア皇帝の御前で会議を開いていた。何故ならこれはゲルマニアの命運を決定する会議だからである。


「えー、諸君、我々はついに、これを決める時が来た。ヴェステンラント合州国に攻め込むか、和議を結ぶか。我々はここで決定しなければならない」


 ヒンケル総統は議題を改めて示した。その決断は数百万の人命の行く末を左右するであろう。


「とは言え、いきなり決定しようとは思わん。まずは誰でもいい、不明点があったら何でも質問したまえ。ここにいる全ての者が同じ情報を共有しているべきだろうからな」

「それでは、外務省から一つよろしいですか?」


 リッベントロップ外務大臣は手を挙げた。


「ああ、何でも構わん」

「ヴェステンラントに攻め込むという選択肢が上がっているということは、それは軍事的に可能だということでしょうか? 軍部の方々にはその勝算があると?」

「ふむ。カイテル参謀総長、答えてくれたまえ」

「はい。しかしそれについては、軍でも急進派であるザイス=インクヴァルト大将が答えるが適当かと」

「ならそれでも構わん」

「はっ。大きな役目を仰せつかりまして、答えさせて頂きます」


 ザイス=インクヴァルト大将はヴェステンラントを滅ぼす気満々の急進派として、軍部でもそちらの派閥の頭目となっている。


「帝国は今や、帝国以外の全ての国の海軍を合わせても太刀打ちの出来ない戦艦を擁し、全世界で軍役に就く人間の半分以上が、我が軍の人間です。海軍力においては2隻の戦艦が完成すると同時に、三番艦のプリンツ・オイゲンもまもなく完成するところ。陸軍においては、その総兵力は300万を超え、5千を超える戦車を擁しております。この巨大な軍事力があれば、ヴェステンラントを討伐すること、全く不可能ではございません」

「なるほど。しかし、海を越えて300万人を送り込むとなど不可能である筈。ヴェステンラントでは限定的な戦力で戦わざるを得ないと思うのですが、そこはどうでしょうか?」

「無論です。しかし我が軍の精鋭たる機甲旅団があれば、精々30万もあれば、ヴェステンラント軍を粉砕することもまた容易かと存じます」

「我々は戦争についてはあまり詳しくありませんが……たった30万人で広大なヴェステンラント大陸を制圧出来るものなのですか?」

「無論、作戦はあります。それについては、ハーゲンブルク少将から説明があります」

「え、はっ。それではご説明いたします」


 全くその予定はなかったのだが、話を振られれば仕方ない。シグルズは自ら考案した作戦を説明することなった。


「仮にヴェステンラントに侵攻することになれば、取るべき作戦はただ一つです。即ち、中央ヴェステンラントの島々を飛び石にように制圧しながら、王都ルテティア・ノヴァを直撃するのです」

「王都を直撃、ですか。そんなことが……いえ、確かに地理的には不可能ではないと思われますが……」


 広大な南北ヴェステンラント大陸を統治するヴェステンラントは、両大陸の間、細長い中央ヴェステンラントに首都を置いている。ヴェステンラントの内海である中央ヴェステンラント海を制することが出来れば、確かに首都まで一直線に軍勢を送り込むことも不可能ではないかもしれない。


「ハーケンブルク少将、敵の裏庭であるヴェステンラント海を制圧するなど、本当に可能なのですか?」

「先ほどザイス=インクヴァルト大将が申し上げたように、我が軍には戦艦があります。三番艦までが完成すれば、向かうところに敵はありません。ヴェステンラントのどこにでも上陸を仕掛けることが出来ると、僕は確信しています」

「なるほど。軍部はこれまで嘘を吐いたことはありません。そこまで仰るのなら、可能ではあると信じましょう」

「ありがとうございます」


 リッベントロップ外務大臣は、ひとまず納得してくれたようだ。


「うむ。カイテル参謀総長、今の話は軍部全体で合意の取れたことなのか?」

「作戦自体には、誰もが納得しております。それを実行すべきかどうかについては、大いに意見が割れておりますが」

「そうか、分かった。それならいいんだ。次、誰か、確認したいことは?」

「それでは財務省からも一つ」

「うむ」


 今度はクロージク財務大臣の番である。


「誰でもお答えいただいて構わないのですが……ヴェステンラントにまで攻め込むことに、利益はありますでしょうか? 先日まではエウロパの安全保障という明確な目的があり、財務省としても、労働省などと協力して何とか予算をやりくりしてきましたが、ヴェステンラントに攻め込むのは安全保障を超えているかと思われます。それに利益が見出されないのであれば、財務省としては断固として、新大陸への派兵に反対せざるを得ません」


 戦争とは政治の一手段に過ぎない。国益に適わないのであれば、戦争は起こされるべきではない。至極真っ当な意見である。

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