ダキアからの援軍

 ACU2311 12/16 レギーナ王国 王都ベルディデナ


 この世界では初となる、魔法が一切使われない戦闘。小規模ながら地球で言うところの第一次世界大戦とほぼ同じ形態を取った戦闘は、レギーナ王国側の大敗に終わった。


 親衛隊は塹壕線を埋め立てると、直ちに進撃を再開。ルートヴィヒ大統領の予想通り、ベルディデナへ一直線に向かって来ている。


「残るは数個の要塞がありますが……」

「長くは持たんだろう。兵が足りぬのだ」


 街道沿いには要塞がいくらか設置されている。旧式の要塞ではあるが、十分な兵と機関銃や重砲を配置出来れば、それなりに耐えられる。


 だが、そんな数の兵士や武器を調達する余裕はレギーナにはなかった。


「まったく、先代の王達は要塞を建てておけば敵を勝手に迎撃してくれるとでも思ったのか」

「へ、陛下、そのようなことはあまり……」

「愚痴の一つくらいはいいではないか」

「ま、まあ……」


 グンテルブルクへの備えとして先王達が建設した要塞は、ほとんど何の役目も果たせずに親衛隊に占領されることとなるだろう。


「現地の諸侯に担当は割り振っていますが――」

「精々1週間程度の足止めにしかならんだろう」

「その通りです」


 全ての要塞を合わせてもその程度の足止めしか出来ない。


「それまでにダキアからの援軍は届くか?」

「何分急なことでして、向こうも派兵の準備に時間がかかっているようです」

「……ならば、どんなに少なくてもよいから可能な限り早く兵を送るよう、ダキアに伝えてくれ」

「その場合も検討しましたが、1週間以内とすると1千程度の軍勢しか用意は出来ません……」

「いや、それでよい。直ちに送るように伝えよ」

「しかし、たったの千で何をされるのですか?」


 いくら魔導兵とは言え、その程度の兵力ではブルグンテンを襲撃するなど不可能である。以前に赤の魔女ノエルが1万の軍勢で攻め込んだ時も撃退されたのだ。


 ブルグンテンの内情や地理をある程度知っているというハンデがあるにしても、流石に千では無理だ。


「いや、攻め込むのではない。魔導兵の協力を得つつ、ベルディデナに籠城するのだ。そうして時間を稼ぎ、ダキア本隊の到着を待つ」

「なるほど……ではそのように致しましょう」


 魔導兵と協力して戦うという初めての試みだ。それがどんな結果を産むのかは未知数だが、ルートヴィヒ大統領は楽しみであった。


 〇


 ACU2311 12/17 ダキア大公国 対ゲルマニア国境付近


 ルターヴァ辺境伯が即座に集められた兵は1千。彼は今なお兵をかき集めることに尽力しており、軍勢を率いて出撃することは出来ない。


 代わって誰が兵士を指揮するかと言えば、ダキア親衛隊長のホルムガルド公アレクセイである。


 親衛隊の兵力を輸送するのは時間的に厳しく、また名目上とは言え首都であるオブラン・オシュの守りを捨てる訳にはいかないが、彼一人くらいなら簡単に動けた。


「たったの千人ではあるが……兵は多ければよいというものでもなし、か」


 いつもは万単位の軍勢を率いているだけに、この程度の兵の指揮をするのはなかなか新鮮であった。


「アレクセイ様、我々もついていますので、ただの千人という訳ではありません」


 黒衣を纏った修道女のような少女――飛行魔導士隊のエカチェリーナ隊長は言った。やっと彼女らがマトモに戦える日が来るかもしれない。


「そうだな。君達には期待している」

「はい。聖なる神,聖なる勇毅,聖なる常生の者よ,我等を憐めよ。我が国を祐け給え。アミン」

「お、おう……」


 どう反応すればいいのか相変わらず分からないアレクセイであった。


 〇


 ACU2311 12/17 アヴァール辺境伯領


「アレクセイ様、こちらが今回の列車になります」

「ああ。多大な配慮に感謝する」


 この国の最高指導者であるアヴァール辺境伯よりも高い爵位を持つアレクセイ。その扱いは貴賓へのそれであった。


 彼らを運ぶには列車を使う。大量の兵士を高速で運ぶのには最適な手段だ。


「列車というのはあまり見たくないものだが……」

「はい。ましてや乗りたくもありませんが、必要とあらば仕方ありません」

「だな……」


 エカチェリーナ隊長のように辛辣にはなれないが、アレクセイも同じことを思っている。


 鉄道のないダキアにとっては列車と言えば装甲列車であり、天敵そのものである。多くの兵士がその前に斃れ、ゲルマニア軍はその力でダキアの奥地まで侵攻した。


 武装がないとは言え、あまり見たくはないものである。


「お気に召しませんでしたか……?」


 そんなろくでもない会話はアヴァールの官吏に聞かれていた。


「え、ああ、いや、そうじゃないんだ。君達を悪く言うつもりはない。そう、悪いのはグンテルブルクだ」

「はあ……」


 ダキア人の感覚は、列車など極ありふれたものであるゲルマニア人には理解の出来ないものだった。


「それでは早速お乗り下さい。レギーナ王国までひとっ飛びです」

「どれほど時間がかかるんだ?」

「おおよそ12時間です」

「け、結構かかるんだな……」


 ひとっ飛びと言うには長いと感じられた。


「ゲルマニアは東西に長いものでして……それに、補給の為に何度か停止はします」

「ほ……」


 流石に12時間も箱に閉じ込められることはないようで、アレクセイは安堵した。

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