巴城攻防戦Ⅱ

「焙烙玉を投げつけよ!!」


 明智日向守の号令で、兵らは一斉に小さな球形の鉄塊をガラティア軍に投げつけた。魔法によってただの人間が投げ飛ばすよりは数段遠くに投げることが出来るから、投擲と言っても舐めたものではない。


 それらは当然矢をも叩き落すガラティア兵の槍に弾かれるが、彼らの足元に落下した。そして次の瞬間、無数の爆発がファランクスの足元で起こった。たちまち爆風に直接巻き込まれた数百の兵士が吹き飛ばされ、陣形は大いに乱れる。


「よし。これなら流石に効くわね」

「そのようです。引き続き攻撃を――おや、敵は退いていくようです」

「このくらいで退く?  奴らも案外大したことないのかしら」


 ガラティア軍はこの程度の僅かな損害で撤退を始めた。勇猛果敢な彼ららしくない采配だ。


「それは分かりませぬが、奴らは統制を保ったまま退いているようです。決して崩れた訳ではないかと」

「退くことも軍略の内って?」

「恐らく。少なくともこの攻勢が門を落とす為でないことは確かでしょう」

「そう……」


 どうもこれは門を突破する為の本気の攻撃ではなく、大八洲勢に圧力を掛けることが目的のようだ。


「――つまり、奴らは兵糧攻めでこの城を落とそうとしている、ということ?」

「そう考えるのがもっともらしいですな」


 幾度も攻撃を仕掛けて守兵の士気を削ぐのが攻撃の目的だろう。そして彼らが兵糧攻めという安全策を選んだ以上、兵糧が持つ内は耐えられるが、手を打たなければいずれ負けることは確定的となった。


「であれば、いずれはこちらから打って出て、ガラティア軍を撃滅しなければなりません」

「この寄せ集めで野戦に出ろって?」

「はい。それが能わなければ、我らはここで座して死を待つしかありません」

「チッ……最悪の状況ね」

「ですが、地の利は我らにあります。長く対陣が続けば、疲れ果てるのは寧ろガラティアの方です。我らはその隙を突く他ありません」

「そうね。分かった。暫くは何でもいいから城を守り抜きましょう」


 慣れない地で何か月も遠征することになれば、ガラティア兵も疲れ切るだろう。この戦い、持久力が高い側が勝つ。まさしく持久戦である。


 ○


 数日が経過した。ガラティア軍は一日に三度は中規模の部隊で攻撃を仕掛け、巴城に圧力を掛け続けている。とは言え、今のところ城兵の損害はほぼなく、ガラティア軍を全て撃退出来ていることで士気も高まっている。


「今のところはいい調子のように思えるけど、どうかしら、明智日向守?」

「確かに今のところは我々の思惑の通りに進んでおります。しかし、ガラティアがこのまま手をこまねいているとは思えません」

「それもそうね。でもこちらにはこれ以上打てる手がない」

「……はい。矢を落とされるとは、流石に思っておりませんでした」


 ガラティア軍にはいくらでも打てる手があるだろう。しかし曉は焙烙玉の時点で手札を出し切ってしまっているのである。


「曉様! また敵が押し寄せて参りました! 今度はいつもより倍はいます!」

「へえ。ちょっと本気を出したのかしら」

「わざわざそんなことをする意味があるとは思えませんが……迎え撃つしかありません」


 曉と明智日向守はまたも城門へと向かった。城門の少し後方の櫓から采配を振る。


「ふむ……焙烙玉を喰らっても退く気がないようです」


 焙烙玉の爆炎の中、ガラティア軍は悠々と前進していた。そもそも魔導装甲の前に、破片効果を期待出来ない手榴弾はそこまで効果的ではない。殺傷出来るのは至近距離の敵だけである。故に、彼らがその気なら焙烙玉など気に留めず前進することは可能だ。


「ちょっと、どうするのよ」

「飛び道具が効かぬのならば、この刀で戦うしかありますまい。幸いにして城門に入ればそこは隘路。彼らは陣形を維持出来ません」

「門が落とされるのは気に入らないわね」

「仕方ありません」


 城門の守備兵は必至に焙烙玉を投げつけ矢を射るが、鋼鉄の兵士達の前にはほとんど効果がなく、彼らは怯える素振りも見せずに不気味に接近してくる。


「あの槍、ここまで届くな……。皆の者、門の後ろへ下がれ! 槍に貫かれるぞ!」

「勝手に命じないでくれるかしら」

「申し訳ございませぬ」


 城門の上にいてもファランクスの長槍は届く。明智日向守は城兵を全て城の中に退かせ、門の後ろに武士らを構えさせた。


 そして暫くの静寂の後、城門から数十の槍が飛び出し、たちまち粉々に砕け散った。


「かかれ!! 奴らの陣が乱れている今こそ好機ぞ!」


 ガラティア軍が突入してくる前に、明智日向守は突撃を命じた。敵が城門をくぐろうとするその瞬間こそ最も隙が大きいと彼は判断したのである。自分から攻め込むつもりが向こうから攻め込まれ、ガラティア兵はようやく動揺したようであった。


「間合いに入ればこちらのものだ! 怯むな! 進め!」


 長槍は接近戦に弱い。一度その間合いの内に入られれば、抵抗することはまず無理である。もっとも、彼らもそれくらいは想定済みだ。すぐに腰から刀を抜き、大八州の武士と対峙する。


「刀か。だが、その程度の付け焼刃で大八州の武士には敵わぬ!」


 明智日向守はガラティア兵に斬りかかり、一撃で彼を斬り伏せた。

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