大蜂起

「クロムウェル殿、我が軍が総攻撃を開始しました。今こそが、好機です」


 オーレンドルフ幕僚長は言う。


「ああ、そうだろうとも。今こそ蜂起の時だ。全部隊に通達! 各部隊は王宮、駐屯地、城門、事前に策定した目標を制圧せよ! 今こそ立ち上がる時である!」


 延々と準備を進めてきた。カムロデュルムの各所におよそ30存在する隠れ家に、15,000の兵士。それらが今、一斉に混乱を巻き起こすのだ。


「我々主隊は、作戦通り東門を制圧し、跳ね橋を下ろす。君にも着いてきてもらうぞ」

「はい。私の力を存分に使ってください」

「頼もしいではないか。それでは全軍、出撃!」


 クロムウェル子爵が自ら率いる2,000の部隊は、防備が手薄になっている東門へと進軍する。もっとも、隠れ家から出たら200パッススくらいで目的地なのだが。


「やはり警備は手薄なようです。今なら勝てます」

「そのようだ。突撃歩兵は東門に突入せよ! 狙撃兵はこれを援護!」

「「おう!!」」


 ヴェステンラント軍はほんの数百の兵士が簡易な検問所に詰めているだけである。


「狙撃兵、撃ち方始め」


 まず先手を打ったのは、ブリタンニア人の小銃である。詰所の薄い壁を貫いて弾丸を浴びせ、城門の上に立つ魔導兵にも攻撃を行う。


 ヴェステンラント兵にはわざわざ魔導装甲を身に付けていない者も多く、たちまち多くの死傷者を出し、大混乱に陥っているようだ。


「少し彼らに同情したくもなる勢いだな」

「戦争とは相手の嫌がることを積極的にするものです」

「それもそうだな。障害は全く存在しない。突撃歩兵はそのまま突撃し、最優先で跳ね橋を制圧せよ」


 機関短銃で武装した兵士達が、混乱するヴェステンラント軍の陣地に突入した。城門の魔導兵は何とか秩序を保っているが、両軍が入り乱れるこの状況では援護射撃など出来よう筈もない。更には家々の影から狙撃され、彼らも次々と倒されていく。


「クロムウェル様、跳ね橋を制圧しました」

「よし。橋を下ろせ! 鎖はその後に叩き斬れ!」


 ヴェステンラント軍がまだ戦闘を継続している中、水堀の上に掛かる跳ね橋が降り始めた。それはすぐに橋となり、最後まで下りたところで橋を操作する鎖が切断された。これでもうヴェステンラント軍は橋を上げることが出来ない。


「跳ね橋はこれで当分上がらないでしょう。作戦は成功です」

「ああ。目標は達成した。これ以上の戦闘は無意味だ。全軍、撤退せよ!」


 ほんの20分程度の戦闘の後、クロムウェル子爵は竜巻のように消え去った。


 〇


「クロエ様、カムロデュルム各地で武装した集団が蜂起を起こしたようです。現在我が軍と交戦中ですが、主力を欠く以上、戦況は不利です」


 マキナは素早く情報を収集し、クロエに伝えた。


「反乱、ですか。恐れていた最悪の事態が起きてしまいましたね……」

「っ、クロエ様、王宮に敵対勢力が侵入し、そのほとんどを占拠したようです。国王も彼らの手に落ちたものかと」

「早い……。まあ王宮なんて特に重要ではありませんが」

「し、しかし、ブリタンニア国王が向こうに渡るのは問題では?」


 スカーレット隊長は国王が反ヴェステンラントの旗印にされることを警戒していた。


「どの道カムロデュルムから逃げることなど出来ませんよ。一時的なものです。それに、ルシタニアのルイなどと比べれば、彼の求心力は皆無ですから」

「そ、それはそうですが……」


 国王が自ら蜂起を促したところで、それに応じる民衆などほとんどいないだろう。まあこれも、国王の権威を上手く落としてきたオーギュスタンの手腕によるものだが。


「いや、その前に、直ちに暴徒は鎮圧しなければなりません。その任務、どうか私にお任せ下さい!」

「ええ。任せました。すぐに暴徒を排除して下さい」


 混乱に乗じて蜂起を起こしたからこそ貧弱な装備と兵力で対抗出来ている訳で、統制の取れた正規軍が鎮圧に乗り出せば簡単に崩れるだろう。特に突撃力に定評のあるスカーレット隊長は、この任務には適当であろう。


 しかしまだまだ凶報が続く。


「クロエ様、東門の跳ね橋が暴徒の手によって下ろされたようです。設備が破壊され、再び上げることは困難なようです」

「東門? まさか……ゲルマニア軍の本命は東……?」


 クロエは気付いてしまった。これまでの砲撃が全て囮であり、本当は市内の反乱軍に跳ね橋を下ろさせ、東門から侵入することが狙いであるのだと。


「それは……本当ならば大変な危機です。しかし敵に城門を破壊する手段はありません。順当に城門を防衛すれば勝てるかと」

「そ、そうですね。すぐに守備隊を東門に集結させてください」

「はっ」


 歩兵だけでヴェステンラント軍が守る城の突入出来る訳がない。クロエはそう高を括っていたし、それは事実だ。だが、ゲルマニア軍に大砲がない訳ではないのだ。


「っ!? 今度は何ですか?」


 戦車の主砲より遥かに重い爆音が響き渡った。


「列車砲のようです。しかし目標はここでは――」

「おっと……これはまた、やってくれましたね」


 更なる爆音の後、東門から煙が上がっていた。

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