大義名分の作り方
ACU2311 12/12 レギーナ王国 王都ベルディデナ
ジハードの襲撃があった翌日、ヴェステンラントはダキアを介してレギーナに支援を開始し、ガラティア帝国は基本的に沈黙した。
「陛下、立て続けに様々な問題があり先延ばしにしてきましたが、我々は大義名分を作らねばなりません」
レヴィーネ外務卿は言った。ここまで来ればグンテルブルクと全力で戦争に挑むしかない。
「大義名分というと?」
「はい。グンテルブルクは我々に――レギーナ王国に対してのみ、挑戦状を送ってきました。これはグンテルブルクのささやかな策謀でしょうが、これではレギーナ王国は単独でグンテルブルクと戦わざるを得ません」
今のところ、内戦の大義名分はグンテルブルクからの挑戦状のみだ。それに頼っている以上、レギーナ王国以外の諸邦が参戦することは出来ない。
「それ故に、新たな大義名分を作らねばならない、ということか」
「はい。何の大義もなしに諸邦を戦争に巻き込むのは、得策とは言えません」
人類の文明が発生した時から、戦争は大義名分を必要としてきた。まあかなり支離滅裂な大義名分も数え切れないのだが、それでも大義名分を作ってはいるのだ。
レギーナ王国は、レギーナ王国に協力的な諸邦と共に戦争を挑む大義名分を得なければならない。
「レギーナ王国の救援、というのは大義名分にはならないのか?」
トラー宰相はレヴィーネ外務卿に尋ねた。確かに一番手っ取り早い大義であるように思える。
「それでも不可という訳ではありません。しかしながら、皇帝陛下より正式に討伐の勅命が出ている以上、救援も何も存在しないかと」
「今更皇帝など――」
「今は大義名分の話をしているのです」
「そう、だな。名目上は、国王陛下も皇帝の臣下であるのか……」
全く以て臣下としての行動などしていないが、これは名分の話。
「つまりは、我々が神聖ゲルマニア帝国という枠内にいるうちは、どうあっても大義名分の上で不利と言わざるを得ないという訳であるな?」
ルートヴィヒ王はレヴィーネ外務卿の言いたかったことを簡潔に纏めた。まあ当然のことである。
「まさしく、その通りです、陛下」
「ということは……帝国から離脱するということですか?」
「それしか道はあるまい。レヴィーネ外務卿も、そう考えるか?」
「はい。臣下の身のまま君主と戦争をするなど、馬鹿げていると言わざるを得ませんから」
「よかろう。なれば、南部の諸領邦は、戦争が始まると同時に独立する」
「はっ」「
かくしてレギーナ王国は神聖ゲルマニア帝国から離脱する方針を固めた。まあ内戦に至っている時点で独立したも同然ではあるが、それに名を与える訳である。
「それで、独立するとは言っても、一体どのように独立するつもりだ?」
ルートヴィヒ王はレヴィーネ外務卿に尋ねた。その新国家の具体像はまだ何も存在しない。
「はい。それについてはいくらかの姿が考えられますが、少なくとも帝政の国家を作ることは、あってはなりません」
「何? どうしてだ?」
トラー宰相は納得しかねた。神聖ゲルマニア帝国に対抗するなら、こちらも帝政を取らざるを得まいと思っていたからである。
「皇帝の位は、敵とは言え重んじられるべきです。我々が皇帝を名乗れば、皇帝というものの価値を軽んじることとなり、ひいてはあらゆる階級から敵視される可能性もあります。特に皇帝陛下と同列であるガラティアのスルタンは、気分を害するでしょう」
「なるほど……。ガラティアとは既に敵対している気もするが……」
「あくまで一例です」
総統が実質的に最高指導者であるゲルマニアにおいても貴族制の残滓を取り除くことは出来ていない。ましてやその他の列強において貴族制は現役である。
この世界を牛耳る秩序に喧嘩を売るのは得策ではない。無駄に敵を増やすのはただの愚者だ。
「だったら、どうするんだ?」
「一段下げて、南ゲルマニア王国として独立を宣言するのです。幸い、我々の味方の中に王国はありませんから」
つまるところは、神聖ゲルマニア帝国の皇帝を国王に変えた国家を作ろうということだ。
「ということは、余に新たな国家の王になれというのか?」
「はい。陛下はこの諸邦の中で最も高貴なるお方。ですから、我々の王になるべきお方です」
自然なことだ。王が一人しかいないのならば、彼が全ての王になるべきである。
「しかし、こうは思わぬか? 余の国王という位も、ゲルマニア皇帝に与えられたものであると」
「そ、それは……」
国王を名乗る限り、結局は皇帝の臣下のままだ。
「し、しかし、そもそもレギーナ王国は帝国の成立の遥か以前より存在していた国家ですし……」
「それでもよいだろう。だが、余は気に入らぬな」
「……それでは、陛下には何かお考えが?」
「うむ。我らがこれより建設する国家は、王国や帝国などという古臭いものではない。そのような旧弊に縛られぬ国家だ。故に、その元首は大統領でなくてはならない」
「だ、大統領……流石は陛下!」
トラー宰相はルートヴィヒ王を褒めちぎる。
自ら王位に頼らず新たな体制に身を任せようという、思い切った提言であった。
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