総攻撃
「まさか、奴らがカムロデュルムを飛び越えて東門を攻撃したと?」
「そういうことでしょうね。まさかそこまでの射程を持っているとは思いませんでしたが」
西門の正面に鎮座していた列車砲だが、実はその照準は東門に合わされていたのである。カムロデュルムの端から端まで届くほどの射程を、列車砲は持っていたのだ。
「クロエ様、東門の守備隊が大きな被害を受けております」
「集結したところを叩くとは、やってくれますね」
ゲルマニア軍はまず跳ね橋を下ろして守備隊を東門に集結させ、そこに巨大な榴弾を叩き込んだのだ。何とも悪辣である。
「ということは、次に来る手は明らかですね」
「……はい。跳ね橋を渡り、大量のゲルマニア兵が進軍してきています」
「迎撃出来る部隊はたった今吹き飛ばされた、ということですか……。本当に、やってくれますね……」
完全に全てがゲルマニア軍の掌の上。クロエはそう思わざるを得なかった。
「どうされますか、クロエ様。西門の守備隊を至急東門に回すべきかと思いますが」
「ええ。とは言え、こちらにも多数の敵兵がいます。全部を東に回すことは出来ません。三千程度を回すので限界でしょう」
「はっ。それではそのように部隊を移動させます」
「急いで下さい。一刻の猶予もありません」
ゲルマニア兵は刻一刻と流れ込んでくる。ヴェステンラント軍は全てが後手に回っていた。
○
ゲルマニア軍の突入部隊を率いるのはヒルデグント大佐である。市街戦には慣れているということで、彼女が志願し認められた。因みにシグルズは、彼女の後詰として水堀の外で待機している。
「我らが総統に逆らう者に情けなど無用です。一人残らず射殺して下さい。進め!」
「「おう!!」」
機関短銃で武装した精鋭の歩兵は跳ね橋を渡り、列車砲の砲撃で崩れかけた城門に突入した。ヴェステンラント兵達は瓦礫に埋まり、運よくそれを免れた者が仲間を救おうとしていたが、そこにヒルデグント大佐は容赦なく兵を突撃させる。
「好機です。敵が混乱しているうちに殲滅して下さい」
「あ、あれが敵だと……。それはいくら何でも……」
「奴らは魔導兵です。生きているだけで脅威です」
「……はっ」
混乱の渦中にある魔導兵は何ら抵抗も出来ず、たちまち殲滅されていく。
「こ、この、悪魔が…………」
その時、死にかけの魔導兵が僅かに動く手で弩をヒルデグント大佐に向けた。だが彼女は驚きもせず、冷めた目で兵士を見下ろした。
「おや、生き残りですか。死んでください」
彼女は回転式拳銃を数発放ち、魔導兵の頭を撃ちぬいた。
「周辺に敵兵の様子はありません。東門は完全に我々の制圧下に入りました」
「了解です。それでは敵の援軍が来る前に出来る限り前線を推し進めましょう。西門を目指して進軍します。後詰の部隊にも城内に突入するよう要請して下さい」
「はっ。戦車が恋しいところですが、仕方ありませんね」
「ええ、まあ。この足で進軍するのは少し疲れます。とは言え、少しの辛抱です」
東門はゲルマニア軍に確保された。そして後詰の部隊が市内に突入すると同時に、戦車が渡れる橋が工兵部隊によって架けられ始めた。半日もすれば市内に装甲車と戦車が突入するだろう。歩兵だけの戦いはそれまでの辛抱だ。
「ん、大佐殿! 敵のコホルス級魔女が多数、接近しています!」
「やはり空を飛べる連中は来るのが早いですね。少々武器が不足していますが、迎撃します。家屋の陰に隠れてください」
「はっ」
第89機甲旅団の兵士達は家々の陰に隠れ、小銃を空に向け射撃を開始した。正直言って空を縦横無尽に飛び回る魔女相手には単発の小銃では相性が悪いが、少なくとも敵を引き付けておくことは出来る。
「大佐殿! 敵が、真上です!」
「ん?」
魔女が剣を構え、ヒルデグント大佐に向かって急降下してきた。だが彼女は落ち着いて拳銃を両手で構え真上に向ける。
「くたばれ!!」
「まったく、品性のない」
「うっ――」
拳銃は魔女の肩を貫き、魔女は剣を落として地上に落下し、気を失った。大量の血を流している。放っておけば死ぬだろう。とは言え、こちらに隙を晒してくれなければ、小銃で魔女を撃ち落とすのは難しい。
「やはり、対空機関砲がなければコホルス級と戦うのは厳しいようですね……」
「そうですね。まあいいでしょう。装甲車が到着すれば、彼女達も皆殺しに出来ます」
ヒルデグント大佐は暫く持久戦を行うことにした。
○
「クロエ様、既に5万を超える敵兵が侵入してきています。東門を奪還することは現時点では難しいかと。加えてゲルマニア兵は橋を架けているようで。戦車が市内に突入してくる可能性もあります」
「そうですか……。水堀をこうも簡単に無力化されるとは思いませんでしたね」
「はい。かくなる上は、市街戦で敵の勢いを削ぐしかないかと」
「あまり市民に犠牲を出したくはありませんが、仕方がないですね。南北方向に防衛線を敷き、ゲルマニア軍を撃退します」
「……はっ」
市内に敵の橋頭保を許した時点で、援軍なき籠城戦を行うヴェステンラント軍は圧倒的に不利だ。マキナもクロエもそのことを承知しつつも、カムロデュルムを捨てると言う選択肢は取れなかった。
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