水面下の行動

 ACU2311 12/5 レギーナ王国 王都ベルディデナ


「陛下、グンテルブルクが我が国との国境沿いに軍を集結させているようです」

「ほう。それで、いかほどの数か?」


 ルートヴィヒ王は特に驚くことはない。この程度で怯むようだったら窓外放出事件など起こしていない。


「現状ではまだ3,000ほど。しかしまだまだ多くの兵が向かっており、ヒンケル総統がどこまでやる気かは不明です」

「グンテルブルクに諜報を行っておくべきでした。これは私の不覚です」


 トラー宰相は言う。大抵の場合敵対しているとは言っても、グンテルブルクとは一応は同じ連邦国家を構成する味方。トラー宰相としても気を抜いていた。


「まあよい。しかし、この状況でグンテルブルクは軍を動かしたと言うのか? 国家総動員をかけねばならないという状況で?」


 そもそも兵員が不足しているからグンテルブルク以外の諸邦にも総動員を迫っているのだ。レギーナ王国を牽制する為だけに兵を動かすなど考えられない。


「いえ、それが、集まっているのは親衛隊のようです」

「親衛隊……カルテンブルンナーの下衆か……」


 功名より悪名の方が遥かに早く知れ渡るものだ。親衛隊の悪名はゲルマニア中に知れ渡っている。


「状況は分かった。親衛隊で我らに挑もうというらしいな。だが、奴らごときが我が兵に勝てる訳がない」

「当然のことです。レギーナ王国の正規兵20万は、いつでも戦争の準備を整えています。弱い者いじめしか能がない親衛隊ごときに我らが負けるはずがありません」

「そうだな。奴らの挑戦を受けてやるとしよう。直ちに軍をグンテルブルクとの国境線上に集結させよ!」


 ここまでされてもレギーナ王国に退く気はない。グンテルブルク側の行動に、レギーナ側も武を以て受けて立つ。


 ○


 ACU2311 12/6 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸


「閣下、レギーナ王国も国境に兵を集めているようです。このままでは事態はますます悪化するばかりですな」


 カイテル参謀総長は言った。レギーナ王国への対応はとっとと終わらせてしまうつもりだったのだが、今や総統官邸の一番の心配事になってしまっていた。


「ルートヴィヒ王は本当に内戦に突入するつもりか……?」

「あくまで示威に過ぎないとは思いますが、国境を挟んで軍隊が向かい合うなど、いつ戦争に発展してもおかしくはありません。早急にことを収めねば、最悪の事態になるかもしれません」

「最悪の事態、か。考えたくはないものだな……」


 まだ本気で武力に訴えようとする意図はどちらにもない。だがこの状況を放置すれば、偶発的に武力衝突に至ってしまう可能性もある。だがら可能な限り早く問題を解決する必要がある。


「しかしな……こちらも引けはしないのだ。帝国で第二の領邦であるレギーナの動員を免除するのでは、他の領邦もついてこないだろう」


 引き下がるという選択肢は存在しない。帝国の未来の為、総動員は必ず成し遂げなければならない。


「しかし、それはレギーナ側も同じことでしょう。彼らにも引き下がるという選択肢はないかと」

「だったらどうすればいいんだ? 落としどころがまるで見えんぞ」


 はっきり言って、話し合いで問題を解決する道はほとんど詰んでいる。グンテルブルクでもレギーナでも誰も解決方法を提示出来ないまま、無為な時間は過ぎていった。


「――やはり、軍事的な恫喝でレギーナを屈服させるしかないのではありませんか?」


 ザイス=インクヴァルト司令官は言った。策士の彼にしては捻りのない提案である。


「君らしくない提案だな」

「これの他のいかなる可能性を検討しようとも、ことごとく実現は不可能です。であれば、やはり人類誕生以来の王道に則り、武力で問題を解決する他ないかと」

「そう、か……ならば、親衛隊を更に動かすこととしよう。国境線に4万の親衛隊を集結させよ」


 レギーナ王国に対する軍事的な圧力を強める。それしか策はなかった。


 ○


 ACU2311 12/8 レギーナ王国 王都ベルディデナ


「陛下、グンテルブルクはまだまだ国境に兵を集めているようです。その数は3万を超えつつあります」

「3万か。いよいよ奴らも本気のようだな」

「へ、陛下、まさか本気で戦争を始めようと仰るのですか?」


 レヴィーネ外務卿は不安げに尋ねた。


「否。レギーナの為にゲルマニア人の諸国に不利益をもたらすは、我らの道義に反すること」

「で、では、そろそろ総統官邸との交渉を……」

「否! それは言語道断である」

「は……? ではどうなされるおつもりで……」

「奴らが我らを圧迫するというのなら、こちらも押し返してやるまで。カザール、アヴァール両辺境伯に連絡を取れ」

「……承知致しました」


 ダキアとの国境にある領辺境伯領は、レギーナ王国と同じくグンテルブルク王国に反感を持ち、かつ辺境伯として大きな権限を与えられている。国力の割には大きな軍事力を持ち、特にグンテルブルク以外で戦車を生産する工場を持っているというのは大きい。


 地理的には離れているが、これらの国と共同すればグンテルブルク王国に大きな圧力をかけることが出来る。水面下の戦争はますます激化していく。

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