ヴェステンラントの対応

 ACU2312 4/20 テラ・アウストラリス植民地 ヴェステンラント軍前線基地


 ヴェステンラント軍にもまた、曉謀反の報せは届いた。しかし大八州とヴェステンラントには外交手段がなく、確認の仕様がない。その為にこの報を疑う声が大きかった。


 ヴェステンラントの3人の大公は、今後の対応は話し合うべく、3人だけで小さな会議を開いていた。


「やはり、晴虎が死んだと見せかけて我らの油断を誘い、再度殲滅を狙っているのではないか?」


 陽公シモンは言う。これは大八州の計略であり、油断してのこのこ日出嶋へと上陸したヴェステンラント軍に野戦を挑み殲滅しようとする策ではないかと。


「私も……そっちの方が妥当かと。こんな状況で謀反というのは、考えにくいですし……」


 青公オリヴィアもシモンと同意見だ。謀反というのはあまりにも唐突で、かつ馬鹿げた話であるように思えた。


「ドロシアはどう思う?」


 足を組んでだらしなく座っている黄公に、シモンは問う。


「私? そうね……まあ正直言って、謀反が起こってても大して驚かないわ」

「ほう。それは何故だ?」

「晴虎みたいな理想主義者は、家臣からは嫌われるものよ」

「まあなあ……」


 結局のところ、明確な結論を出すことは出来なかった。だがその時、静かな部屋に伝令が飛び込んできた。


「ドロシア様、申し上げます!」

「何? よっぽどの一大事なんでしょうね?」

「は、はい! それが、大八州から使者が参上しております。その者は明智日向守と名乗っております」

「使者? そう……」


 謀反の噂が本当であるにせよないにせよ、この男の話を聞くのは有益だろう。ドロシアは早速明智日向守とやらを呼び出した。


「明智日向守にございます、ヴェステンラントの大公の皆様」


 男は眉一つ動かさず、恭しく膝をついた。ヴェステンラント流の挨拶である。さて、ここにいるのは明智日向守を入れても4人だけ。まあ五大二天の魔女であるドロシアがいる以上、安全に問題はないだろう。


「それで、此度はどのような用件で来たのだ?」


 シモンは明智日向守に問う。


「はっ。我が主、長尾右大將がかつての主に謀反を起こされたこと、これは真にございます。なればヴェステンラントの皆様方には、我らと和議を結んで頂けるようお願い申し上げに、参上仕りました」

「ちょっと待って。謀反が本当だと信じられる理由は?」


 ドロシアはとげとげしい声で言う。彼がヴェステンラントを欺く為に送られてきた可能性も排除出来ない。シモンもオリヴィアも、疑いを持っていることに変わりはない。


「理由……これは自ら申し上げることでもありませぬが、私は長尾家の筆頭家老。ただの詐術の為に敵中に身を投じなど致しません」


 確かに明智日向守は長尾家にとって屋台骨とも言える人材だ。それを遣わしたのは余程ヴェステンラントに誠意を示したいからだろう。


「なかなか図々しい男ね……でも、理に適ってはいるわね」

「恐れ入ります」

「……いいわ。あんたのその言葉に免じて、謀反が起こったことは信じてあげる」

「はっ」

「だけど、和議を結ぶかは別の話よ。大体、あんた達が勝手に仲間割れしてるんだから、私達はそこを攻め取るのが一番いいに決まっているじゃない」


 当然の話だ。大八州が勝手に分裂したのなら、ヴェステンラントは植民地を悠々と奪還すればよい。


「それがヴェステンラントにとって最善とお考えであらば、今すぐに私の首を刎ねればよろしいでしょう」

「……何が言いたいの?」

「恐れながら、大八州が東亞に繰り出している兵力は、ほんの一部に過ぎませぬ。ヴェステンラントが本土に攻め込むとなれば、相争う者共も再び手を結び、苦戦を強いられることでしょう」

「こいつ……」

「ドロシア、残念ながら、この者の言うことは正しい。君も分かっているだろう」


 日向守を軽く殺そうとしたドロシアを、シモンは制止した。明智日向守はただ事実を述べているだけだ。大八州の本土にはまだまだ多くの兵力が残されている。


「……あっそう。続けなさい」

「はっ。これはヴェステンラントにとって千載一遇の好機です。我らと和睦して頂ければ、この大八州で我らに逆らう者を一掃した後、我らはヴェステンラントの盟友となりましょう。さすれば、エウロパを征服するのも容易きことです」

「分かった。その和睦、受け入れる」

「ドロシア、いいのか?」

「め、珍しいですね……ドロシアが……」

「ありがたき幸せにございます」


 結局、ドロシアのゴリ押しで和睦は成立した。ヴェステンラントは上杉家の側に立ってこの内戦に参戦することとしたのである。


「――しかしドロシア、どういう心変わりだ? 有色人種をあんなに嫌っていた君が……」

「何を言っているの? 有色人種が全員白人の奴隷になるべきなのは当然でしょ?」

「では何故に和睦を受け入れた?」

「和睦なんて今だけよ。使い終わったら上杉家も滅ぼすに決まってるじゃない」

「……そういうことか。まあよかろう」


 まずは上杉家を利用して上杉に敵対する大名を滅ぼして版図を拡大し、その後に上杉を滅ぼす。新大陸人のよくやることである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る