カムロデュルム開戦

 ACU2313 12/11 カムロデュルム近郊


 重騎兵1万を含むヴェステンラント主力部隊6万は、電光石火の進撃でカムロデュルムに到達。その西部に陣を敷いた。いきなり攻めかかるのではなく、しっかりと足場を固めてから攻撃を仕掛ける。ゲルマニア軍はヴェステンラント軍の攻撃を跳ね除けたくらいでは勝てないだろう。


「敵は西門と東門を除いて封鎖。しかし東門の前には戦艦があり、いくら重騎兵でも攻め込むのは自殺行為、と言った感じですね」


 クロエは双眼鏡を片手に言う。


「はい、クロエ様。現実的な攻め口は西門しかありませんかと思われます」

「マキナもそう思いますか。まあ、それがゲルマニア軍の狙いでしょうけど、今回は彼らの掌の上に乗るとしましょう」


 クロエはゲルマニア軍の狙い通りに西門の突破を決意した。ゲルマニア軍の狙い通りの行動であるが、それ以外の選択肢はない。あったとしても現実的ではない。


「ならばクロエ様、迷うことはありません! 一気呵成に攻めかかり、西門を突破してしまいましょう! 重騎兵があれば、装甲列車とて恐れるに足りません!」


 スカーレット隊長は声高に訴える。確かにヴェステンラント軍は西門に攻め込むしかないが、それにはまだ早い。


「スカーレット、装甲列車は何とかなるにしても、戦艦がいます。戦艦の主砲は列車砲の射程より長いですから、カムロデュルムを飛び越えて私達を狙い撃ってくるでしょう。あの大砲の直撃を受ければ、重騎兵でも流石に大きな損害が出ます」

「そ、それは……うぅ……」


 重騎兵は確かに非常に強力な防御力を持っているが、決して無敵ではない。戦車の榴弾でも多少の損害は出ている。であるのに、ヴァルトルート級魔導戦闘艦を数発で戦闘不能にする戦艦の主砲の艦砲射撃など喰らえば、重騎兵とて持たないだろう。


 戦艦に関して、ヴェステンラント軍はかなり無知である。その最大射程は全く不明であり、もしかしたらここも既に射程に入っているかもしれない。ただ確実なのは、少なくともヴェステンラント軍が進軍を開始すれば、その真上から砲弾の雨が降って来るということだ。


「まあ、戦艦は手数が少ないのは明らかです。強行突破も出来なくはありませんが、やりたくはありませんね」


 ある程度カムロデュルムに近づけば、誤射を恐れて戦艦は艦砲射撃など出来ない筈だ。そこまで犠牲を覚悟に兵を進めるのも不可能ではないだろう。


「まずは戦艦の砲撃を何とかする必要がある、ということですか……」

「ええ。なかなか厄介な手を打たれてしまいました」


 海上の王としての戦艦も十分過ぎる脅威だったが、陸の固定砲台としての戦艦もまた、地上で最強の兵器と言っていいだろう。


「――では、コホルス級の魔女を繰り出し、戦艦の妨害をすればいいのではありませんか?」


 スカーレット隊長は沈黙に対してすかさず思い付きを口に出す。


「対空戦闘は戦艦の副砲の仕事です。主砲は関係ありませんよ」

「うっ……それでは、いっそのこと今度こそ、戦艦を奪ってやりましょう!」

「前に大失敗したのにですか?」

「確かに以前は失敗しましたが、あれは艦内に面倒な魔女が複数いたからです。今は魔女共も自慢の機甲旅団を率いてカムロデュルムにいる筈。これは我が軍にとって逆転の好機です!」

「確かに、言われてみればそうかもしれません」


 クロエは少し感心した。確かにシグルズもオーレンドルフ幕僚長もオステルマン中将もカムロデュルムにおり、戦艦を防衛する部隊に名の知れた魔女はいない。これはいけるかもしれない。


「戦艦の対空砲火だけなら何とかなります。艦内に突入することが出来れば、勝てるかもしれませんね……」

「クロエ様、危険な作戦であることは変わりありません。慎重にお考えになるべきかと」

「分かっていますよ。とは言え、戦艦を無力化出来てしかも私達のものに出来るなんて、これ以上ない好機ではありませんか?」

「成功すれば、そうではありますが」


 アトミラール・ヒッパーが近くにおり、艦内の警備はザル。この状況は実はヴェステンラント軍にとってこの上ない好機なのかもしれない。


「では……まずは本当にカムロデュルムに魔女達がいるのか確かめなくてはなりません。それが保証されなければ、作戦は成り立ちませんからね」


 勝てる状況が整うのならば、クロエはやる気である。


「確かにそうです。しかし、確かめると言ってもどうすればよいのでしょう。一番の手段は威力偵察ですが、それでは本末転倒です」


 それでは兵がアトミラール・ヒッパーに吹き飛ばされるだけだ。、


「そうですが……いや、そうでもないかもしれませんね」

「? と仰ると?」

「私が威力偵察をしましょう。そうすればシグルズも出て来ざるを得ない筈です」

「く、クロエ様お一人で!? 危険過ぎます!」

「だったらあなたも一緒に来ますか?」

「無論お供させて頂きますが、それにしても危険なことに変わりはありません!」

「安心してください。私がゲルマニア軍の攻撃程度で死ぬとでも?」

「そ、それはないとは思いますが……万が一ということも考えられます!」

「万が一なんて心配していたら戦争など出来ませんよ。私は行きますので、スカーレット隊長は好きにしてください」


 かくしてクロエの作戦は始まった。スカーレット隊長は彼女に着いていかない訳がなかった。

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