第二十七章 ゲルマニア内戦
開戦
ACU2311 12/13 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン
時刻は23時を回った。日付が14日に変われば、挑戦状に基づいてグンテルブルク王国とレギーナ王国は戦争状態になる。
「ここで和平を提案したりは、してくれないだろうか……」
ヒンケル総統は呟いた。土壇場になってもヒンケル総統は何としても内戦を避けようと努力していたが、ついにその努力が実を結ぶことはなさそうだ。
「我々の方からこれほどに話し合いを呼び掛けたのです。彼らにその気はないでしょうな」
カイテル参謀総長は残念な事実を告げざるを得ない。
「そうか……」
「はい。それに、カルテンブルンナー全国指導者が今更退くことを許さないでしょう」
「そうだな……」
やる気満々のカルテンブルンナー全国指導者をここで退かせたら帝都でクーデターでも起こされそうだ。やはり内戦は避けられない。
「閣下、残り時間は30分を切りました」
「分かっている」
開戦までのその時間は、非常に長く感じられた。と、その時だった。
「閣下! 総統閣下! 大変です!」
会議室の扉を勢いよく開け、慌てた様子の伝令が駆け込んできた。
「失礼だぞ、君」
「いいんだ、参謀総長。それで? 何があった?」
「は、はい! たった今レギーナ王国から通達があり、レギーナ王国を中心とする6つの領邦が神聖ゲルマニア帝国から独立すると!」
「独立? 詳しく聞かせろ」
開戦の30分前に、ゲルマニア連合帝国は独立を通知してきた。この瞬間を以て、名実ともにゲルマニアは分裂した。
「ゲルマニア連合帝国……そこまでして全面戦争を望むか……」
「閣下、これは寧ろ喜ばしい事ではありませんか」
ザイス=インクヴァルト司令官は楽しそうに言った。
「どういうことだ?」
「とうにゲルマニアは分裂しています。独立などというのは、実質に名前を与えただけのこと。情勢に大した変化はありません」
「まあ、それはそうかもしれないが……」
確かに、レギーナ王国に味方する諸邦は中央からの命令に全く従わず、事実上は独立したようなものだった。
「だがな……これでレギーナ王国以外の国とも戦争状態に入ることとなった。収拾がつかなくなるのではないか?」
「いいえ、閣下。それは逆です」
「何故だ?」
「そもそも我が軍は、レギーナ王国に味方する者全てを攻撃対象として作戦を立案しています。レギーナ王国以外に宣戦を布告する手間が省けた訳ですから、より早期に戦争を終結させることが出来ます」
「……ならば、そう信じよう」
レギーナ王国以外に進軍する大義名分がなかったのはグンテルブルク王国も同じ。事由ならこちらから作るつもりだったが、これでその手間が省けた。
レギーナ王国と戦争状態に突入すると同時に、離反した全ての領邦を合法的に叩き潰せる。
「閣下、まもなく時間です」
「ああ。作戦に変更はない。前線の指揮は現場の指揮官に一任する」
「はっ」
かくして、ゲルマニア内戦が始まった。
○
ACU2311 12/14 グンテルブルク 対レギーナ国境
「――時間だ。諸君、我々はこれより逆賊レギーナの王都ベルディデナを落とす。進撃せよ」
本物の貴族より貴族らしい男、カルテンブルンナー全国指導者はブリタンニアの紅茶を飲みながら諸隊に命じた。
「「はっ!!」」
戦車30両、自動車200両ほどの機械化大隊を中心とする親衛隊4万は、王都ベルディデナへと前進を開始した。カルテンブルンナー全国指導者は大型の指揮車両に乗り、司令部が移動しながら戦える編成である。
〇
ACU2311 12/15 レギーナ王国北部
ブルグンテンからベルディデナには太い街道が敷設され、大軍の行軍は容易である。本来ならばゲルマニア国内で兵士の輸送に供されるべき街道であるが、それがレギーナに牙を剥いた形となる。
「しかし閣下、静かですね」
レギーナ王国の領内に突入した。だが敵兵の姿どころか人っ子一人見当たらない。戦車の走行音だけが延々と響き渡る不気味な空間がそこにあった。
「国境での戦闘は不利だと踏んだのだろう。もう少し進めば、要塞か砦の一つでも見えてくる」
「そういうものでしょうか」
「そういうものだ」
「――っと、閣下の仰る通り、敵の陣地を確認しました」
「報告せよ」
街道を塞ぐようにして数重の塹壕線が構築されていた。更には後方に多数の重砲も配備されている。ゲルマニア軍の典型的な防御陣地そのものだ。
そして、魔法を持たない軍隊同士の初めての戦争であった。
「これは……ヴェステンラント軍相手の防衛線でも特に硬い部類に入るものです。突破するのは困難かと……」
「敵の兵力は?」
「目測では、2万ほどです。迂回されますか?」
「迂回? 側面から銃火を浴びながら徒競走でもしたいのか?」
迂回などあり得ない。ここで敵兵力を壊滅させる他に道はない。やはりゲルマニアの自動車がある程度整備された道でないと走れないというのは戦略の幅を狭める。
「し、しかし……あの防衛線を相手にたった倍の兵力で突破出来るとは……」
「親衛隊が逆賊ごときに怖じ気づくなどあってはならない。直ちに攻撃を開始せよ」
「しかし……!」
「抗命の咎で処刑されたいのかね?」
カルテンブルンナー全国指導者は拳銃を腰から抜いた。
「は、はい……」
一切の躊躇なく、突撃が開始された。カルテンブルンナー全国指導者は優雅に紅茶を飲んでいた。
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