止めの攻撃Ⅲ
「殿下、敵の勢い凄まじく、とても押さえ切れません!!」
「クソッ! どうなってるんだ」
大八州兵の勢いは正に破竹の勢いと言ったもので、ドロシアがいくら兵士を投入しても全く食い止めることが出来ず、その陣形を力任せに食い破られていた。
「て、敵は何かに取り憑かれているようです。いくら殺しても全く退く気はなく、とても正気とは思えません」
「そう…………。そういうことか」
ドロシアはある考えに達した。
「で、殿下?」
「敵の狙いは私達じゃない。私達の先にあるものこそが敵の真の狙いで、しかもどんな犠牲を払ってでもそれを仕留めようとしている」
「そ、その狙いとは……」
「一つしかないじゃない。皇帝よ。アリスカンダルよ」
「な、何と」
ドロシアはついに明智日向守の真意に辿り着いた。彼らの狂信的な突撃はただアリスカンダルを殺す為だけの攻撃なのだ。だから彼らをいくら殺して陣形を乱しても意味がない。彼らはただ一人の人間を殺す為だけに向かって来ているのだから。
「だったら、あんなの相手にしてもしょうがないわ。敵に道を開けなさい!」
「よ、よろしいのですか!?」
「構わないわ。何ならアリスカンダルには死んでももらった方が好都合だし」
「わ、分かりました」
表立って裏切るつもりはないが、ここで大八州兵がアリスカンダルを殺してくれるのならそれはそれで手間が省けて都合がよい。ドロシアは部隊が潰走したことにして武士達にアリスカンダルへの道を譲るのであった。
○
一方その頃。上空では曉とシャルロットが対峙していた。本気の殺し合いである。
「あなたが謀反の首謀者の曉ね?」
「ええ、そうよ。あなたは青の魔女シャルロットね?」
「その通り。もう知ってるとは思うけど、私は例え首を切り落としても死なないわ。この私を殺せる?」
「あんたと殺し合う気なんてない。とっとと失せなさい」
「それは無理よ。あなたを殺すのが私の仕事だから」
「チッ……。面倒な奴を敵に回してしまったわね」
大八州と何度もやり合ってきた青の魔女シャルロット。彼女のことは曉もよく知っているが、実際に戦うのは初めてである。
「でもあなた、殺すことが出来たのは今川くらいじゃない。伊達も武田も立花も殺せてないと聞くけど?」
「別に殺す必要なかったからよ。敵を混乱させるのが私の仕事だから。でも今は違う。あなたは殺すわ」
「あっそう。じゃあやってみなさい。受けて立つわ」
「ええ、もちろん。ふふふ」
シャルロットは楽しそうに笑うと両手の爪を短剣のごとく長く鋭く伸ばした。対して曉は両手に刀を作り出す。
「では、死んでもらおうかしら!」
シャルロットは一気に距離を詰め、両手の爪を曉に向けて振り下ろす。
「その程度っ!」
曉は刀を交差させて受け止める。鉄の剣と爪は激しい火花を上げてぶつかり合う。
「あんたの爪、どうなってるのよ!」
「ふふ、ただの魔導剣ごときに後れは取らないわ」
「チッ」
曉は爪を振り払う。シャルロットは数度斬りつけ、曉も数度受け止めた。刀はすぐに摩耗したが、曉はすぐに次の刀を作り出して応戦した。
「はっ、大したことないじゃない! そんなんで私を殺せるの!?」
「確かに、あなたの方が剣の腕は優れているようね。でもあなたは死ぬけど私は死なない。いずれ勝つのは私よ」
「それはどうかしらね」
曉は余裕ぶっているが、実際は余裕などない。シャルロットの言う通り、曉は致命傷を負ったら死ぬが、シャルロットは例え心臓を貫いても死なないのである。それでは曉に勝ち目などない。
――さて、伊達陸奥守はどうやってこいつを切り抜けたんだったかしら。
恐らくシャルロットと一番やり合っている男、伊達陸奥守の報告を思い出す。彼は鎖の付いた矢でシャルロットを貫き拘束することを試み、ある程度成功したのであった。
「じゃあ、こうしましょう」
曉は背中の羽を畳んで一気に地上に落下した。
「ちょっと、逃げるの!?」
「そうよ、追って来なさい」
地上に落ちる寸前で再び翼を広げ、曉はストンと地上に舞い降りた。
「これで終わりよ!」
シャルロットが上から斬りかかってきた。が、曉は後方に飛び退き回避。シャルロットの爪は地面に突き刺さった。
「ただ避けるなんて、つまらないことを」
「じゃあ面白いものを見せてあげるわ」
曉は長槍を作り出して構えると、容赦なくシャルロットの胴体に向けて投げつけた。
「何っ」
槍はシャルロットを貫き、そのまま地面に突き刺さった。
「さあどうかしら。これで動けないでしょう?」
「ただの槍くらいどうってこと――これは」
槍の持ち手の方には巨大な鍔のような円形の物体が取り付けられており、シャルロットは槍から抜け出すことが出来ない。
「一本くらいじゃすまないわよ! ここで朽ち果てるがいいわ」
「こいつ……」
曉は十本ほどの槍をシャルロットに突き刺して、彼女を完全に地面に括りつけた。流れ出した赤黒い血がシャルロットを中心に大きな水溜まりとなるが、彼女は全く痛がる素振りすら見せなかった。
「私は暇じゃないのよ。あんたはそこでみじめに私達を眺めているがいいわ」
「この……」
曉はシャルロットを捨て置いて戦場へと戻った。
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