大陸軍の活躍
「それならば、我らが大陸軍が戦線の穴を埋めましょう。共和国の防衛という目的を持った我が軍の士気は非常に高く、よい戦力になりましょう」
ド・ゴール大統領はそう提案した。大陸軍を最前線に投入することで、魔導兵を前線から引き抜くべきであると。
「本当にいいんですね?」
「はい。そもそもこのような事態に備えて前線のすぐ後方で待機させていたのでは?」
「まあ、間違いありません。それでは大陸軍を前線に投入、浮いた兵力を使って遊撃部隊を編成します。この部隊はスカーレット隊長に任せます」
「はっ。お任せください!」
ヴェステンラント軍は土壇場の戦いを繰り広げる。
○
「シグルズ様、どうやら敵から銃弾が飛んできているようです」
ヴェロニカはシグルズに報告する。最前線の兵士達は、装甲を打ち付けるものの中に銃弾が紛れていることに気が付いたようだ。
「銃弾? まさか矢が払底して銃に頼り始めたのか?」
「いいえ。それが、敵の中にルシタニア軍が紛れているようです。ええと、なんでしたっけ……」
「大陸軍だな。ただの犯罪者が軍隊を気取っているクズどもだが」
「幕僚長……なかなか辛辣じゃないか」
「気にするな。それよりも、考えるべきはどう奴らを殺すかだろう?」
「その通りだな。とは言え、銃弾は歩兵にとっては脅威だが、戦車にとっては何の脅威でもない。特に戦術を変える必要はないと通達してくれ」
多少銃声がうるさくなるだけで、大陸軍は機甲旅団の障害とはならなかった。
「師団長殿、本当の問題は、どうして奴らが急に大陸軍を投入し始めたか、だろう」
「確かにな。決して戦力が足りない訳ではないし」
急に魔法を持たない兵士が前線に現れた理由。それが重要だ。
「兵力が足りないんじゃなければ、どこか別のところに移して、その穴埋めに使っているのではないのですか?」
「まあそうだろうね。問題はそれがどこに使われたか、だけど」
「ああ……。私には分かりません」
「考えられるとしたら、我々を含めた機甲旅団を叩こうとしている、とかな」
オーレンドルフ幕僚長は少々楽しそうに言った。
「そうだと厄介だな……。どこかから奇襲を受ける可能性があるってことか」
「そうなるな」
「……機甲旅団は側面からの攻撃に脆弱だ。側面の防御を固めるように陣形を整えつつ、全速力で敵司令部を目指す」
「承知した」
シグルズとしては最悪の場合への備えのつもりだった。だがそれは実際に役立つことになる。
○
『スカーレット隊長、状況は整いました。敵の機甲旅団は我が軍の陣地深くに入り込んでいます』
「はっ。それでは我が部隊は、機甲旅団の側面を突き、これを撃滅致します!」
『よろしく頼みますよ、スカーレット』
「はっ!!」
周辺の部隊から引き抜いた三千の魔導騎兵。それはスカーレット隊長の指揮下にあり、その真正面を機甲旅団は通過しつつある。
「敵は目の前だ! 全軍、突っ込め!!」
「「おう!!」」
塹壕から這い出ると、スカーレット隊長自らが先頭に、部隊は突撃を開始した。
「勢いを緩めるな! この一撃で敵を粉砕し――っ!」
次の瞬間、スカーレット隊長のすぐ後ろに榴弾が着弾し、数十の騎兵を吹き飛ばした。
「クソッ、対応が早い。だが、怯むな! この程度の攻撃で我らは引き下がらぬ!」
「「おう!!」」
吹き飛ばされた兵士などには目もくれず、スカーレット隊長は突撃の勢いを緩めない。しかし次々と榴弾が飛来し、部隊の兵数はみるみるうちに減少していった。
「どうなっているんだ……まさか奴ら、我らの動きを読んでいたとでも……」
「隊長! もう兵が限界です! 統制を保てません!」
「黙れ黙れ! この程度で、何もせずに引き下がってなるものか! その旗を寄越せ!」
スカーレット隊長は自ら軍旗を振り回し、兵士達を鼓舞した。それは既に軍隊ではなく、ただ我武者羅に走り続ける人の群れであった。
「隊長、銃撃です!」
「その程度っ!」
装甲車からの激しい射撃。スカーレット隊長は軽く盾を造って銃弾を弾き返したが、多くの兵が更に薙ぎ払われていく。ゲルマニア軍の精鋭部隊というものを、スカーレット隊長は甘く見ていた。
だが五百人程度の兵士は攻撃に耐え続け、ついに機甲旅団と衝突した。
「覚悟っ!」
スカーレット隊長は邪魔をする機関銃を切り落とすと、魔導剣を装甲に振り下ろす。その剣は溶接を行っているかのように激しい閃光を上げ、やがて装甲車の装甲を切り裂き、その燃料タンクに刃が届いた。
灼熱の刃は燃料に一瞬で火を点け、装甲車はたちまち炎に包まれた。
「よし、このままいくぞ! 敵の陣地に潜り込めば我らのものだ! 進め!」
ここまで生き残っているだけでの精鋭部隊。彼らは思う存分暴れ回り、次々と装甲車を破壊した。ゲルマニア側も突撃歩兵を出して応戦するが、そうすると今度は装甲車から射撃を行えなくなり、どっちつかず。部隊は大きな混乱の中にあった。
しかし、魔女達の前に立ち塞がる者があった。
「また会ったな、スカーレット隊長」
「オーレンドルフ……今度こそ決着を着けてくれる!」
スカーレット隊長はオーレンドルフ幕僚長に斬りかかった。
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