レギーナの処遇
「国王は退位させよう。では、レギーナ王国という国自体はどう処遇する?」
ヒンケル総統は皆に問いかける。
「レギーナは反乱分子の根城です。それに、武器を隠し持っている可能性も大いにあります。いえ、あの国の軍事力を完全に把握するなど不可能ですから、必ずや軍事力を残していることでしょう」
カルテンブルンナー全国指導者は言った。
「そうなのか? フリック司令官はどう思う?」
「恥ずかしながら、その可能性は否定出来ません。国家に直属する軍事力ならば簡単に解除出来るのですが、地方貴族の私軍などまでは手が届かず……」
「なるほど。レギーナ王国自体が今すぐに軍を動かせる訳ではないが、在郷貴族の軍が集まれば十分な脅威たりうるという訳か」
まるでダキア蜂起だ。ダキアの時も、地方の軍閥の蜂起が連携して大きな力となったのである。
もっとも、ダキア人だけの力で成し遂げたことではないが。
「皆様方からの悪評は十分に存じておりますが、しかし、どうか我々親衛隊に、レギーナ王国の反乱分子を粛清する権限をお与え下さい」
「うむ……」
ヒンケル総統からすると、これは悩みどころだ。
レギーナにはそれなりの罰を与えねばならないとも思うし、親衛隊の全戦力をレギーナに集めれば十分に問題なく統治が出来ると思わなくもない。
「私としては少々決めかねているのだが、諸君はどう思う?」
即断即決のヒンケル総統も、この時ばかりは考えあぐねた。
「私はレギーナだけならば、親衛隊による軍政に賛成しますね」
東部方面軍ローゼンベルク司令官は言った。ヒンケル総統には彼が賛同することは意外に思えた。
「ふむ……それは何故か?」
「レギーナを統治するくらいならば、親衛隊でも問題ないかと。それに、国境警備は我々軍が抜かりなく遂行していますから」
「……擁護に感謝申し上げます」
軍が庇護してやれば大丈夫だろうという、半ば嫌味である。だが決して嫌がらせの為だけに言っているのではない。
レギーナ王国の領地まで敵の侵入を許すとなれば、それはゲルマニアが負ける時だろう。外国勢力がレギーナに侵入するなど万が一にもありえない。
ヴェステンラントが介入するまで親衛隊がダキアを良く治めていたことを鑑みれば、問題は生じないと思える。
「なるほど。カイテル参謀総長はどう思う?」
「は。ローゼンベルク司令官がそちらに回ったのは意外でしたが――私としてもよろしいかと。反乱に何の咎めもなくては、皇帝陛下の権威が軽んじられることとなりかねません」
「確かにな。もっともな見解だ。では次に、ザイス=インクヴァルト司令官は?」
帝国一の策士、西部方面軍ザイス=インクヴァルト司令官に尋ねる。
「そうですな……それでは、私も賛成します」
「それでは、とは……」
「無論、論拠はあります。まあ色々と言われておりますが、私としてはレギーナの徴兵を実行する者が必要であるかと」
「レギーナだけではなく全ての領邦で総動員をかけよう、という話だったが?」
「帝国第二の人口を持つレギーナが総動員を――無理やりさせられたにせよ――行えば、他の領邦も続くでしょう」
「なるほど。確かにその方が効率的だな」
レギーナ王国については親衛隊が直接動員を管理、統制する。そうすれば他の領邦も動員に応じるだろう。
「それでは……やけに軍部が積極的なのが気になりはするが、レギーナ王国は親衛隊管轄とする、ということでよいな?」
賛成が大多数であった。一部の貴族が反対の意を示したが、貴族など軍部の前では紙切れのようなものである。
「よし。決定だ。では次、私から提案がある」
「提案などと仰らずとも、総統閣下の鶴の一声でこの国は動きましょうに」
「とは言え、皆が賛同してくれた方が動き易いだろう」
「そうですな。それで、ご提案とは?」
「ゲルマニア総動員の計画だが、一気に総動員とはいかず、小規模な動員から始めようと思う」
「は? 閣下は我々が何の為にわざわざ殺し合いをしたのか、お忘れですか?」
カルテンブルンナー全国指導者は当然のように反駁した。総統への忠誠以前に親衛隊全国指導者としての誇りがあるのだ。
「忘れてなどはいない。だが、そこまで性急に動員を行なう必要もないだろうし、何より南部の民をあしらうのにはこれが最適だ」
実際、順次動員をかけていくという大枠でレギーナと妥協が出来る可能性もあった。レギーナが話し合いに応じすらしないお陰で内線にまで発展したのだ。
「南部の民?」
「ああ。既に内戦という形で鞭を打った。ならば、民を従わせるには飴をくれてやればいい」
「これは、ザイス=インクヴァルト司令官のような物言いを……」
「ああ……確かに。つまりは、彼らがゲルマニアに武力で訴えた結果動員を緩やかにさせられた、そういうことにすればいいのだ」
「なるほど。総統閣下もお人が悪い」
「そうでなければ政治家は務まらん」
やろうと思えば一気に根こそぎ動員をかけることも出来る。だがあえてそれはせず、彼らの努力が実ったという形にすれば、民の不満も少しは解消されよう。
この提案もまた、賛成が大多数で可決された。
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