エドワードストウの戦い
「敵には重騎兵もいるか。だが少数のようだ」
オステルマン中将とヴェッセル幕僚長は指揮装甲車のハッチから頭を出して望遠鏡で敵を眺めていた。敵の大半は赤い鎧を着た普通の魔導兵であるが、その先鋒には千程度の重騎兵が並んでいた。
「厄介ですね……。私達だけで戦えるかどうか……」
「心配するな、ハインリヒ。これだけの数の差があれば、物量で圧殺することも不可能ではない」
「はい。頑張りましょう」
「全軍、撃ち方始め! 重騎兵を集中して砲撃せよ!」
ヴェステンラントの騎兵隊の先頭を駆ける重騎兵に、ゲルマニア軍は全力で砲撃を開始した。6万対1千という数の差は流石の重騎兵にとっても堪えるものだったようで、一撃で50人程度を落とすことが出来た。
「よし。いい調子だ。このまま砲撃を続けよ!!」
赤の騎兵などのには目もくれずの砲撃を行う。だが暫くして、重騎兵達はいきなり馬を捨てて地面に降り立った。
「ん? 何をする気だ?」
「あれは……盾のようですね。それも、以前にカムロデュルムで確認されたもののよりも大きいです」
「盾だって? 赤の魔女らしくないな」
馬を魔導兵に任せた重騎兵は背中に背負っていた盾を地面に並べて堅固な壁を作り、その後ろに隠れた。重騎兵――いや重歩兵の盾とだけあって、戦車砲の直撃ですら吸収されているようだった。
そして重歩兵と魔導兵達は盾の後ろから射撃を開始した。
「か、閣下! 危険です! すぐに車内に!」
「あの程度なら当たらん! それよりも反撃だ! 徹甲弾に切り替え! あのデカい盾を貫け!」
城塞や砦を破壊する為の徹甲弾。対象に直接命中させなければならない故に、動き回る重騎兵に対しては全く無意味な砲弾であった。しかし地面に置かれた盾ならば、徹甲弾の面目躍如である。
「撃ち方始めっ!」
徹甲弾は盾に命中し、そしてそれを貫き、打ち砕いた。多数の魔導兵が巻き添えになって吹き飛んだ。
「ふははっ! 馬鹿め! 足を止めたのが失敗だったな!」
「徹甲弾を持ち歩いていて正解でしたね……」
「とは言え、そう多くはない。くれぐれも精確に狙えよ」
「可能な限りそうさせます」
戦車の照準器はそう精確には作られておらず、人間の努力にも限界があるものだ。
○
「クソッ! 奴らこんなものを持ってたのか!?」
ヴェステンラントが保有する防具の中で最大の防御力を誇る筈の盾が、次々と貫かれている。想定外の事態にノエルは冷や汗を流していた。
「そ、そう言えば、ゲルマニア軍は拠点を攻略する際に城門を簡単に吹き飛ばしていました。今に思えばそれがこの砲弾だったのかと……」
ノエルの従者、眼鏡をした魔女のゲルタは言った。ヴェステンラント軍はゲルマニア軍がほんの稀にしか使わない徹甲弾について、全くの無知だったのである。
「何てこった……足止めの作戦が完全に裏目に出ちまった」
ノエルも最初から6倍のゲルマニア軍を相手にしようとは思っておらず、後方が脅かされないように彼らを足止めするのが目的であった。その為に最高の防御力で持久戦に持ち込もうとしたのだが、それが完全に仇となってしまっている。
「ノエル様、このままでは私達が一方的にやられるだけです。何か策を打たなければ!」
「何かって……どうすりゃいいんだ?」
「現状、問題は私達が敵の射程内で止まっていることです。これでは狙い撃ちにされます。であれば、選択肢は2つです。一度撤退するか、このまま突撃するかです」
「お、おう。だったら…………撤退だ。一度下がれ。態勢を立て直した後で突撃をかける」
「了解です!」
ノエルは珍しく一度下がることを選択した。まあ彼女も彼女なりに、慎重になることを学んでいるのである。とは言え、それは攻撃の中止を意味しない。
○
「敵軍、後退しています!」
「どうやら、私達が一枚上手だったようだな」
オステルマン中将は重騎兵を撃退して沸き立つ兵士達とは反対に、冷静に彼らを観察していた。
「閣下はあまり嬉しくなさそうですね」
「私だって嬉しくは思ってるさ、ハインリヒ。だが、あれはただの一時後退だ。奴らは諦めていない」
「確かに。大きな損害を与えたとは言え、壊滅したとはとても言えないものです」
「そうだな。全軍の警戒を維持せよ。必ずもう一度仕掛けて来るとな」
今回は敵が下手に新しい戦術など試すから、運よく撃退出来たに過ぎない。敵が正道の突撃を仕掛けて来れば、必ずしも勝てるとは限らない。そして彼女の予言はすぐに的中することとなった。
「敵軍、再び接近してきます! 速度は速く、騎馬突撃のようです!」
「了解だ。全軍、敵が射程に入り次第、重騎兵を集中して砲撃せよ!!」
オステルマン中将は今度も自分の目で戦況を確かめながら指揮を執る。重騎兵の接近と同時に主砲、迫撃砲が順次榴弾を叩きつけ、彼らを次々と撃破した。だが今回は、ここまで一直線に突撃してくる気のようだ。
「連中、やる気か……。あの黒鎧共とやりあうぞ! 全軍、覚悟を決めろ!」
まもなく黒と赤の騎兵は射撃を開始。戦車の装甲を数十の矢が打ち付ける。そこまではいつも通りの戦い。その筈だった。
「っ……!?」
オステルマン中将は声にもならない呻き声を上げた。彼女の左の肩から下がなくなっていた。
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