経過Ⅱ
ノーレンベルクを占領した親衛隊。極めて短時間、極めて軽微な損害でこの要衝を突破することに成功した。
「閣下、少々問題が生じました」
珈琲などを飲みながら優雅にくつろぐカルテンブルンナー全国指導者に、急ぎの報告が入った。
「問題? 市民が蜂起でもしたのか?」
「いえ、市民は従順です。そうではなく、弾薬の消耗が予想より激しかったようです」
「弾薬か……」
それだけでカルテンブルンナー全国指導者は全て理解した。
城壁を破壊する為に徹甲弾をそれなりの数使った訳だが、この調子で消費を続けると、もう一つ要塞を落とした頃には弾切れになるようだ。
砲弾が無ければ戦車もただの大きな馬車である。
「我々はレギーナ王国の建築物を少々甘く見ていたようだな」
「はい。そのようです」
確かに圧倒的な戦況のままに勝利したが、カルテンブルンナー全国指導者としてはもっと完璧な勝利が欲しかった。これは手落ちだ。
「どうされますか? 弾がなくては流石に戦えませんが……」
「そうだな。本国から弾薬を運ばせよ。暫くはここで停滞することとはなってしまうが……」
カルテンブルンナー全国指導者は不愉快そうな表情を浮かばせる。一直線にベルディデナに向かうというのは不可能となってしまった。
つまるところ、レギーナの要塞は親衛隊に抗うことは出来ないが、弾薬を消費させることによって足止めすることに成功したのである。
要塞としては残念なこと極まりないが、足止めが出来ただけ、その存在は無意味ではなかったと言えるだろう。
○
ACU2311 12/21 レギーナ王国 王都ベルディデナ
「陛下――いえ、大統領閣下、敵はどうやら、思ったほど早くここに辿り着きはしないようです」
トラー宰相は親衛隊の動向を報告した。当初の予想では1週間で親衛隊がベルディデナに攻め寄せると考えられていたが、未だに彼らはノーレンベルクに留まっている。
「なるほど。弾薬が尽きたという訳か。機動力しか考えないからああなるのだ」
「そ、その通りです」
「それで、この状況でどう動くべきかを聞きに来たのだろう?」
「はい。我々にはまだ時間的な余裕があります。前線の要塞に援軍を送ることも出来るのではありませんか?」
これまではベルディデナの防備を整えるだけで精一杯だった。だが前線に援軍を送ることが出来れば、更に時間を稼ぐことは可能かもしれない。
「我々の保有する重砲を用いれば、敵に損害を強いることも出来る筈です。どうか……」
「否。それはダメだ」
ルートヴィヒ大統領は即座に否定した。この拒絶っぷりにはトラー宰相も流石に動揺する。
「な、何故ですか……?」
「ベルディデナ以外の要塞は、いずれも規模は小さい。その中では最強だった筈のノーレンベルクが一瞬で落とされたのだから、兵を送ったとて意味はないであろう。貴重な戦力を無為に消耗するだけだ」
「そ、それは……」
つまるところは戦力は集中させるべきということだ。この状況では兵を分散させても各個撃破されるだけである。
「確かに私も心苦しいのだ。見方によっては――いや、事実として、私は王都だけを守って他の都市を全て捨てている。レギーナ国王としてはまるで失格だ。だが、レギーナが最後に勝利を掴む為には、こうするしかないのだ」
「陛下……分かりました。そのように致します」
「うむ」
正直言ってこの戦略は下の下だ。王都以外が敵に蹂躙させるのを指をくわえて眺めながら、他国からの援軍に全てをかける。レギーナ王国にとっては屈辱そのものである。
だが、それでも勝たねばならない。勝てば何事もどうとでもなるのだ。
と、その時だった。
「大統領閣下、ダキアからの援軍が到着したようです」
「おお。やっと来たか。指揮官はホルムガルド公アレクセイであったな?」
「はい」
「彼を城に招いてくれ」
「はっ!」
○
「陛下、ダキア大公国軍の援軍を率いて参りました、ホルムガルド公アレクセイです。今回は王城にお招きいただきありがとうございます」
「我々に援軍を用意してくれただけでもありがたいのだ。感謝されるには及ばない」
「――はっ」
「うむ。それで、長旅で疲れているところに悪いのだが、貴殿には我が軍との指揮系統の調整を行ってもらいたい。ゲルマニア人とダキア人が共闘するというのは初めてのことであるからな」
「はい。ぬかりなく済ませておきます。しかし、本当にベルディデナを守るだけでよろしいのですか? 我々ならば、少数でも大きな戦力となりましょう」
今回の援軍は全て騎兵だ。それも千人とは言え魔導兵。遊撃戦力としては十分である。それに逃げ足も速い。
「いや、貴殿らにはベルディデナの防衛に全力を尽くしてもらいたい。ベルディデナの構造などについては、一切何も包み隠さない」
「陛下がそう仰るのなら、我々は無論従います」
「感謝する。調整など、諸々のことはトラー宰相に尋ねてくれ」
「はっ。お心遣いに感謝します」
結局のところ、ルートヴィヒ大統領は本心を明かさなかった。
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