ブリタンニア空襲Ⅱ
「よーし、じゃあ爆弾投下!」
「本当にやっちゃっていいんですか?」
「大丈夫大丈夫。敵の施設しか狙わないから」
「……分かりました。空爆を開始します」
王都の状況についてはある程度知られている。ヴェステンラント軍は王宮やブリタンニア軍の基地を利用しており、王都はすっかりヴェステンラント軍の拠点と化しているのだ。
「シグルズ、狙いは精確にね。あんまりブリタンニア人を殺すと問題になるから」
「勝手に王都を爆撃してる時点で問題なんですけどね……」
魔導通信はその性質上、これほどに離れた場所から本国に通信することは出来ない。シグルズの発明した機械式通信機はまだ性能が足らず、やはり本国と通信することは出来ない。
さて、爆撃は開始された。爆撃機は高度と速度を落として可能な限り精確に爆弾を投下する。
「よし。王宮を吹き飛ばしました」
「うんうん。いいね」
爆弾は精確に王宮を貫き、主要な塔は崩れ落ちた。まあ再建の代金くらいは総統に負担してもらうこととしよう。しかし次の投下で問題が起こる。
「あっ……」
「ん? どうしたの?」
「あー……思いっきり民家に直撃してますね、あれ……」
予想外の軌道で落下した爆弾が目標を逸れて民家に直撃してしまった。
「うーん……やっちゃったね。やっぱりそこまでの精度は期待出来ないか」
「やっぱり止めた方がいいんじゃないですかね」
「そうだねー。じゃあここら辺でお終いにしようか」
「了解です。ルシタニアに帰還します」
爆撃は早々に終了した。しかし地上では大変なことが起こっていた。
○
「殿下! 殿下ご無事ですか!?」
数十の兵士が爆散した建物の瓦礫の中に踏み入って、瓦礫を投げ飛ばしながら彼の名を呼ぶ。
「急げ! 急いで殿下を見つけ出せ!」
「いたぞ! オーギュスタン様だ!」
「早く! 早くお連れせよ!」
「医者を呼べ! 早くしろ!」
赤公オーギュスタンは空爆に巻き込まれた。偶然にも避難していた民家に爆撃機が外した爆弾が命中したのだ。
「殿下! どうか目を開けてください! 殿下!」
オーギュスタンは腹に木片が突き刺さり、全身に打撲傷を負い、まさに満身創痍といった有様であった。家臣達が彼に呼び掛けるも、オーギュスタンに意識が戻ることはなかった。
○
「ほ、本当ですか、クロエ。オーギュスタンの屋敷が空襲を受けたと?」
「はい。間違いありません」
「それで? オーギュスタンは? 無事なんですか?」
「お命は取り留めたようです。しかしながら未だにお目覚めにならず、お目覚めになったとしても軍団の指揮を執るのは不可能でしょう」
「何と……」
「クロエ様、今やあなたがエウロパ遠征軍の最高司令官です。クロエ様がどうするか決めねばなりません」
「そ、そうですよね……」
エウロパ方面にいる唯一の大公がクロエである。だからオーギュスタンが再起不能になっている間は最高司令官は自動的にクロエとなる。
「一先ず、情報は隠して下さい。このことが知られれば全軍の士気に関わります」
「はっ」
「それに、オーギュスタンが目覚めなかったら、私がブリタンニア防衛を指揮しなければいけないですね」
「はい。そうなりますかと」
「はぁ……。そういうのには慣れてないんですけどね……」
クロエに戦術の指揮は出来るが戦略の指揮は出来ない。不安しかない訳である。
「クロエ様ならば、問題ありません。我ら一同、クロエ様に着いて参ります」
「そう言ってくれると嬉しいですよ、クロエ」
「はっ……」
結局オーギュスタンが昏睡状態から回復することはなく、クロエが戦争指導をする羽目になった。
〇
ACU2313 7/19 王都カムロデュルム
クロエはエウロパ遠征軍の指揮系統を掌握し終えた。そして今、ブリタンニア防衛についての会議を開いている。
「デュブリスがこれほどに大規模な攻撃を受けたのです。であるからには、デュブリスの防備を固めるべきです!」
猪武者と評判の女騎士、スカーレット隊長は言った。まあ普通はそう考えるものだろう。
「それも一理あります。しかし、ゲルマニア軍がここまで分かりやすく攻撃予定地点を教えてくれるというのには、少々違和感がありますね」
「そ、それは……」
「ゲルマニア軍の狙いは我が軍をデュブリスに引き付けて、全く別の場所に上陸すること。オーギュスタンはそう推測していました」
「とは言え、デュブリスの陣地はかなり派手に壊されています。もしも敵が上陸してきて、戦力を増強していなかった場合、一瞬で制圧されるのは間違いありません」
「おや、あなたにしては弱気ですね」
「げ、現実を見ているだけのことです」
「まあ、そう躊躇わずに言うのはあなたらしいですね」
もしもゲルマニア軍がデュブリスに上陸してきたら、今のままでは絶対に守りきることは出来ないだろう。
「しかし、奴らが他の港を奪いに来たらどうしようもありませんし……」
「やはりここは、全ての港を防衛するしかありませんね」
「そんなことが可能ですか? 我々の戦力は……」
「援軍が来るまで時間を稼げればよいのです。各港の状況に応じて兵力を配分し、ゲルマニア軍の襲来に備えましょう」
クロエは結局、オーギュスタンの指示通りの堅実な策で挑むことにした。
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