邁生群嶋の帰結
ACU2312 12/26 邁生群嶋 舞新羅城
邁生群嶋内海で大友海軍はその兵力には全く釣り合わない活躍を見せたが、やはり戦争とは兵力と魔法量がものを言う訳で、ヴェステンラント艦隊が徐々に優勢を取り戻し、大友海軍は大きな損害を負って撤退した。
そしてヴェステンラント軍は北部の呂宋嶋にまで上陸を仕掛け、大谷家の本拠地である舞新羅に迫っていた。
「殿、敵勢が迫って来ております。敵の兵は多く、我らでも如何ともしがたいものです」
立花肥前守は大友呂宋太守に報告する。ヴェステンラントの軍勢は八万近くだが、大友勢の兵力は精々一万。流石の立花肥前守でもこの兵力差を覆すことは出来ない。彼は無理なものにははっきり無理と言える男だ。
「そうか。まああの大船は沈めたんだ。我らにしてはいいんじゃないか?」
「せめて嶋津などと手を携えていられればよかったのですが……」
「嶋津殿は今内地で上杉の勢力と睨み合っておる。無理な話だ」
「ええ、まあ、そうですね……」
大八州内地の西半分は大友家の味方なのだが、遠く離れた邁生群嶋に手を貸せるほどの余裕はない。
「殿、どうされましょうか。この町にこもれば暫くは耐えられるでしょうが……」
「我らは勝てない。そして勝てぬ戦に民を巻き込む訳にはいかん」
「はっ。それでは嶋津殿の下へ引き上げるとしましょう」
「そうしよう……」
かくして大友家は領地を放棄し、将兵を引き連れて内地へと逃れた。
〇
ACU2312 12/29 邁生群嶋 舞新羅
「何の抵抗もなし、か。邁生群嶋はこれで私達のものね」
ドロシア率いるヴェステンラント軍は舞新羅に難なく入城した。他の都市と同じく、人々は家に引き籠り、白人達と目を合わせようともしなかった。
「ドロシア、占領の障害になるようなことはしないでくださいね」
オリヴィアはドロシアに釘を刺す。
「私はヴェステンラント軍の最高司令官なのよ。そんなことする訳ないじゃない」
「そうだったらいいんですが」
「……何よ。敵に捕まってた奴が言うんじゃないわよ」
「わ、私は自分で脱出しましたから!」
「……まあね。ともかう、私はそんな馬鹿なことはしないわよ。もっと賢くやるわ」
「はぁ……」
嫌な予感しかしないが、オリヴィアはそれ以上何も言えなかった。ドロシアを諫める最後の砦であるラヴァル伯爵は大八州勢に囚われてしまった。
〇
さて、軍事的にはヴェステンラントは勝利を収めた。であれば次は、政治的な勝利を掴むべき時である。ドロシアは何人かの新聞家を舞新羅城に招いた。そしてここに呼び寄せた現地住民の取材を許していた。
彼女にしては実に珍しい光景である。
「――ほうほう。それで、大八州軍に占領された時、どう思ったんですか?」
記者は羊皮紙に記録を取りながら、現地人に色々と尋ねている。
「最初私達は、邁生群嶋に攻め込んできた大八州人を歓迎しました。我々は白人に搾取され、抑圧されていると思っていましたから、彼らは我々は救う為に来たように見えたのです」
「なるほど。当時はそう信じていたのですね?」
「はい。私達はこれで生活がよくなって、幸せに暮らせると思ったのです」
「しかし、それは違ったのですね」
「ええ。彼らは結局、私達を支配していた白人と同じことをしました。彼らは白人から奪った土地を私達に返すことはせず、そのまま自分達のものにして、更には白人達も手を付けていなかった、私達の先祖伝来の土地や富まで奪ったのです」
「それは酷い……心中、お察しします。私達はただの記者ですから、卑劣な大八州打ち倒すことには手を貸せません。しかし、こうして真実を世間に広めることこそが、私達の戦いなのです」
「ありがとうございます。是非、このことをヴェステンラント本国の皆さんにも伝え広めてください」
「もちろんです。それが新聞屋ですから」
新聞屋はにこやかに振舞いながら、現地人と自然に打ち解けていた。まあそういう能力がなければ記者などにはなれないだろう。
やがて取材を終えると、記者はドロシアを訪ねた。
「殿下、この度は我らを拾っていただきありがとうございます。いいネタが取れました」
「そろそろ臣民にも気を遣わないとね。それが大公としての仕事よ」
「ご慧眼です、殿下。民は生活が年々苦しくなる理由を知りたがっています。我々の新聞はそれを知らしめるのに、大いに役に立つでしょう」
「期待しているわ」
要は宣伝と扇動だ。自分達の悪行は棚に上げ、大八州がいかに悪逆で打ち倒すべきかを宣伝する。国家の連帯を維持するには必要不可欠なことだ。
「しかし殿下が有色人種を城に招くとは、珍しいこともあるものですね」
「本当に反吐が出るけど、仕方ないじゃない。あなた達には奴らが必要でしょう?」
「ええ、まあ。彼らはどうするのですか? 彼らに恩賞でも?」
「そんな訳ないでしょう。嘘を言わせてるんだから、城の外に出す訳にはいかないわ」
確かに大八州は完璧な統治者ではなかった。だが彼らの言っていることは、概ねドロシアが脅して言わせたことであった。
「では、城の中に住まわせでもするのですか?」
「そんな訳ない。全員殺して海に捨てるわ」
「実に殿下らしい」
新聞屋は笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます