ブリタンニア空襲

 ACU2313 7/15 ブリタンニア連合王国 王都カムロデュルム


「クロエ様、敵の爆撃機が王都に接近しているようです。ゲルマニア軍の通信でも、デュブリスを目的としている様子があります」

「なるほど……。通信と行動に矛盾はないようですが……あまり信用は出来ないですね」


 もうゲルマニア軍の通信など信用出来ない。それがこちらを欺くための偽の通信である可能性は全く排除出来ないどころか高い。


「ゲルマニアの狙いが何であれ、既にブリタンニア島に爆撃機が迫っています。周辺各所には警戒を呼び掛けるべきでしょう」

「はい。そうしてください」


 ともかく、どこかを爆撃するつもりなのは確かだ。


 ○


「――オーギュスタン、状況はこのようになっています。どう思いますか?」


 相変わらず暖炉の前でくつろいでいる赤公オーギュスタンに、クロエは対応を相談しに行った。


「なるほど。単純に考えれば、上陸作戦を決行する前に沿岸の防御陣地を破壊することだろう。そしてそこに上陸するのが目的だ」

「まあそうでしょうね。とは言え、爆撃機をどうにかする手段は私達にはありませんが……」

「この空襲に関しては、それも確かに問題だ。だがもっと問題なのは、空襲を受けた港が本当に敵が上陸を計画している港かどうかだ」

「ん? どういうことです?」

「つまり、敵は我々に本当の上陸地点を隠す為に、あえて全く関係ない港を爆撃する可能性があるということだ」


 オーギュスタンはゲルマニア軍の意図を言い当てた。


「ですが……そんなこと、どうやって見分けるのですか?」

「見分けるのは不可能だ。とは言え、そこに戦力を全て集めるような愚は避けるべきだな」


 オーギュスタンは港が空襲を受けようと防衛体制を特に強化しないこととした。つまり、この時点でザイス=インクヴァルト大将の作戦は完全に破綻した訳である。


 ○


 ACU2313 7/15 ブリタンニア連合王国 デュブリス


 オーギュスタンが完全にゲルマニア軍の作戦を読んでいることなど知らず、シグルズとライラ所長はブリタンニア南東部の港町デュブリスを爆撃しに来ていた。


「ふーん……。どうやら敵は、なかなか頑丈な防衛線を整えているようだね」

「そうですね……。堅固な塹壕が掘られています。流石はヴェステンラント軍と言ったところですね」


 港そのものは当然のこととして、港の周辺で上陸に適した海岸はことごとく要塞化されており、やはり一筋縄で上陸は出来なさそうだ。


「さて、じゃあ爆撃しようか」

「はい。全機、投下開始!」


 塹壕、港湾施設への爆撃を行う。塹壕は爆撃で埋め立てられ、港湾は火に包まれた。とは言え、ヴェステンラントの魔法ならそう時間を掛けずに修復出来るだろう。


「目標地点は全て破壊し終えました。どうやら塹壕は急造品だったみたいですね。すぐに吹き飛びました」

「そうだろうねー。それと、迎撃はしてこなそうかな」

「はい。特に魔導反応は見えません。やはりこの高度まで上がって来られる魔女はまだいないようですね」

「そうみたいだね」


 戦車や戦艦への対策を捻り出したヴェステンラント軍でも爆撃機への対策は未だに考え付いていないらしい。まだまだ空はゲルマニア軍のものだ。


「さて、目的は達成したけど、燃料も爆弾も余裕あるけど、帰る?」

「え。帰らないっていう選択肢があるんですか?」

「うーん、命令にはないけど、まあ暇だしやっちゃっていいんじゃない?」

「ええ……。ま、まあ、いいんじゃないでしょうか。で、どこを目標に?」

「他の港町を爆撃したら敵を誘引することも出来ないし、やるんだったら王都くらいしかないんじゃないかな」

「仮にも同盟国の王都ですよ?」

「ヴェステンラント軍の拠点だけ爆撃すればいいんじゃないかな。民間人の犠牲なんて、既に出てるでしょ」

「それはそうですが……」


 確かにデュブリスには大勢の民間人がいる訳で、軍事施設だけを狙った今回の爆撃でもそれなりの死傷者が出ているだろう。だから今更だとライラ所長は言うのである。


「で、どう?」

「どうって、それを決めるのはライラ所長ですよ」

「あ、そっか。じゃあ行こー。王都爆撃!」

「了解です」


 ライラ所長の思い付きで爆撃機は王都に向かうことてなった。


 〇


「殿下、爆撃機が王都方面に向かったとの報告が入りました!」

「ほう? まさかこの王都を叩くとは、面白い」


 オーギュスタンにとっても予想外の行動だったようだが、彼は楽しそうに考え込んでいるだけであった。


「そ、そんなことを仰っている場合ではありません! 万が一にも殿下の御身に何かがあれば一大事です! 直ちに安全な場所に避難を!」

「安全な場所だと? カムロデュルムでは空襲への対策などまるでしていない。安全な場所など存在しない」


 王都を空襲するのはゲルマニア軍にとって利益にはならない。だからオーギュスタンはそんなことに労力を割きはしなかったのである。


「で、ですが……」

「まあよかろう。ここは攻撃される公算が高い。別の場所に移るとしよう」


 オーギュスタンは城を出て、爆撃は開始される。

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