上陸成功

 ACU2313 8/2 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸


「本日を以て、西部方面軍及び帝国海軍は、ブリタンニア島上陸作戦、ゼーレーヴェ作戦を成功させました」


 ザイス=インクヴァルト大将は総統に堂々と宣言した。


「我が軍はブリタンニア島に橋頭保を確保し、それを確保することに成功しました。重砲、戦車、対空機関砲を中心とした防御陣地が構築されており、ヴェステンラント軍がこれを奪還しようとしても、ことごとく撃退出来るでしょう。この成果が失われることは最早あり得ません」

「そうか……。こうも短期間でよくやってくれた。後は、ブリタンニア島からヴェステンラント軍を追い出すだけだな」

「はい。ブリタンニアを確保すれば、ゲルマニアを脅かし得る脅威はなくなります。この戦争を終わらせる算段も付くでしょう」

「戦争を終わらせる、か。もう戦争をしているのが日常になってしまって、想像がつかんな」

「確かに、その通りかもしれません」


 もう5年も戦争をしている。特にヒンケル総統にしてみれば、総統をやっている期間の3分の1が戦争なのである。この戦争は、あまりにも長かった。


「それで、ブリタンニアを奪還することは出来そうなのか?」

「港は確保しています。今後、50万以上の兵力を上陸させ、物量でヴェステンラント軍を圧倒する予定です」

「物量で押し潰すか。君にしては随分と雑な作戦じゃないか」

「本当に優れた将軍とは、確実に勝てる状況を作り出せる人間です。劣勢を覆して勝利を得るなど、二流の指揮官に過ぎません」

「そういうものか。後者の方が民衆への受けはいいんだがな」

「それだから愚民とは困るのです。本当に優秀な人間は見向きもされない」


 ザイス=インクヴァルト大将は珍しく不愉快そうな表情を露にして言った。世間一般に知られる英雄とは、彼に言わせてみれば二流の将軍に過ぎないのだ。本当に優秀な人間は簡単に勝利してしまう為に、人々は注目すらしない。


「とまあ、これはただの愚痴です。ポルテスムーダはよい港です。これを押さえられたのは幸運でした」

「そうだな。シグルズ君には褒章を用意しないとな」

「ええ。新しく勲章でも用意しましょうか」

「それくらいしないと彼には報いることが出来ないな」


 シグルズには腐るほどの勲章が与えられているが、そろそろ勲章がネタ切れになってきた。


 ○


 ACU2213 8/2 ブリタンニア連合王国 王都カムロデュルム


 ゲルマニア軍はブリタンニア島に上陸した。この王都カムロデュルムから南に60キロパッススと離れないところに、ゲルマニア軍が続々と上陸してきているのである。


「クロエ様、申し訳ありません……。やはり私が水際での迎撃に成功していれば、このようなことには……」


 スカーレット隊長は心底悔しそうに言った。


「いえ、あの状況では最善の采配でしたよ。元より、あなたをあれほど不利な状況に追い込んでしまった私が悪いのです」

「そ、そんなことは……。クロエ様の命を達成出来なかったのは、私の責任で……」

「はい、その話はもう終わりにしましょう。私達はこれからゲルマニア軍がここに攻め込んで来るのを撃退しなければなりません。もし勝てたらとかを議論している暇はありません」

「わ、分かりました」


 まだヴェステンラント軍は負けた訳ではない。戦いは始まったばかりだ。


「さて、いい案はありますか?」

「ゲルマニア軍の弱点は大量の補給を必要とすることです。補給線を切断してしまえば、ゲルマニア軍は一歩も前進することは出来ません」


 マキナはダキア軍やルシタニア軍がやってきた戦略を提案した。つまるところ、ゲリラ戦である。


「そうですね。正面からぶつかっても厳しいのならば、やっぱり補給を切断するしかないようですね」

「はい。幸いなことに、ブリタンニアの交通網は非常に貧弱です。ゲルマニア軍が前進するのには時間がかかるでしょう」

「であれば、それを切断するのも難しくはないですね。まあ無様ですが、暫くはそうするしかないようですね」


 ヴェステンラント軍の兵力は極めて劣勢だ。真正面からゲルマニア軍と殴り合う戦力はない。


「その、クロエ様、本国からの増援はないのですか?」


 スカーレット隊長は尋ねた。


「予定が遅れていますが、来月には届く筈です。3万程度ですが」

「3万ですか。私達と合わせて6万、最低限の抵抗は出来る人数ですね」

「ええ。まあ1回の会戦に必要な最低限しかない状態で会戦を挑もうとは思えないですが」

「それは……まあ。それでは一先ず、増援が到着するまでこのカムロデュルムを守る必要があるのですね」

「はい。そういうことです。今、私達は兵力が全く以て不足しています。ですので時間を稼ぐ必要があります」

「はっ。そのように」

「くれぐれも真正面から戦ったりはしないでくださいね。時間を稼ぐだけですからね。スカーレット隊長」

「わ、分かりました。肝に銘じます」


 スカーレット隊長もこの状況で決戦を挑もうとすることはなかった。

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