キーイ攻略戦

 ACU2312 2/20 ダキア大公国 キーイ近郊


 道中のいくつかの要塞、都市を順調に制圧し、B軍集団は早くもキーイの目前に到達した。キーイもまた、ダキアの大都市の例に漏れず、都市全体を城壁で囲った城塞都市である。


「さて、今回はどう抗ってくれるかな」

「少しは抵抗してくるとは思いますが……」


 紳士の中の紳士、第18師団のヴェッセル幕僚長は応える。


 前回の戦争の時は、キーイはほぼ無抵抗のうちに陥落した。当時はダキアにマトモな魔導兵はなかったし、ゲルマニアにも機関銃すらなかったが。


 この数年ですっかり様変わりした両軍が、果たしてどのような戦いを披露するのか。


「取り敢えず……外に出てきている部隊はないようだな」


 オステルマン師団長は双眼鏡を覗き込みながら呟く。少なくとも敵は、城外で決戦を挑むつもりはないらしい。


「はい。そのようです」

「となると、やはり籠城か……」

「我々からすると厄介ですね……」

「まあな」


 足止めを食らうことは避けなばならない。その点では、あっという間に白黒がはっきりする野戦の方がよほどよい。


「まあここで話し合っていても意味はない。とっとと攻撃を始めようか」

「一応は敵の首都だった都市なのです。もう少し警戒されては……」

「そうか? だが、警戒すると言っても何を警戒するんだ?」

「ダキアとヴェステンラントは、艦載兵器である弩砲を地上で使うことが確認されています。これは現状、我々にとって最大の脅威です」


 魔導兵による白兵攻撃とこの弩砲。ダキア軍が戦車を撃破するたった二つの手段である。そのどちらが脅威かと言われれば無論、後者であろう。戦車砲と同等の距離を保って戦車を撃破することが可能なのだから。


「これが城壁などに設置されていた場合、一方的にこちらの戦車が撃破される可能性があります」

「確かにな……だったらどうする?」

「取り敢えずは敵の脅威を確かめる為にも、偵察を行うべきかと。あの規模の城壁ですと、我々の死角に弩砲を隠すことも出来ます」

「そうだな。なら……シグルズにでも行ってもらおう」

「はい。そのように」


 という訳で、シグルズは師団長とは思えないような任務に駆り出されるのであった。


 ○


「この組み合わせで飛んでいるのは珍しいな……」

「確かに……そうですね……」

「本来ならば師団に人員を残しておくべきだからな」


 空を飛んで偵察に出たのは、シグルズとヴェロニカとオーレンドルフ幕僚長である。いつもなら師団に何かがあった時の為に誰かを残していくのだが、今回は大勢の味方がいるということで、第88師団の首脳部総出で偵察だ。


「だったらオステルマン師団長も出てくればいいのに……」


 シグルズは実際のところ、オステルマン師団長への不平不満だらけだ。


「流石に軍集団の司令官が単騎駆けをする訳にもいかんだろう」

「それはそうだがな……」

「まあまあ、この3人がいれば、どうにでもなりますよ」


 ヴェロニカは明るく言った。まあ確かに、ここには参謀本部が直接配属を考えるくらいの魔女が3人も揃っている。


「そうだな。我らが師団長殿はゲルマニアで最強の魔導士だからな」

「君だって相当強いだろうに」

「私の魔法は大したことはない。他の魔女どもが弱すぎるだけだ」

「そ、そうか……」


 ――それって相当な煽りだと思うけど……


「シグルズ様、城壁の辺りに魔導反応があります! かなり大きく、魔導弩砲かと」

「当たりか。だったら話は早い。僕達で破壊する」

「はい!」

「了解した」


 魔導弩のは確かに面倒だが、一度設置すれば動かすのは困難だ。そこをこの3人で叩く。と、言いたかったのだが――


「おっと、敵はここまで読んでいたようだ」


 城壁に近づくと、オーレンドルフ幕僚長はそれを発見した。


「だな。防空は固めているか……」


 城壁の上には数百の魔導兵や普通の兵士が待ち構えて、魔導弩や小銃を空に向けている。


 小銃は装甲への貫徹力では魔導弩に劣るが、人間に対する殺傷力は同等かそれより上であるし、何よりその弾丸を肉眼で捉えることは不可能だ。


 魔導装甲を着込んでいないコホルス級の魔女に対して対空機関砲がかなり有効なのも、このせいである。


「矢ならこの剣で叩き落とせるんだが……」

「それは君だけなんだが……」

「こうなるんだったら、魔導装甲を借りてきた方がよかったかもですね……」

「いや、それはダメだ」

「何故です?」

「魔導装甲も立派な魔法だからね。空では何も出来なくなる」

「そうなんですか。なるほど……」


 魔導装甲や魔導弩は、人間がわざわざ頭で考えなくても勝手に魔法が発動するように作られた、人間の叡智の結晶である。


 とは言え、それも魔法は2つまでという絶対の法則の抜け穴にはなり得ない。


 空を飛ぶ魔法と魔導装甲を同時に使えば、それだけでもう限界だ。ただ空に浮かんでいるだけなら出来るが、攻撃は出来ない。


「ここに来て旧式の銃が我々に牙を剥くとはな……」

「まったくだ。少々ダキアを舐めていた」


 最初にダキアとやり合った時から彼らの武器に進歩はない。しかし それが固定陣地と組み合わさることで、なかなかどうして鉄壁の要塞が出来上がるのである。

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