ベルディデナ決戦Ⅱ
ACU2311 12/30 王都ベルディデナ
「おや、雪ですね……」
「何、美しいではないか」
ゲルマニアの中でも暖かい地域であるレギーナでは、数年に一度しか雪は降らない。毎年のように冬将軍が襲来するダキアの地とは大違いだ。
「ダキアでは雪の為に進軍を断念せざるを得なかったようですが……」
「この程度の雪、何の影響もない」
「はっ」
雪と言っても、積もるか積もらないかという程度の穏やかなものである。攻撃に当たって悪影響が出ることはない。
「では、今日の総攻撃に変更はありませんか?」
「ああ。ない」
砲撃でベルディデナの城壁を破壊することは完全に諦めた。ならば次の手は、親衛隊の全軍を以ての総攻撃である。
「各隊、準備に余念はないな?」
「はい。昨日のうちに体勢は整えてあります。閣下のご命令があれば、いつでも押し出せます」
実はこれまでの城壁をいとも簡単に陥落させてきたから、敵の砲火を浴びながらの本格的な攻城戦はこれが初めてである。
とは言え、カルテンブルンナー全国指導者に緊張している様子は微塵も見られなかった。
「それでは、攻撃を開始しろ」
「はっ!」
ここで押し切れば親衛隊の勝利、押し切れなければこの戦いはまだまだ続くことになるだろう。
〇
「全軍、前進」
「はっ」
戦車はここまでで一両の損害もなく、32両で最前列を固める。また今回は多数の装甲車も用い、先鋒の部隊に限っては完全な機械化を達成している。
「ライラ殿下、感謝申し上げます。わざわざ殿下が御自らお出でになるとは」
カルテンブルンナー全国指導者は、指揮装甲車の中で正面に座る三角帽子を被った女性に恭しく話しかける。
因みに殿下と呼ばれるのは、彼女が本当にヴィークラント王国の王女だからである。
この装甲車部隊はライラ所長が自らのコネを最大限に動員してわざわざ用意してくれたものだ。それにレギーナ王国領内の輸送という危険な任務も彼女が引き受けてくれた。
「いいよいいよ、親衛隊のお陰で道は安全だったから」
「それはそれは」
道中の要塞を無視してベルディデナに一直線に攻め入ることも出来た。だがそれをしなかったのは、このように増援が必要となる場合を想定してのことである。
時間をかけた甲斐はあった。
「それに、これは私の為でもあるしね」
「殿下の為?」
「うん。こんな下らないことでゲルマニアに滅びられたら研究が進められなくなるからね」
ヴェステンラントはそもそも機械文明を否定する為の戦争をしている。ゲルマニアが負ければライラ所長の研究活動を許してはくれないだろう。
「なるほど。そうでしたか……」
カルテンブルンナー全国指導者は疑うような目でライラ所長を見る。
「? どうしたの?」
「いえいえ、何でもありませんよ」
実のところカルテンブルンナー全国指導者はライラ所長を信用していなかった。
彼女の祖国ヴィークラント王国はつい最近にゲルマニアに併合された国であり、グンテルブルクへの反感の大きさはレギーナ王国の比ではない筈だからだ。
もっとも、そんなことを敢えて口に出すカルテンブルンナー全国指導者ではないが。
「閣下、ベルディデナの城壁を射程に収めました!」
「弾種、榴弾。撃ち方始め」
「はっ!」
攻撃は始まった。城壁を破壊することは諦め、狙いは敵兵そのものである。榴弾は壁上や櫓に詰める敵を狙う。
移動しながらの砲撃であるものの、榴弾の爆発範囲にものを言わせ、敵を力づくでねじ伏せるのだ。
物陰に隠れていたレギーナ兵は次々と炙り出され、数百人が壁から叩き落とされた。次々と人が落ち地面に赤黒い染みを作る様は、全く吐き気を催すものだったが。
「……閣下、敵の抵抗は粗方排除しました!」
「よろしい。歩兵を前に出せ」
「はっ!」
射撃を続ける敵は排除した。機甲大隊は横に展開し歩兵の盾となり、親衛隊は総攻撃を開始する。
しかし――
「か、閣下! 多数の敵兵が現れました!」
「ほう……」
親衛隊が歩兵を動かすと、これ見よがしに多数の敵兵が壁上に現れ、機関銃と小銃で銃弾の雨を降らせた。
どうやら敵は歩兵をおびき寄せて大打撃を与えるつもりらしい。いい作戦だ。だが――
「問題はない。このまま敵兵を殲滅しろ」
「無論です!」
それはよい選択肢ではなかった。装甲車の影に隠れた歩兵を遠くから狙い撃つなど極めて非効率である。
「撃て」
「はっ!」
それに、射撃を行うということは、自らの居場所を晒すということ。彼らはたちまち榴弾の餌食となり、先に吹き飛ばされた兵士達と同じ運命を辿った。
そんな無敵の戦車だったがしかし、下らない押し止めを食らうことになる。
「閣下、前方の空堀ですが、予想より深く、戦車で突っ切るのは不可能です」
「そうか。ならば工兵隊を前に出せ」
「はっ」
戦車に護衛させながら、予め用意しておいた工兵隊を前進させる。そして架橋を試みるが――
「か、閣下! 敵の重砲です!」
「何?」
その時、城壁から数十の重砲が現れ、その砲口を親衛隊に向けた。
「……何? 閣下! 魔導反応です!」
「ほう……飛行魔導士隊か」
カルテンブルンナー全国指導者はほんの少しだけ顔を引き攣らせた。
迫り来る重砲と飛行魔導士隊、気づいた時には親衛隊はルートヴィヒ大統領の罠の中に嵌っていたのだ。
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