総攻撃開始

 ACU2313 9/4 王都カムロデュルム


「クロエ様、ゲルマニア軍が西門の前に戦車や装甲列車を集結させているようです」


 マキナはゲルマニア軍の動きをすぐさま察知しクロエに報告した。


「ついに来ますか。しかし、戦車は水の中に入ると壊れると聞きますが」

「恐らくは水堀の外から砲撃を行うつもりでしょう。戦車の射程距離からすれば、水堀など誤差に過ぎません」

「ああ、なるほど。確かにあの大砲に撃たれれば、城壁などすぐに壊れてしまいます」

「すぐに魔女を西門に固めますか?」

「ええ、そうして下さい。それに、私も前線に出ます。決戦の指揮くらい自分で執りますよ」

「はっ。私もお供致します」


 ヴェステンラント軍の魔女ならば、徹甲弾に吹き飛ばされた城壁を瞬時に修理するなど容易なこと。一先ずは対症療法的な作戦を取る。


 〇


 さてクロエは城門の上に堂々と立ち、指揮を執っている。城門、城壁が吹き飛ばされること自体は防ぎようがない為、城壁の上に設置された数々の設備は最早役に立たない。


 各所に設置した弩砲も、正直言ってすぐに無力化されるだけだろう。結局のところ勝負を決めるのは白兵戦なのである。


「しかし、この数の大砲に睨まれると、流石の私でもちょっと震えますね」


 戦車は150両ほど。それに戦車とは比べ物にならない巨大な大砲を3門も搭載した装甲列車も、カムロデュルムを睨んでいる。


「クロエ様、万一の際はこの私がお守り致します」


 スカーレット隊長は勇壮な声で言った。


「ええ、頼りにしていますよ、スカーレット」

「……治療の魔法も持たないスカーレット様が、どのようにクロエ様をお守りすると?」


 マキナは珍しくスカーレットに突っかかった。


「んなっ――そもそも怪我をされるのを前提にするものではないだろう!」

「確かに、それもそうですね。申し訳ありません、クロエ様」

「はいはい。どっちも頼りにしていますから、喧嘩は止めて下さい。子供ですか、あなた達は」

「……く、クロエ様が仰るのなら」


 しかし実際のところ、人を守る能力に長けているのは治癒の魔法に長けたマキナである。


「っ、クロエ様! 敵の大砲が動き始めました!」


 待機位置で水平を向いていた戦車の主砲、装甲列車の列車砲が、ゆっくりと砲口を上げる。


「ついに来ましたか。魔女隊は総員、衝撃に備えさせてください」

「はっ」


 マキナは城壁の後ろに隠れている部隊に戦闘態勢を指示し、クロエとマキナとスカーレットは空中に退避し、臨戦態勢が整った。


「敵軍発砲!」


 けたたましい爆音がカムロデュルム中に響き渡る。次の瞬間、城壁から大量の瓦礫が落下し、音を立ててガラガラと崩れ始めた。


「魔女隊。城壁の修復を開始してください」

「はっ」


 魔女達は魔法の杖を一斉に構え、崩れ落ちた城壁を元あった形に修復する。魔法で作られたものであるから明日にはまた崩れる訳だが、この戦いの最中は城壁が再生されたも同然なのである。


 と、次の瞬間、間髪入れずに次の射撃音が轟き、修復途中の城壁がまた崩れ去った。


「おや、斉射を連続して壁を崩そうとしているようですね」

「確かに、発砲しているのは戦車の半分程度のようです」


 ゲルマニア軍は戦車を半分に分け、交互に砲撃を行わせることで短い間隔の射撃を行っていた。手数で城門を突き崩そうとしているらしい。


「とは言え、その程度でこの城壁が破れるとは思わないことですね」

「はい、クロエ様! 我々の魔法の方が早く城門を修復出来ます!」

「ええ。私達を舐めてもらっては困ります」


 崩された城壁も、たちまち魔女達が修復した。その後もゲルマニア軍は半刻程に渡って砲撃を行ったが、結局ヴェステンラントの魔女の防御を貫くことは出来なかった。


「砲撃が、止まったようですね」

「ええ。やはり城壁はまだまだ有意義なようです」


 ゲルマニア軍は砲撃を停止した。どうやら砲撃で城壁を破壊するのが不可能であると悟ったらしい。


「さて、渡る手段のないこの水堀を、ゲルマニア軍がどう攻略するのか、見物ですね」

「クロエ様……性格が悪くなってませんか?」

「戦時下なんですから、仕方ありませんよ。それに、ゲルマニア軍が何をしてくるのかは普通に楽しみでもあります」


 別にゲルマニア人自体に恨みはない。良い戦争の相手である。


「クロエ様、気になることが」

「どうしました、マキナ」

「こちらを向いている列車砲ですが、私の見た限り一発も砲弾を放っていません」

「何? お前が見過ごしただけではないのか?」

「そうかもしれませんが、列車砲程の破壊力ならば、見れば分かる筈です」

「ま、まあな」


 戦車の主砲と列車砲では破壊力が桁違いである。だからそれに気付かなかったなどということは有り得ない。


「うーん、どうしたんでしょうね」

「故障でもしたのでは? 我々から見てもあの大砲に無理があることくらい分かります」

「そうだといいんですが、そうでなかったら何を企んでいるのやら」


 クロエにはどうにも嫌な予感がした。ゲルマニア軍が兵器の故障で作戦を失敗したことなど一度もないし、仮にあったとしてもシグルズの魔法で無理やり動かす筈だ。

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