カムロデュルムの防衛体制

 ACU2313 12/8 ブリタンニア共和国 首都カムロデュルム


「大将閣下、ヴェステンラント軍がベダよりおよそ6万の兵を以て出撃しました。カムロデュルムには3日もあれば到着するかと思われます」

「うむ。了解した。ご苦労」


 最終的にカムロデュルムの守備に就けたのはゲルマニア軍15万、ブリタンニア軍5万程度である。まあ何とか悪くない兵力を揃えることには成功したが、全く油断は出来たものではない。重騎兵相手には、その倍の戦力で戦って負けたばかりなのだから。


「――しかも、それも親衛隊やら突撃隊から急遽送り込まれた人間。役に立つものか……」


 ザイス=インクヴァルト大将は葉巻を吹かす。


 数だけは立派だが、その中身は民間人の虐殺しか能がない親衛隊とほぼただの民間人である突撃隊が多く混じっている。ゲルマニア軍の戦力は実質的には10万に満たないだろう。


「まあよい。我々はやれることをやるだけだ」


 勝てと命じられれば勝つことを信条としているザイス=インクヴァルト大将も、流石に弱気になっていた。


 ○


「おお、これが噂の戦艦アトミラール・ヒッパーか。我が国の技術では到底作り得ない船だ……」


 カムロデュルムのすぐそばの港にはアトミラール・ヒッパーが停泊していた。彼女のこの世界で最も巨大な大砲の艦砲射撃を以て、カムロデュルムの防衛を支援するのである。


「そうでしょう。我が国の最高の技術、莫大な労力と資源を次ぎこんで建造した、世界に比類なき軍艦です」


 シュトライヒャー提督はクロムウェル護国卿に誇らしげに言う。


「我々の軍艦の大砲などまるで効かなさそうだ」

「ヴェステンラント軍の弩砲ですら防ぐ装甲です。彼女に危害を加える手段はこの地上には存在しません」

「であるのなら、いささか装甲を厚くし過ぎでは?」

「今回の重騎兵のように、ヴェステンラント軍が更に強力な弩砲を開発して投入してくることも、ないとは言い切れません。例えそのようなものが出てきても戦える防御力を持たせたのです」

「上手くいけばよいな」


 戦車は重騎兵の登場までは明らかに過剰な防御力を持っていた。しかし重騎兵はその戦車の装甲をあっさりと貫いた。海の上でも同じことが起こらないとも限らない。


「ともかく、貴殿らゲルマニア海軍の協力には感謝する。今は何も礼を出せないが、国内が落ち着けばいずれ何か用意しよう」

「同盟国を助けるのは義務でしかありません。そのようなこと、恐れ多い」

「そう言うな」


 ブリタンニア共和国はゲルマニアへの借りを日に日に増やしているのである。


「――これが装甲列車か。確かに兵らの士気を上げるには有力だ」


 同日、2編成の装甲列車もカムロデュルムに運び込まれた。元々崩れかけていたカムロデュルムの西門は破壊し、そこに門の代わりに装甲列車を押し込めた形である。


 鋼鉄の車体とそれに装備された無数の機関銃や対空機関砲、そして巨大な列車砲は、ただの石の壁よりは余程頼りになる。


 因みに、ここと東門を残して他の門は全て完全に破壊し封鎖されている。東門はアトミラール・ヒッパーの目の前であるから、ヴェステンラント軍は基本的にこの西門から攻め寄せてくると予想される。


 この西門を守れるかどうかがカムロデュルムの命運を握るであろう。ここを守れれば勝ち、守れなければ負ける。簡単な話だ。


「ええ。例えヴェステンラントの重騎兵でも、この装甲を貫くことは不可能です!」


 視察に来たクロムウェル護国卿にクリスティーナ所長は自身の作品を熱く語っていた。まあクロムウェル護国卿は戦闘に直接関わること以外は軽く受け流していたが。


「――となると、唯一の脅威は白の魔女クロエの攻撃か」

「そうですね。あれだけは装甲を2枚貫けますし、どこから撃たれるかも分かりません。未然に防ぐことは困難です」

「そうだな。魔女がいそうな場所を片っ端から砲撃するか……いや、そんなことは現実的ではないな」


 相手は砲兵隊ではない。ただの一人の人間だ。彼女の攻撃を妨害して防ぐのは困難だろう。


「――ですので、もうやられるのは前提で装甲板と予備の武器を可能な限り運び込んで来ました。まあその代わりに他の戦線の補給が逼迫しているんですが」

「……聞いていないのだが、大丈夫なのか?」

「え、あー……その、これ以上領土が奪われると護国卿殿がお怒りになるかと思いまして伏せていたのですがって――あっ」

「そこまででいい。事情は分かった」


 それはつまり、ブリタンニア共和国西部を犠牲にしてカムロデュルムを防衛しようということなのだ。だからクリスティーナ所長は黙っていたのだが、うっかり口を滑らせてしまった。


「えーと、その……」

「確かに領土をこれ以上奪われるのは不快だが、首都を落とされる訳にはいかない。それは分かっているさ。ゲルマニア軍の判断は正しい。私もそれに賛同する」

「あ、ありがとうございます」

「今度からは何でも事前に教えてくれ。我々は共に戦っているんだ。そういう配慮は無意味だ」

「は、はい」


 逆に言えば、ここまでしたのにカムロデュルムを落とされれば、最早ブリタンニア島は放棄せざるを得ない。この首都こそブリタンニアの天王山である。

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