ジハードの闘争
「き、貴様! 陛下の前で何をする!」
「落ち着け、宰相。たかが少女が剣を抜いているだけではないか」
「し、しかし、陛下!」
「ジハードよ、何故に余を殺そうとするか?」
マトモに話も出来なさそうなトラー宰相は無視し、ルートヴィヒ王はジハードに語りかける。
「何故……それはお前を弑逆することがガラティアにとっての利益になるからに他ならない。そして、これから死ぬ陛下に、それを知っても何の意味もない」
「まったく、冥府の土産に聞いておきたかったのだがな」
「残念だな」
ジハードは双剣を構えると、ルートヴィヒ王に向かって一直線に駆け出した。
「この!」「陛下を守れ!」
その間にたちまち剣を抜いた近衛兵が立ち塞がった。ジハードと比べれば遥かに体格のいい男達である。だが魔法も持たない彼らがガラティア帝国で最強の魔女を食い止めるなど、不可能であった。
「邪魔だ。死ね」
ジハードは双剣を兵士達に投げつけた。
「ぐああっ!」「うぐっ……」
たちまち2人の兵士が喉を貫かれ死んだ。
「今だ! かかれ!」
ジハードは剣を失った。今なら数で押しつぶせば勝てると踏んで近衛兵達はジハードに突撃したが――
「馬鹿な真似を……」
ジハードは手元に次々と短剣を生成し、寸分の狂いもなく兵士たちの喉に投擲していった。たちまちに近衛兵は全滅し、玉座の間は死体の絨毯で彩られる。
残ったのはルートヴィヒ王と重臣数名のみ。
「それでは国王陛下、さようなら」
ジハードは短剣を構えると、ルートヴィヒ王に向かって投げつけた。
「陛下っ!!」
が、その刃がルートヴィヒ王に届くことはなかった。カンッと軽快な音がして、短剣は床に落ちる。ルートヴィヒ王の前には以前見たことのある者が立ち塞がっていた。
「っ!? お前は……」
「おやおや、マキナ君、帰ったのではなかったのか?」
メイド服の左腕の部分が破れている。マキナが短剣を防ぎ、ルートヴィヒ王を助けたのだ。
「陛下がお亡くなりになるのはヴェステンラントにとっても不利益となりますので、お守りさせて頂きました」
「いやはや、死を覚悟していたんだが、まさか助けが来るとは」
ルートヴィヒ王はあえてわざとらしく言った。彼にとってはマキナが助けに来ることすら想定の内だったのようだ。
「クッ……まさかお前と再び相まみえることになろうとはな……」
「今すぐここから立ち去れば、追いはしません。それとも私と戦いますか?」
マキナは表情一つ変えずにジハードに問いかけた。
「是非に及ばず! お前を倒し、私はアリスカンダル陛下のお役に立つのだ!」
「やれやれ」
「今度こそ終わらせてもらうぞ!」
ジハードは双剣を捨てて一本の長剣を作り出すと、マキナに向かって迷いなく斬りこんだ。だがマキナは何の武器も取り出さない。
「覚悟!」
ジハードの剣がマキナを切り裂く寸前、彼女は左腕を上げた。そして剣がマキナの左腕に当たると、伝わってきた感触は肉を斬るものではなく、硬い鎧を正面から斬りつけたような感覚であった。
ジハードは体勢を崩され、立ち直す為に一旦距離を取った。
「そうか。お前は……そうだったな」
マキナの体の半分が鉄で出来ているということを、広言はしない。それは興醒めというものだ。
「……まだ戦いますか?」
「無論!」
そうしてジハードは何度もマキナに斬りかかった。だが彼女は武器の一つすら出さず、その鉄の左腕だけで全ての斬撃をことごとく防いで見せた。
「おのれ……」
「あなたでは私に勝てません。諦めた方が賢明だと思いますよ」
「クッ……」
ジハードはマキナを睨んだ。が、その時だった。
「…………そろそろ殺してやろうか?」
「ひっ……」
マキナは突然態度を豹変させ、溢れんばかりの殺気がこもった声で言った。
そしてその右手に魔法で長剣を出現させた。手抜きをしていても勝てなかったのだ。彼女が本気を出したら勝てる筈がない。
「さあ、死にたいのなら来い。ゴミクズが」
「かくなる上は……」
ジハードは懐から拳銃を取り出した。ゲルマニアでも見たことのない型――純粋にガラティア帝国製の拳銃である。
「銃か。お前は不死隊長としての誇りも捨てたのか?」
「私の誇りは我が陛下に尽くすこと。その為ならば手段など問わない」
「そのちっぽけな銃で、私を殺せるとでも思っているのか?」
「お前たちのような魔女どもを殺す為に帝国が作った、12口径1.3センチ銃だ」
「ほう?」
ガラティア帝国でまだ数十丁しか生産されていない最新式の拳銃。だが既に普通の人間が扱える代物ではなく、魔女専用の銃器である。
通常兵力と魔導兵力を共に持つガラティア帝国ならではの武器だと言えるだろう。
「その鉄クズで私を殺すだと?」
「やってみれば分かるだろう。死ねっ!」
ジハードは引き金を引いた。とんでもない衝撃が肩から全身に行き渡るが、全て魔法で抑制する。
「何……」
マキナは瞬時に魔法で盾を張ったが貫かれ、銃弾は彼女の左胸を貫き、勢い余って玉座の手前の階段に大穴を開けた。
否、貫いたという表現は誤りだ。胸という部位の半分が消滅していた。ぽっかりと体に空白が生じたのである。血液どころか肉や内臓が欠損した部位から流れ落ちる。
「調子に乗っているからこうなる」
「…………」
マキナは力なく血だまりの中に倒れ込んだ。
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