米牙同盟
「ですが、いいんですか? 私達は曉を裏切って攻め滅ぼした不誠実な連中な訳ですが」
確かにドロシアはアリスカンダルより悪質な裏切りをやらかしてついにその相手を滅ぼしている。それについてはどう考えるのか。
「構わんよ、その程度。寧ろそのくらいの方がよい」
「ほう?」
「君達は合理的に動く。君が有色人種嫌いなことは有名だが、それも引っ込められるくらいにはな」
「そ、そんなことは」
「隠さなくてもよい。そして君達が合理的に動くのならば、その行動も予測し易い。よい同盟相手だよ」
「はあ……」
アリスカンダルもアリスカンダルでなかなか無礼な男である。まあそのくらい大胆な性格でなければ、広大なガラティアを統治することは出来ないのかもしれないが。
「とにかくだ、別に心から信頼し合う仲になろうなどとは思っていない。ただ互いの利益が一致する間は、相争うことはやめようと、そう言っているのだ」
「なるほど。私も陛下と同じように考えています」
「うむ。それでは同盟を結ぼうではないか」
「はい。但し、陛下とは違い私は大公に過ぎませんので、本国に伺いを立てなくてはなりません。少しお待ちを」
「無論だ。そのように伝えてくれ」
かくしてヴェステンラントとガラティアは同盟を結ぶことになった。ガラティアはこれより世界大戦に本格的に参戦する。
○
ACU2314 3/11 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸
「――んなっ、ヴェステンラントとガラティアが同盟を結んだだと?」
「はい、我が総統。ガラティア側から公式に通達があったようです」
その報せは外務省からヒンケル総統に直ちに届けられた。ゲルマニアから見ればそれなりの同盟国であったガラティアが敵に寝返ったと言うのである。とても信じ難い話だ。
「な、何かの間違いではないのか?」
「そう思いまして外務省の方でも確認しましたが、間違いないとのことです」
「何と……。ガラティアは寝返ったのだろうか……?」
そう思っても無理はない。絶賛戦争中の敵国と同盟を結ぶなど、宣戦布告にも近い行為だ。
「フリック司令官、どうだ?」
全く癖のない人格が好評の南部方面軍総司令官フリック大将に、ヒンケル総統は尋ねる。
「はい。南部では今のところ、ガラティア軍に軍備増強などの動きは見られません。あくまで現状からの判断ですが、我が国と交戦する用意はないかと思われます」
「そうか。流石にそこまではしないか」
まだ予断は許さないが、ガラティアに今すぐゲルマニアと敵対する意図はないようだ。とは言え、これからは最早ガラティアを仮想敵と見なして行動せざるを得なくなる。
「とりあえずだ……南部方面軍を増強せよ。それと、リッベントロップ外務大臣を直ちにガラティアに送ってくれ」
「あー、閣下、南部方面軍を動かすことは好ましくないかと思われます。徒にガラティアを刺激すれば、我々の行動のせいで戦争になりかねません」
「それもそうか……。敵が戦力を増強していないのならば、こちらから動く必要はないのか」
「まあ、本土に武器弾薬を備蓄しておくくらいが無難かと」
「分かった。そこは頼むぞ、フリック司令官」
「はい、お任せを」
南部方面軍自体は増強せず、国内に非常時の武器弾薬を備蓄しておくことになった。もしもガラティアと戦争になれば、いきなりゲルマニア本土が戦火に晒されるのだから。
「我が総統、外務省からも一点、アリスカンダル陛下は現在平明京にいらっしゃいます。我が国の人間が近付くのは得策ではないかと」
「そうだな……」
ガラティア軍はヴェステンラント軍と行動を共にしている。そこにヴェステンラントの敵国人であるゲルマニア人が近付くのは、止めた方がいいだろう。
「だが、ことは一刻を争うのだ。やはり大八州に派遣している使節団をアリスカンダル陛下のところに向かわせよう」
「き、危険だと思いますが」
「ガラティア軍が隣にいる手前、ヴェステンラントも下手な真似は出来ない筈だ」
「そうだとは思うのですが……」
ヴェステンラント合州国が真っ当な国家であればそれでよいのだが、残念ながらそうではない。外務省としてはそう簡単に総統に賛同することは出来なかった。
「まあ、いざという時はシグルズ君が何とかしてくれるだろう。心配には及ばない」
「外務大臣閣下を失うと大損失なのですが……」
「そうはならない。大丈夫だ」
「は、はあ」
結局ヒンケル総統のごり押しで、使節団は急遽平明京へ向かうことになった。ガラティア軍はこれを承諾し、護衛の部隊を出してくれた。
○
3日後。
「――リッベントロップ外務大臣からの報告です」
「うむ。聞かせてくれ」
「アリスカンダル皇帝陛下曰く、ガラティア帝国にはゲルマニアと敵対する意図はなく、今度とも有効な関係を築いていきたい。またヴェステンラントとゲルマニアの和平については引き続き斡旋する用意がある、とのことです」
「何とも中身のない言葉だな……。それだけか?」
「それだけのようです」
「まったく、彼は何を考えているんだ」
ガラティア帝国は結局、その意図を明かすことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます