戦後処理

 ACU2312 1/10 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン


「閣下、先程、反乱軍の武装解除を完了致しました」


 南部方面軍のフリック司令官は報告する。


 依然として南部方面軍を大々的に動かすことは出来ないが、彼の持つ行政手腕を買ってヒンケル相当がこの任務を命じたのだ。


「これで一段落、ということだな」

「はい。帝国の内で無意味な暴力が振るわれることは、最早ないでしょう」

「そ、そうか」


 平和主義者みたく聞こえるが、実際はレギーナの大義を全面的に否定する言葉である。


 フリック司令官は――当然のことだが――王宮の窓から突き落とされたことを根に持っていた。


「まあ、ひとまずは他国の介入を最小限に抑え、速やかに内戦を終結させられたのだ。諸君の尽力に感謝する」

「軍では東部方面軍の一部の部隊しか働いておりませんがな……」


 カイテル参謀総長は少々悔しそうに言った。事実、シグルズが敵の輸送列車を襲撃したこと以外、軍は何も出来ていない。


「各方面軍が敵に一切の付け入る隙を与えなかったからこその勝利だ。私は軍全体を賞賛しているのだぞ」

「これはこれは。総統閣下の戦略的発想ならば、参謀総長の座を譲り渡した方がゲルマニアの為やもしれません」

「私を過労死させたいのか?」

「いえいえ、滅相もありません」


 ヒンケル総統とカイテル参謀総長は下らない冗談を笑いあった。


「――さて、そろそろ真面目な話をしよう。問題は、ゲルマニアに反旗を翻した国々の処遇をいかにするか、だ」

「現状は、我が親衛隊による戒厳令の下、叛徒共を統治しております。これについて、皆様方からの意見を伺いたい」


 親衛隊の総兵力は10万人程だ。レギーナにその一部しか派兵していないのは、正規軍同士の戦闘に耐えうる武器が4万人分程度しかなかったからである。


 だが国を統治するのに戦車も装甲車も必要ない。親衛隊はほとんど全戦力を投じ、南ゲルマニア諸邦の占領行政を行っている。


「少なくともレギーナ王国以外は、武装解除の元、罪を問わずに帝国に復帰させるでよろしいのではありませんか?」


 カイテル参謀総長は穏健な意見を唱えた。レギーナ王国以外は正直なところ、レギーナに巻き込まれたというところがあり、そこまで罪を問うべきではないと。


 これについてはあまり反対する者はなかったが、ただ一人、反論する者があった。カルテンブルンナー全国指導者である。


「参謀総長閣下、それでは余りにも甘過ぎます。奴らは我が総統に、ゲルマニアに弓を引いた大罪人。然るべき罰を与えねばなりません」

「そんなことをしたら、また内戦になるぞ? 今度は彼らも自発的にだ」

「それならばご心配なく。親衛隊はいかなる反乱分子の生存をも許しません」

「親衛隊がダキアの勢力を抑えきれなかったせいで東部戦線などというものが出来ていると、分かっているのか?」


 カイテル参謀総長がそう指摘すると、カルテンブルンナー全国指導者は不機嫌そうな顔をした。


 ダキアの一件は親衛隊の泣き所である。もしも親衛隊がダキアの独立勢力を未然に粛清出来ていれば、今頃は百万以上の兵を西部戦線に投入出来ている。


「ダキアの件につきましては、確かに親衛隊に非があります。しかしながら、ヴェステンラントが直接に介入してくることなど、誰が予想出来ましょう?」

「それを察知した段階で軍に協力を要請することも出来た筈ではないか」

「まあまあ、参謀総長閣下、私から見てもダキア軍は以前とはまるで別物です。カルテンブルンナー全国指導者にそこまで非があるとは……」


 東部方面軍、ローゼンベルク司令官は意外にもカルテンブルンナー全国指導者を擁護した。


「……だとしても、同じようなことがゲルマニアで起こらんとも限らん。やはり親衛隊に統治を任せるなど無謀だ」


 陸続きのダキアからヴェステンラントがゲルマニア内に介入してくる事態。それがないとは誰も断言出来ない。


「……分かりました。それでは私は矛を納めましょう」


 不服そうだが、カルテンブルンナー全国指導者は大勢に従うこととした。


「よし。少なくともレギーナ王国以外については、あらゆる罪を赦免し、帝国への復帰を認める。これでいいな?」

「「はっ」」

「では次に、レギーナの処遇についてだ」


 レギーナ王国は言わば主犯。レギーナの罪を完全になかったことにするというのには、些か異論が多い。


「親衛隊としては、レギーナ国王の退位を求めます。流石にこれくらいはして頂かねば、戦死した我らの同志が報われません」

「処刑とは、言わないのか」


 ヒンケル総統は不思議そうに尋ねた。


「無論私としては首をはねてやりたいものですが、皆様方は反対されるのでしょうから」

「まあ……そうだな」


 ルートヴィヒ王はレギーナ臣民からの人気が高い。彼を処刑すれば――どうなるかは言うまでもないことになりかねない。


「まあ、流石に何の咎めもなしという訳にはいかん。まずルートヴィヒ王の退位は問題ないな?」


 そして全会一致でルートヴィヒ王は王位を失うこととなった。

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