共和国軍の作戦

『こちらはクロムウェル護国卿だ。ハーケンブルク少将、話せる状況か?』

「ええ、何とか。しかし手短にお願いします」

『無論だ。たった今、我が軍の部隊2万を向かわせた。彼らは城外に打って出て、敵を撃退する。であるから、装甲列車を開け放つ用意をしておいてくれ』

「ちょ、ちょっとお待ちを! こう言うのは何ですが、ブリタンニア軍の武器に我が軍の武器を超えるものはない筈です。重騎兵と野戦を挑むなど正気ではありませんよ?」


 どう考えてもそんなのは無理だ。ゲルマニア軍が装甲列車に立て籠もっている現状ですら負けそうなのに、ゲルマニア軍に劣る武器しか持っていないブリタンニア兵がいくら集まったところで、重騎兵とマトモにやり合える訳がない。シグルズはそう疑いもしなかった。


『それがそうでもないんだ。まだ一度も実戦では使っていないが、恐らく重騎兵に有効な武器を我々は持っている。後は我々に任せてくれ』

「そ、そんなものがあるのですか? 僕達に教えて頂きたかったものですが……」

『君達だってよく隠し事をするではないか。我々にだって機密くらいはある』

「うぐっ」


 クリスティーナ所長にはどうやら自覚があるようだ。まあそんなことを気にしている場合ではないが。


『それで、その兵器とは?』

「刺突爆弾だ。まあ見れば分かる」

『ああ……名前で何となく想像は付きます。確かに有効かもしれません。分かりました。こちらで出撃の準備を整えておきます』

「よろしく頼む」


 かくしてブリタンニア・ゲルマニア軍は反撃に出る。その方法は外法と言う他ないものであったが。


 ○


「隊長、死傷者が二千を超えました!! もう限界です!」

「ここまで来たんだ! 引き下がるわけにはいかん!!」


 ヴェステンラント軍は装甲列車の目の前、機関銃弾の雨を浴びながら、クロエが造った鉄の橋の上に盾を並べて射撃を仕掛けつつ、装甲列車に白兵攻撃を仕掛け続けていた。


 しかしゲルマニア軍は重騎兵の攻撃をよく防ぎ、逆に魔導兵を多数撃ち殺している。片方が苦しいときはもう片方も苦しいもの。砲撃によって兵が削られたのもあり、ヴェステンラント軍も瓦解する寸前にあった。


「あんなものを突破するのは無理です!!」

「何を言う! 装甲列車ももうボロボロだ。もう一押しすれば落ちる!」


 スカーレット隊長も必死に部隊を維持していた。装甲列車もそこら中に穴が開き、それを姑息に塞いでいる状況だ。もう少しでゲルマニア軍の防御を突破出来る、そう思っていた時だった。


「隊長! 装甲列車が開きました!!」

「何!?」


 装甲列車の壁面が突如として開け放たれた。そして間髪開けずに無数の兵士が戦場に飛び出して来た。


「ブリタンニア兵か? はっ、我々に野戦を挑もうとは愚かなり! 直ちに殲滅せよ!!」

「「おう!!」」


 戦車もなしに重騎兵と正面から殴り合おうなど百年早い。スカーレット隊長はのこのこと巣穴から這い出して来た彼らを嬉々として殲滅するように命じた。すぐに重騎兵はブリタンニア兵に斬りかかった。


 だが、少し様子がおかしかった。


「た、隊長、敵の武器には見覚えがありません。槍のように見えますが……」

「そうだな。槍だ。私達にただの槍で対抗しようと言うのか?」


 そんなもの、魔導剣によって簡単に切り落とされ、仮に突くことが出来ても魔導装甲に傷を付けることすら出来ない。実際、彼らの槍はことごとく兵士ごと切断された。


「まったく、命を無駄に捨てると――っ!?」

「ば、爆発!?」


 ブリタンニア兵が重騎兵の魔導装甲を突いた。するとその槍先が爆発し、重騎兵とブリタンニア兵を吹き飛ばした。ブリタンニア兵は黒焦げになり、重騎兵も行動不能になっているようだ。


「なっ、何が起きた!?」

「分かりません……槍が爆発したとしか……」

「自爆戦術とでもいうのか?」


 あちらこちらで爆発が起こり、その度、ブリタンニア兵の命と引き換えに重騎兵が死亡、もしくは重傷を負う。ブリタンニア兵はほとんどが槍を届かせる前に殺されたが、槍の届いた幸運な者は、敵を巻き添えにして死ぬのだ。


 全く生きて帰ることを想定していない狂気の作戦に違いないが、魔導兵は確実に削り取られていった。


「や、奴ら正気じゃありません! どうすれば!」

「と、とにかく槍を切り落とせ! 槍の起爆装置は槍先にある筈だ! それを近寄らせなければ、問題はない!!」

「は、はい!!」


 とは言え、魔導兵の剣術などそもそも大したものではない。ブリタンニア兵が死に物狂いに突き刺してくる槍を完全に叩き落すことなど到底不可能であった。そしていくら彼らを殺しても、装甲列車の後ろから続々と援軍が湧いてくる。最前線は混戦に持ち込まれ、魔法で敵を一掃することも出来なかった。


「クソッ! 奴らは本気だ! 私達を数で押し切る気だ……!」

「た、隊長!?」


 最早ブリタンニア兵に指揮も統制もない。だから彼らをいくら殺しても意味がない。ブリタンニア軍は兵士を最後の一兵まで使い潰してもヴェステンラント軍を撃退するつもりに違いない。だがヴェステンラント兵は、装甲列車を落とす為に戦力を温存しなければならないのだ。

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