ブリタンニア共和国の陣容

 ACU2313 10/16 ブリタンニア共和国 首都カムロデュルム


「クロムウェル閣下、既に国内では王党派や民主派などの不穏分子がヴェステンラントと内通し、不穏な動きを見せているとの報告があります。まだ規模は分かりませんが、決して油断なきよう」

「革命には反革命が付き物だ。そうであろうとは思っていた」


 ブリタンニア北部に建国、いや復活したブリタンニア連合王国。それは名前だけの存在であるが、共和国内の不穏分子にとってはなかなか魅力的なようだ。既にヴェステンラント側が彼らと接触を図っている。何をするつもりなのかはまだ不明であるが。


「しかしあの国王に、ここまでのことをやる気概があったとは……」

「そうではないな。国王はただ利用されているだけだ。ヴェステンラントに拉致でもされて、無理やり国王に祭り上げられているのだろう。あの男に自分からこんなことをする能力も気概もない」

「そ、そうですか……。それでは、そのことを国民に広く宣伝するのはいかがですか?」


 国王がヴェステンラントの傀儡であると知れば、多くの者は王国に失望してヴェステンラント軍への協力を止めるかもしれない。だがクロムウェル護国卿としては、そうなるとは思えなかった。


「そのようなことを伝え広めたとて、彼らはそれを我々の噓八百だと思うだけだろう。或いは、彼らの指導者がそう宣伝して、我々の宣伝を打ち消すだろう」

「そういうもの、ですか……」

「対象が何であれ、信者というものはそう簡単には心を動かさないものだ」


 そもそも反体制派も、本気で王国の復活や民主主義を目指している者など少数であろう。その大半は、その指導者が権力を握りたいが為に愚かな民を利用しているに過ぎない。そもそも正義など求めていないのである。


「それでは、どうするべきでしょうか……」

「ここはゲルマニアに倣うとしよう。全国的な秘密警察を結成し、反体制派を秘密裏に、かつ迅速に処分する」

「あの国の親衛隊のようなもの、ですか?」

「そうだとも。未だに諸侯の管轄にある警察を一つに纏め、より効率的に治安維持を行う。目的が何であれ、それが国家の本来あるべき姿であろう」

「なるほど……」


 クロムウェル護国卿は政策の全体的に強い中央集権を指向する。それは貴族の特権を廃し、平等な国を作ることも彼の目的の一つであるからだ。


「さあ、そうと決まれば後は実行するだけだ。諸侯に警察の指揮権を譲らせよ。逆らう者は領地と特権を剝奪する」

「は、はい……」


 クロムウェル護国卿はヒンケル総統に負けず劣らずの独裁者となっていた。権力の掌握から一ヶ月も経たないうちに、逆らう貴族を簡単に攻め滅ぼせるだけのお力を手に入れていたのである。


「では次に、議会軍の状況はどうか」


 中央集権的な国家に直属する軍隊。名前は暫定のものだが、特に対案がある訳でもない。


「はっ。こちらは芳しくありません。そもそも貴族の軍事力と言っても傭兵か騎士が大半ですが、傭兵は解雇され、騎士は自らの君主以外に仕える気はないと反抗しています」

「予定のどれくらいが集まっている?」

「まだ十分の一にも満ちません……」


 エウロパで最も旧態依然とした体制を保ってきたブリタンニア。それは至る所に悪影響をもたらしていた。ブリタンニア唯一の軍隊となる筈の議会軍は、今のところ総兵力三万程度である。これでは大八州の一大名と変わらない。


「どうやら、もっと根本的な政策が必要なようだな」

「はい。その通りかと」

「そうだな……。ゲルマニア軍がどうしてあれほどの軍勢を揃えられるのか。それに倣うべきか」

「ゲルマニアは国民を国家が直接に徴兵して兵員を維持しています。しかし我が国にそんな国力は……」



 国庫はほぼ空だ。税収は低く兵員を維持出来る国力はない。


「であれば、やはりゲルマニアに援助を乞うしかない、か」

「しかしゲルマニアがそう易々と支援してくれるでしょうか」

「我が国は貧しい。三十万の軍隊を維持する額も、ゲルマニアにとっては大した負担にはならないだろう」

「そ、それは……」


 何とも惨めな話だが、ゲルマニアとブリタンニアでは民衆の暮らしからしてまるで違う。だからこそ、ブリタンニアで兵士を維持するに必要な金額は多くはない。


「兵士は必要だ。だがそれに加えて、軍需産業も育成していく必要がある……。まったく、我が国には何もかもが足りないな」

「そ、そうかもしれません……」


 クロムウェル護国卿が目指すゲルマニア従属からの脱却は、当面出来そうもない。軍事力の強化にはどうあってもゲルマニアの協力が不可欠だが、それは増々従属度を高めることにしか繋がらない。


 ○


 およそ一週間後。


「秘密警察は一先ず、司令部だけは創設し終えました。これより実際に各地の警察組織を吸収していく予定です」

「よろしい。迅速に頼む。それと、名前を付けよう。秘密警察は固有名詞とは言い難い」

「た、確かに」

「ああ。これを秘密国家警察と名付ける。以後はこの名前で統一せよ」

「は、はい」


 まあ一応普通名詞からは抜け出せているから、クロムウェル護国卿としてはこれでよいのだろう。

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