ベルディデナ決戦
ACU2311 12/29 王都ベルディデナ
「陛下、北の砦から報告です。敵が、来ました……」
「うむ。抵抗する必要はない。直ちにベルディデナに全兵力を退かせよ」
「はっ」
予想より敵の進撃は遅れた。とは言え、親衛隊が王都に到達するのに開戦から2週間程度しかかからなかった。
「ダキアからの援軍は、3千しか間に合いませんでしたね……」
レヴィーネ外務卿は言った。用意が出来次第兵を送ってくれとダキアに頼んだが、この兵力をかき集めるので精一杯だった。
「案ずることはない。最初は千だけで籠城し、増援を待つ作戦だったのだ。それと比べれば遥かにマシだ」
「確かに……そうでした。魔導兵が3千もいれば、ベルディデナに立てこもることは出来ますね」
「であるな。ここで時間を稼ぎ、更なる増援が来るのを待つ」
ホルムガルド公アレクセイはこの1週間ほどでベルディデナの守備隊との連携を固めた。どちらが勝利しようとこの戦いが最後の戦いになるだろう。
〇
ACU2311 12/29 王都ベルディデナ近郊
砲弾、弾薬の補給を済ませ、親衛隊4万はベルディデナに迫る。
「これが敵の本丸ですか……」
ベルディデナは都市の全域を城壁で囲った典型的な城塞都市である。その点ではノーレンベルクと同じだが、規模は段違いだ。
「規模は大きいが、所詮は中世の城。腐った納屋など一蹴りで崩れ去る」
しかしカルテンブルンナー全国指導者は大した脅威だとは思っていなかった。
「しかし、今回は守備隊が2万人以上います。一筋縄で行くとは……」
「敵がいくら立て籠もろうと、為すべきことは変わらない。戦車隊を押し出せ」
「はっ!」
特別なことをする必要はない。カルテンブルンナー全国指導者は堅実な男だ。
〇
「ベルディデナの城壁を射程に収めました!」
戦車隊は単独で前進し、城壁を徹甲弾の射程に入れた。
「前方には堀があるが……無駄だったようだな」
「はい。我々には何の障害にはなりません!」
この戦いに備えたのだろう。城壁のすぐ外側に空堀が敷設されていた。しかし戦車の主砲はその遥かに外側から城壁を狙い撃つことが出来る。
レギーナ軍の努力は完全に水の泡だ。
「照準定め」
「はっ」
城壁を効率よく壊すには、ある程度低い場所を狙った方がいい。だが狙いが低過ぎると地面に着弾してしまう訳で、巨大な城壁を狙うにしては精確な照準が必要だ。
「敵軍、攻撃を開始!」
「ああ。気にするな」
城壁の上からレギーナ軍が銃撃を開始した。だが戦車は小銃弾程度を通しはしない。銃弾の嵐の中、射撃手は落ち着いて砲の角度を調整する。
「全車、照準を確定しました」
「よし。撃てっ!」
戦車隊は一斉に砲撃する。城壁の下部に徹甲弾が次々と命中し、瓦礫が吹き飛ぶ。たちまち城壁はがたつき初め、すぐに崩れると思われたが――
「あ、あれは、城壁が直っていっています!」
「何? ……そうか、ダキアの魔女がもう到着していたか」
城壁が時を巻き戻すようにして、一瞬にして修繕される。極限まで時間を稼ぐダキア大公国の得意技だ。
「どうしますか?」
「あの壁が崩れ果てるまで、撃ちまくれ!」
「はっ!」
一撃で城壁を打ち崩そうとするのが間違いだ。それにここはレギーナの最後の城。砲弾を節約する必要もない。
「撃てっ!」
再度の斉射。壁は再び崩れ始める。だが次の瞬間には穴は塞がれ、砲撃は無に帰した。
その後も徹甲弾を撃ち尽くす勢いで砲撃を行ったが、ベルディデナの城壁には一切の傷も残らなかった。
「ここまでとは……」
「これでは埒が明きませんね……」
「ああ。カルテンブルンナー閣下にお伝えし、指示を仰ごう」
〇
「閣下、どうやら敵は魔女を擁し、城壁を修復し続けているようです」
「そうか。ならば城壁を破壊するのは不可能だろう。攻撃は中止だ」
カルテンブルンナー全国指導者は驚くほど簡単に破壊を諦めた。
「ち、中止ですか?」
「あくまで正面突破を中止するだけだ。別の手を打つ」
紅茶を一口、静かに飲む。
「別の手、と言いますと……」
「ゲルマニアは既にダキア最強の要塞であるメレンを二度も攻略している。その歴史に学べばよい」
「なるほど。そうなると……ルートヴィヒ王の許に突入ですか?」
最初のダキアとの戦争でシグルズが披露した荒業のことだ。
「馬鹿か、君は」
「え……」
「第一に、城内には多数の魔女がいると予想される。恐らくはダキアの飛行魔導士隊とやらもいるだろう。第二に、そもそも我々には魔女がいない」
「そ、そうでした……」
帝国の誇る魔女の面々は全て東部戦線にいる。まあこの配置は些か問題なのだが。
「では……城門を突破しますか」
こちらもシグルズが二度目にメレンを攻めた際に使った手だ。
「その通りだ。我々には戦車があり、十分な兵もある。城門を打ち破り、市内を制圧する」
城門に集中砲火を行えば、流石の魔女どもでも対応は出来まい。戦車を先頭に突入すれば、敵に狙い撃ちにされても問題はない。
だが、ルートヴィヒ大統領は親衛隊がそう考えるところまで読み切っていたのだった。
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