高まる緊張
翌日。王都ベルディデナに良い報せがやって来た。
「陛下、カザール辺境伯、アヴァール辺境伯より、我が国と共同してグンテルブルクの圧力をかけるとの通達がありました」
「おお……」
玉座の間は感嘆の声で満ち溢れた。カザールとアヴァールの力添えはかなり心強い。
「うむ。よいな」
「陛下、大変素晴らしいことです。やはり多くの領邦がグンテルブルクに反感を持っているのです!」
トラー宰相は興奮してルートヴィヒ王にまくしたてた。レギーナの正義が証明されつつあることは、何よりの喜びである。
「うむ」
「こうなれば、更に我々の味方を増やすとしましょう。特にパンノニア公国とノイエスライヒ大公国を味方につければ、グンテルブルクと真正面から対決することも出来るのです!」
両国とも、レギーナ王国とカザール・アヴァール両辺境伯領の間にある領邦だ。これらを味方につければゲルマニアの南部に反グンテルブルクの大勢力を作り出すことが出来るだろう。
「更には我が国に隣接するロタリンギア辺境伯、アルル大公を引き入れれば、我らの体制は盤石です!」
「うむ。なれば、直ちにこれらの国と連絡を取れ。必ずや我らに引き入れるのだ」
「はっ!」
ここまでの国が仮に全て味方になったとしたら、その国力は合計してグンテルブルクの2/3程度に匹敵する。十分にグンテルブルクと渡り合える力だ。
○
ACU2311 12/9 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸
「総統閣下、レギーナ王国を盟主とする反総動員派に、ノイエスライヒ、パンノニア、ロタリンギアが加わったようです」
「パンノニアとロタリンギアはいいとしても、ノイエスライヒまでもがそちらに靡くか……」
パンノニア公国、ロタリンギア辺境伯領はどちらもレギーナ王国に接し、その国力も軍事力もレギーナには及ばないから、従わざるを得ないのも理解は出来る。
だが帝国第三の領邦であるノイエスライヒ大公国がレギーナの側に自ら進んで参加したのは痛い。それだけグンテルブルクが支持を受けていないと内外に示すことになる。
「これで、帝国第二、第三の領邦が敵の側についてしまいましたな」
カイテル参謀総長は言った。いくらグンテルブルクがあらゆる意味で帝国の半分を占めているとは言え、これは危機的な状況だ。
本気で内戦に突入したら負ける可能性は十分にある。
「どうにか話し合いをすることは出来んのか?」
「最早不可能でしょう。ここまでして軍を引っ込められるほど理性的な人間はいません」
「そうだな……」
双方ともに、軍事力で決着をつける意図を示してしまった。今から矛を納め対話に応じるなど、最早夢想である。
「それに、軍事力においても我が方が不利、か」
「はい。南部方面軍は動かせない以上、我々が使える戦力は親衛隊のみ」
南部方面軍は実のところレギーナ王国やロタリンギア辺境伯領のすぐ外側の狭苦しい帝国直轄地にあるのだが、これを動かさず妨害しないことは、グンテルブルクとレギーナの暗黙の了解である。
「しかしながら、親衛隊で動かせる兵力は、最大でも5万程度です。レギーナ陣営が本腰を入れて動員をかければ、とても対抗は出来ません」
国境に兵を集めて圧力をかけ合う今の戦いでは、グンテルブルクは必ず負ける。
「そうだよな……」
この1週間、ヒンケル総統に良い報せが届いた記憶がない。総統の心労は溜まる一方だ。
「かくなる上は、昔ながらのやり方に訴えて見るのはいかがでしょうか」
ザイス=インクヴァルト司令官は提案する。
「昔ながらのやり方?」
「決闘です、総統閣下。百年ほど前まで、戦争とは国家間の決闘でした。今こそこの伝統に則り、武を以て雌雄を決する時です」
「急にどうしたんだ? 騎士道物語にでもハマったか?」
「ご冗談を。つまるところは、前線に影響が出る前にレギーナ王国に短期決戦を挑むということです。レギーナさえ潰せば、我らに従わない者の動きも立ち消えになるでしょう」
内戦に発展することは避けられないが、その内戦を一瞬で終わらせる。それがザイス=インクヴァルト司令官の策だ。
「そう上手く短期決戦に持ち込めるのか?」
「レギーナがレギーナの為の総動員かける前に仕掛ければ、上手くことは運ぶでしょう」
「ではやはり、こちらから仕掛けるのか」
「はい。このまま手をこまねいてレギーナの武装を許し、泥沼の内戦に足を突っ込むよりは、今すぐに開戦し、直ちに戦争を終結させる方が余程良い」
「確かにそうかもしれんが……いや、怖気付いている場合ではないな。親衛隊に出撃の用意をさせよう」
「カルテンブルンナー指導者に伝えておきます」
方針は固まった。最早引き下がることは出来ない。
〇
ACU2311 12/10 レギーナ王国 王都ベルディデナ
「へ、陛下! グンテルブルクがこのような手紙をよこして来ました!」
レヴィーネ外務卿は血相を変えながら玉座の間に飛び込んだ。
「何だ、どうしたのだ? 手紙ごときに何を怯える」
「陛下もご覧になれば分かります!」
「ならば見せよ」
「はっ!」
ルートヴィヒ王はその手紙とやらを広げた。
「ふむ。挑戦状とは、笑わせてくれるな」
グンテルブルクのヴィルヘルム王(ゲルマニア皇帝と同一人物)名義で、ルートヴィヒ王への挑戦状が送られてきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます