大八洲の推移

 ACU2312 8/25 大八洲皇國 邁生群嶋


 地球では概ねフィリピンに相当する邁生群嶋は、近年になって大八洲の領土に併合された、所謂外地である。


 その南半分を治めるのは甘粕蘇祿太守虎持であり、北半分を納めるのは大友呂宋太守虎義である。このうち大友呂宋太守は今回の事態に際し中立を宣言し、全ての大名に港を開放していた。


 甘粕蘇祿太守については、未だに何も声明を出しておらず不気味がられている。


 因みに、面積では上杉家に次ぐ広大な領地を誇る大友家であるが、邁生群嶋の土地は貧しく人は少なく鬼石は採れず、外地ということもあってそこまでの影響力はない。


 さて、伊達陸奥守晴政もまた、本拠地である陸奥に戻る為、ここを中継地点に選んだ。


 多数の大名が行き交うこの場所には多くの情報が流れ込んでくる。情報収集というのも晴政の目的の一つであった。因みに、色々と面倒なことになりそうな朔についてはいないことにしてある。


 桐、源十郎、成政は物資の買い付けの名目で市中に出て、情報を収集し艦隊に戻って来た。桐は再び情報を集めに出ていき、晴政と成政と源十郎だけが残された。朔もこの場にはいない。


「それで、諸侯の動向はどうだ?」

「はい。未だにどちらに付くかを決めかねている大名も多いですが、曉と対峙することを明確に選んだのは、武田殿、松平殿、嶋津殿、龍造寺殿だけのようです」


 たった四家だが、これだけでも大きな戦力である。潮仙半嶋から筑紫島――地球で言えば朝鮮半島から九州――に至る彼らの領土で、大八州は東西に分断された。


「だが、もっと多くの大名が曉に付くそうだぜ、兄者」

「どこのどいつだ?」

「まず唐土の大名の大体が曉についた。まあこっちは思っていた通りだな」


 大八州が近年になって征服した広大な唐土の領土。これは上杉家の直轄領――天領を除いて現地の諸侯に統治を任せていたのだが、それらは一斉に曉に味方した。まあこれまでの体制への恨みはあるだろうし、そこまで驚くことではない。


「で、上杉の飛び地は?」

「柿﨑吐蕃太守、直江蒙古太守は曉に味方したぜ。これで、大陸は武田と奥地の方を除いて、曉のものになったな」


 大八州の国境地帯に配置されていた上杉の家老達。彼らは曉の擁立した上杉上総守を新たな当主として認め、恭順を誓った。これで潮仙半嶋を除いた大陸領土の主要な部分が曉の側に回ったことになる。


「それと、もっと悪いのが、内地の齋藤大和守と北條常陸守が曉に付いたことだな」


 かつて上杉家が天下統一事業の過程で獲得した、内地における巨大な領土。そして関八州を押さえる北條家の豊かな領土。特に北條は伊達のすぐ南に位置し、その動向は伊達家の命運にも大きく影響する。


 もっとも、優秀な当主であった晴氏を失った北條家にそこまでの力があるのかは疑問ではあるが。


「……つまり、内地の三分の一が曉についたということか」

「そうなりますね……」


 この二大大名の領地を合わせれば、その領土は内地の三分の一に相当する。今のところ内地において曉派と反曉派の勢力は拮抗しているのだ。もっとも、先ほどもあったようにその勢力は東西に分断されているが。


 さて、大陸をおおよそ制したとは言え、曉派にとって、反曉派の筆頭の武田家が上杉家の目と鼻の先にあるというのはあまり好ましいことではない。


「このままでは、唐土の諸大名が武田の領地に攻め掛けよう。帰る国が帰る前に消えていてはどうにもならん。武田樂浪守はどうするつもりなのだ?」


 今、武田家は総力を挙げてヴェステンラントとの戦争に出征しており、本領には三千程度の押さえの兵しか残っていない。その程度の兵を蹴散らすことなど曉には簡単なことだろう。


「さあ……私には検討もつきません」

「だが、あの信晴のことだ。何か策を弄しているだろうさ」

「俺もそうだろうと思うが……まあいい。そんなことを気にしていても仕方がない」

「はい。問題は、我らがこれよりどう振る舞うべきかということです。晴政様なれば、このまま様子見というのも性に合いますまい」

「よく分かっているではないか、源十郎」


 最低限の様子見は済ませた。準備は十分である。ここまで来れば大人しく様子見をしていられる晴政ではない。どちらかについて暴れ回りたいというのが本心だ。


「では、ここで決めるとしようか」

「晴政様、分かってはおられると思いますが、仮に曉様に付くとお決めになれば、朔様を殺さねばなりません」

「兄者……」

「ふっ、案ずるな。お前達も分かっているだろう。俺が曉に付くなどあり得ぬ話だ。それでは伊達の領地は広がらぬ」

「はっ。流石は晴政様」

「兄者、どこまでもやってやろうぜ!」


 曉に味方をするということは、南を味方となる北條に塞がれるということ。奥羽を統一するだけでは晴政の野望は満たされない。


「しかし、ヴェステンラントがこの先大八州へと攻め込んで来るでしょう。それについてはいかに?」

「そんなもの、南の連中に任せておけばよい」

「まあ、俺達にはどうしようもないからな」

「……ともかく、伊達は伊達の天下取りを進めるまでよ」

「はっ」

「おうよ!」


 翌日、伊達家は曉を認めず謀反人を征伐すると公言した。

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