キーイ攻略戦Ⅱ
「どうする、師団長殿? せっかく3人いるんだ。強行突破も出来なくはないだろうが……」
考えてもみれば、シグルズが大きな盾を作りながら他の2人が攻撃に徹すれば、真正面から敵の陣地を攻撃することも十分に可能である。
「そうですよ。せっかく3人が一緒にいるんです!」
「うーん……」
ヴェロニカも乗り気だったが、シグルズはそんな気にはなれなかった。
「師団長殿、何か問題でも?」
「やはり危険だ。人を守りながら戦うのは慣れていないし」
いくら魔力に優れていても、結局のところは訓練が必要だ。潜在的には何でも出来るシグルズだが、まだ出来ないことの方が多い。
「その程度の危険ならば甘受すべきだと思うが……他に何か策でもあるのか?」
「ああ、ある。安全に、かつ短時間でこの城門を突破する方法がな」
シグルズはニヤリと笑みを浮かべた。
〇
一方その頃、城壁の上にて。ルターヴァ辺境伯がここの指揮官である。
「辺境伯様! 敵が退きました!」
「ほ、本当か?」
「本当です!」
言わずもがな、シグルズ達のことである。シグルズがほぼ単騎で戦場を引っ掻き回すことはダキアでは有名であり、それへの警戒は常に行われている。
「そ、そうか……こんな貧弱な装備で……」
「確かに、埋め合わせの銃兵がほとんどの我々に引き下がってくれるとは……」
実際のところ、ダキア軍は危機的状態にある。レギーナ王国への援軍に送った6千の兵士が完全に失われてしまったのだ。
いや、正確には兵士を失ったことが痛手なのではない。彼らの分の魔導装甲、魔導弩、そしてエスペラニウムが失われたのが問題だ。
武器が残っていれば兵士がいくら死んでも問題はないが、失われた魔法を回復する手段は輸入しかない。
しかし他国からの輸入など当てには出来ず、ダキア軍の正面戦力は非常に薄くなっていた。魔法のない通常戦力を再び前面に出さなければならないくらいには。
「――まあ、ともかくだ、私達には敵の戦車に対抗出来る弩砲がある。このキーイを何としてでも守り抜くぞ!」
「「おう!!」」
「盛り上がってるところ悪いんだけど」
「は……?」
水を差すようにして響く若い男の声。兵士たちが振り向くと、そこには黒髪でゲルマニアの軍服を着こなした少年が平然と立っていた。その左右には2人の女性がいる。
「お、お前はまさか……」
「噂のシグルズ・フォン・ハーケンブルクだけど」
「な、何故だ!? 何故ここにいる!?」
「まあかくかくしかじかとあって……ともかく、降伏してくれないかな。ここで戦うのは無益だ」
こんな至近距離にまで詰め寄られたら、もう彼らに勝ち目はないだろう。
「馬鹿を言え! こいつらを殺せ!」
「「おう!!」」
ダキア兵は一斉に小銃を構える。やはり魔導弩はごく少数だ。
「あーあ……」
残念だが、彼らは殺すしかないようだ。
「氷の壁だ」
シグルズは瞬時に目の前に氷の壁を生成した。ほとんど硝子のような透明な壁である。次々と弾丸が撃ち込まれるが、カチカチに凍った氷はびくともしない。
「さて……行こうか」
「はいっ!」
「了解だ」
「行くぞ!」
氷の壁を持ち上げたまま、シグルズは敵に突っ込んだ。壁は敵兵を薙ぎ倒し、あっという間に敵陣中に食い込む。
「では私も行こう」
「私も行きます!」
「出来るだけ殺さないようにな」
その壁からオーレンドルフ幕僚長とヴェロニカが飛び出した。既に敵味方が入り乱れるような状態であり、ダキア兵は迂闊に銃も撃てない。何より城壁の上はとても狭い。
オーレンドルフ幕僚長は長剣を武器に敵中に突入し、魔法で身体能力を強化しながら敵兵を華麗に斬り伏せていく。
ヴェロニカはほんの小さな短剣と小柄な体を武器に、敵の合間を縫ってその手足を斬りつける。
「では僕も」
シグルズはいくつかの火球を浮かべ、遠くの敵兵に向かって投げつけた。炎は拡散し、爆風が兵士の隊列を乱す。
ヴェロニカとオーレンドルフ幕僚長が前衛、シグルズが後衛という陣形で、たったの3人の部隊は城門を守る敵兵をほぼ壊滅させたのであった。
「さて、あなたが噂のルターヴァ辺境伯様ですね」
シグルズ一行はキーイの司令官を拘束することに成功した。
「そ、そうだが……殺すのか?」
「いえいえ、そんな野蛮なことはしませんよ。まあキーイを降伏させてもらいますが」
「……無駄だ。私が死んだところで自動的に指揮権が移譲されるようになっている」
「そうですか……だったら構いません。もう弩砲は全部破壊させてもらったので、あなた方が戦車に対抗することは不可能です」
ここで最高司令官と引き換えにキーイを降伏させるのが最高だったが、まあ弩砲を破壊出来た時点で当初の目標は達成されている。
「くっ……どうしてここに来れたのだ?」
「ああ、そこのオーレンドルフ幕僚長に穴を掘ってもらって、城壁の下から侵入しました」
オーレンドルフ幕僚長は土の魔女だ。戦闘にはあまり役に立たないが、こういう搦め手には強い。
「だ、だが……警備の兵は多くいた筈だ。どうやってここまで……」
「それなら、そこのヴェロニカが警備兵を搔い潜ったり暗殺したりしてここまで来ました」
「まあ、裏路地なんてどこも同じ作りですから」
「なんという奴らだ……」
さて、下準備は完了した。
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