カムロデュルム進攻作戦

 ACU2313 8/4 ブリタンニア連合王国 ポルテスムーダ港


「やあ、シグルズ。ゼーレーヴェ作戦が成功したのは君のお陰だ。よくやってくれた」

「こ、これは大将閣下……。僕は義務を果たしたまでです。それが軍人というものですから」


 ザイス=インクヴァルト大将は海を渡ってポルテスムーダ港に来ていた。これからは彼がブリタンニア遠征軍の指揮を現地で執ることになる。


「それでシグルズ、私の勤務場所は用意してくれているか?」

「はい。執務室と会議室、共に用意しています」

「よろしい。それではそこで話をしようか」

「え、は、はい」


 ――面倒なことに巻き込まれそうだ。


 シグルズは悪い予感しかしなかったが、ザイス=インクヴァルト大将を会議室へと案内した。彼の引っ越しを手伝わされた後、大将は人払いをしてシグルズだけを残した。


「それで……今回はどんな御用ですか?」

「シグルズ、君の功績に報いるは我が国に存在するどんな勲章ですら足りない。そこでヒンケル総統は、君の為に新しい勲章を設けることにした」

「は、はあ……」

「であるから、その勲章は総統閣下が自ら君に授与する」

「なるほど……。ではブリタンニアを落とした後にでも――」

「その必要はないぞ、シグルズ君」

「そ、総統!?」


 部屋の隅からひょっこりと悪戯っぽい笑みを浮かべながら現れたのは、紛れもなくヒンケル総統であった。


「ザイス=インクヴァルト大将が言っていた通りだが、君には私から直接に勲章を手渡したいのだ。ほら、こっちに来い」

「は、はい」


 ヒンケル総統は両手に抱えるくらいの大きく立派な箱を机の上に置くと、それを開け、黄金に煌めく鉄十字の勲章を取り出した。


「黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章だ。ゲルマニアで君だけが持つことになる勲章だ。君に匹敵する活躍をした人材が現れれば授与するかもしれないが、今のところは候補者なしだな」

「あ、ありがたき幸せです」

「受け取ってくれたまえ。君には期待しているぞ」

「ははっ」


 と言う訳でとんでもない勲章を貰ってしまったシグルズであった。ヒンケル総統はシグルズに勲章を手渡すと、すぐさま帝都に帰還した。


「さてシグルズ、ゲルマニア軍で最高の栄誉を賜った君に、早速だが仕事を頼みたい」

「今度は何でしょうか……」

「作戦目標は当然ながら、カムロデュルムの奪還だ。しかしながら、ヴェステンラント軍は相当激しく抵抗してくることだろう」

「そうですね。我が軍の補給線を切断しようとしてくるかと思われます。ブリタンニアは我が軍にとっては不毛の大地ですから」

「仮にも同盟国を悪く言うものではない。とは言え、その通りだ。ブリタンニアの道は狭く、線路など一本も存在しない。我々にとって条件は最悪だ」


 ゲルマニアと地続きであるルシタニアでは最低限の鉄道網が存在し、大量の交通を前提に太い幹線道路が整備されていた。これらの交通網は春作戦におけるルシタニアでの快進撃に一役買っていた。


 しかし島国であるブリタンニアでは道路の整備などまるでされていない。まあそもそも海運の国であるから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。


「つまりだ、敵が我々の補給線を攻撃でもすれば、たちまち補給は立ち行かなくなる。よって、我々は補給線を敵の襲撃から護衛しなければならない」

「護衛ですか。しかし第88機甲旅団は、というか機甲部隊はそういう任務には向いていない訳ですが……」


 まあ確かに安全に物資を輸送出来るが、あまりにも効率が悪い。寧ろ収支がマイナスになりそうな勢いである。


「ああ、確かに。だから今回は、第88機甲旅団に仕事を頼む訳ではない」

「と言いますと?」

「君に頼んでいるのだ、ハーケンブルク少将」

「ああ……なるほど?」


 どうやらシグルズの魔法に御用があるらしい。つまりろくでもない仕事だ。


「それで、任務とは何でしょうか」

「端的に言えば、装甲列車だ。カムロデュルム近郊に陣地を構築した後、装甲列車で補給線を確保する」

「その線路を僕に作れと仰る訳ですね」

「その通りだ。よく分かってるじゃないか」


 ザイス=インクヴァルト大将は不敵な笑みを浮かべた。


「はあ……」


 ブリタンニアには線路がない。だからシグルズが装甲列車を先導して線路を魔法で作り出し、無理やり走らせようと言うのである。正直いってシグルズの好みではないが、命令であれば拒否することは出来ない。


「しかし閣下、装甲列車の存在は、既にヴェステンラント軍の知るところです。敵が何らかの対策を取る可能性も考えられますが、その辺りは?」

「それについては抜かりないわ!」

「え、クリスティーナ所長?」


 今度はクリスティーナ所長が出てきた。白衣をなびかせながらルンルンと執務室に入ってくる。


「閣下、今日は色々おかしくないですか?」

「気にするな」

「私の建造したⅤ号装甲列車ならば、ヴェステンラント軍がどんな手を打とうとも、全て粉砕してやるわ。13センチの装甲に1両40門の機関銃に10センチ列車砲に――」

「ああ、分かりましたから、もういいです」


 ともかくクリスティーナ所長は頼もしい兵器を持ってきてくれた訳だ。

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