巴城攻防戦

 ACU2313 10/16 宋國 巴城


 進軍するガラティア帝国軍をいかにして迎え撃つか。曉には平明京が金陵城まで敵を引き込んで迎え撃つという選択肢もあったが、流石に都を戦火に巻き込むのは愚策ということで、それより西の巴城(地球で言うと重慶の辺りに存在する)を絶対防衛線として戦に臨むこととなった。


 大河の畔に位置し水運の中心地であるこの城塞都市は経済的にも非常に重要であり、ここら辺では一番の堅固な城ということで、明智日向守が総力を挙げて防衛することを強く主張したのである。


「曉様、諸侯から軍勢をかき集めましたが、それでも我が軍の兵力は三万程度しか集められませんでした。対してガラティアは六万を皇帝が率いております」


 明智日向守は簡潔に状況を報告した。


「上杉がたったそれだけしか動かせないとは、まったく落ちぶれたものね」

「それは……。しかし二倍程度の差であれば、軍略でどうとでもなるでしょう」

「兵の質で負けているから、それどころではないけどね」


 内戦の勃発以来、曉は多くの精兵を失った。ここに辛うじて集めた戦力も諸侯の軍勢の寄せ集めに過ぎず、練度と士気は低く、指揮系統は無意味に複雑なものとなってしまっている。


 戦前から訓練を続けて来た練度の高い軍勢を皇帝が直卒して士気も高く、皇帝を頂点とする分かりやすい指揮系統を有しているガラティア帝国軍とは雲泥の差である。その実質的な戦力差は二倍どころではない。


「――はい。ですので我らは、籠城を主として戦うしかありません。幸いにしてここは交通の要衝ですから、ガラティアは城攻めに乗ってくれるでしょう」


 城など無視されれば何の役にも立たないが、諸々の街道の結節点になっているこの巴城を無視して東に進軍することは出来ない。重装備のファランクスを擁するガラティア軍であれば猶更だ。


「結局は籠城ということね」

「はい。野戦で勝ちを得るのは厳しいかと。ですので籠城を基本としつつ、敵に隙が見えれば打って出て、奴らを再び追い返しましょう」

「奴らさえ追い返せば、今度こそ中國は安泰、か。とは言え、一番重要な内地が失われているけれど」

「今はともかく、中國を守り抜きましょう。話はそれからです」

「――その通りね。無駄なことは考えないようにしましょう」

「それでよろしいかと」


 この先のことを考えるのはガラティア軍に勝ってからであろう。


 ○


 ACU2313 10/17 宋國 巴郡


「ふむ。敵は籠城を選んだか」

「はい、陛下。敵はおよそ三万。それも寄せ集めの軍勢です。今度こそは、勝てます」


 東方ベイレルベイ、イブラーヒーム内務卿は言った。こちらは国内から選りすぐりの軍勢を集結させた精鋭部隊なのに対し、敵は数合わせの軍隊。今度こそは勝てると彼は自信を持っていた。


「だが敵は城に籠っている。籠城ならば練度の低い兵士でも十分に戦力となるぞ?」

「そ、それは……とは言え、長期戦となれば、士気の低い連中は自ずと崩れる筈です」

「ああ。だから、我々らしくないが、今回は包囲で攻めよう。力攻めはなしだ」

「はっ。陛下の思し召しのままに」


 適度の圧力をかけ続けつつ、敵が疲弊するのを待つ。それがガラティア軍の作戦である。見敵必殺を是としてきたガラティア帝国軍にしてはいささか消極的な作戦であるが、彼らはそれだけ大八州の将兵を高く評価しているのだ。


 ○


「曉様、敵が攻め寄せて参りました!」

「そう。力攻めで一気に落とそうと言うのかしら。それなら返り討ちにしてやるまでよ。私も出るわ」

「それでは私もお供させて頂きます」


 城を囲んだと思えば、ガラティア軍は早くも城門に攻撃を仕掛けて来た。曉と明智日向守は早速城門へと向かう。


「長槍持ち……城攻めにはとても向いていない筈ですが……」


 ガラティア軍はファランクスで攻め寄せていた。長さ6パッススにも達する巨大な長槍を数千人の兵士が持ち、それを正面と斜め上に向けた針鼠のような方陣である。


「そうね……。まあいいわ。だったら城攻めとは何たるかを教えてやるだけよ。弓隊、放て!!」


 ファランクスは野戦の為の陣形だ。決して城攻めて用いるべきものではない。だから曉は容赦なく、城門や櫓の上から矢を放たせた。この状況なら練度の高低は関係なく効果的な射撃を行うことが出来る。数千の矢がファランクスの頭上に降り注いた。しかし――


「ほう……矢を防ぐか」

「そんな馬鹿なっ!」


 ファランクスは空に向けられた長槍を振るい、飛来する矢を次々と叩き落した。煌めく穂先は陽光を眩しく跳ね返している。そしてガラティア軍はゆっくりと一歩ずつ、城門に向かって行進する。


「前は矢が効いたじゃない。どうなってるの?」

「我らの弓矢が長槍に有効であることを悟ったのでしょう。それで矢を叩き落することを覚えたようです」

「矢を落とすなんてそう簡単に出来るもの?」

「あの槍に細工がしてあるようです。槍の途中にいくらか刃が取り付けられていると見えます」

「なるほど……。厄介なことになったわね。矢が効かなければどう攻撃するの?」


 籠城戦で一番主要な反撃手段は飛び道具な訳で、それが効かないとなるとマトモに籠城することも出来ない。


「それでは、武士の誉れに全く反しますが、焙烙玉を使うしかありますまい」

「あー、あれね。まあいいわ。用意しなさい」


 大八州人としては海賊の武器と蔑ろにしている武器である。


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