神聖ゲルマニア帝国の現状
ACU2311 6/12 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸
「やっと地下壕から出られたな」
「はい。地下壕などより遥かに我が総統に相応しい宮殿です」
昨年のブルグンテン市街戦において、旧総統官邸は爆破して粉々にしてしまった。これまでは総統官邸の地下壕で会議を開いていた訳だが、ようやく官邸の再建が完了し、晴れて地上で会議が開けるようになったのである。
「しかし……いささか派手過ぎるという気もするが……」
「これでよいのです。民を導く我が総統には、皇帝陛下の宮殿と少なくとも同等の官邸が必要です」
貴族よりも貴族のような出で立ちをした男、カルテンブルンナー親衛隊全国指導者は応えた。しかしヒンケル総統は納得していない様子。
「私は男爵ですらない。私はあくまで民衆の一員だ。貴族のように振舞っては、総統としてこの国を統治する権利はない」
「ふむ……統治する者が適正な対価を得るのは、全くおかしなことではありません。古今東西、それを怠った結果、国が乱れたのですから」
「そういうものか……まあいい。これをわざわざ壊すことも出来ない訳であるし、早速本題に移ろうか」
総統がゆったりくつろぐ為に宮殿を造ったのではない。その目的は会議だ。まあ後は外交使節の接待など。
「さて、そろそろ予算の状態が末期的になってきたという話だったな。財務大臣、合っているか?」
ヒンケル総統は気弱なクロージク財務大臣に尋ねる。財務官僚としては非常に優秀な彼なのだが、人と話すのが苦手という致命的過ぎる弱点を持っていた。
「は、はい。えー、度重なる予算の変更によって当初の予算案は崩壊しておりまして、正直に言うと見通しはついておりません。ですが、現状をお話しますと、我が国は現在、国家予算の82パーセントを軍事費に投入しております。これは……我が国の建国当初の水準をも上回り、我が国の歴史上最も高い割合です」
ゲルマニアは予算を限界まで戦争に注ぎ込んでおり、歴史上稀に見る戦闘国家と化しつつある。
「であるな。年始に立てた予算案などとっくのとうに吹き飛んでいる」
「そ、その通りです。しかし……軍事部門への過去に類を見ない投資により税収も過去最高を記録しています。そのお陰で、民生部門への予算の絶対額は10パーセント程度の減少にとどまっておりまして、えー、国民生活への影響は想定の範囲内に収まっているかと思われます」
軍事費の増大はつまり、国民に直接還元される金が増えるということだ。元よりこの世界で貿易はそこまで盛んではない為、戦時中にも関わらず国内は過去に類を見ないほどの好景気であり、税収はうなぎ登りである。
異常なほどに。
「その点については労働省から捕捉を」
クリスティーナ所長は予定通りに補足説明に入った。
「軍事費の主たる使い道である兵器の生産ですが、ゲルマニアの兵器生産高はソリデュスに換算して、戦前の5倍に増加しています。これは戦車、装甲車、装甲列車などの高額な兵器群の影響が大きいです」
実際のところ、シグルズが初期に発案した小銃や機関銃は既に大量生産体制が整っており、一丁当たりの値段は旧式の小銃に近づいている。故にここで予算が取られることはないのだが、全く安くなっていないのが戦車や装甲車で、ここに予算の3分の1近くが取られている。
「しかし、この費用がどこから来るかと言えば人件費ですので、いずれにせよ国民に還元されていることは間違いありません。しかし、それだけ生産に時間がかかっていることに違いはないので、より効率的な量産体制を整える必要はあります」
「なるほど。労働省から他には?」
「はい。他に、労働省では女子、子供、老人の動員計画を整えています。遅くとも2か月以内には、老若男女を問わず兵器の生産に従事してもらう体制が整うでしょう」
「うむ。よろしく頼む」
若い男は戦場で兵士として戦う。よってその他の世代、性別の者に兵器を生産してもらうのが最も合理的だ。シグルズの提唱したこの案は、やっと実現されようとしていた。
「労働省からは以上です」
「あ、ありがとうございました。続いて財務省からですが……財務省としては可能な限り早い戦争の終結――ないし安定化を求めます」
「それは何故だ?」
「えー、今は税収が飛躍的に増大することで何とか予算を支えられていますが、いつか税収が伸び悩んだ時、一気に財政が破綻する可能性があります」
「それもそうか……」
好景気と言っても限界がある。いつか税収は伸び悩むことになるだろう。その時ゲルマニアの金庫は崩壊する。
「外務省としては、戦争終結の見通しは?」
総統は舞台役者並みの整った顔立ちをしている大臣、リッベントロップ外務大臣に尋ねた。
「はい。ダキアもヴェステンラントも戦争を止める気などさらさらないようです。彼らは理性ではなく感情によって戦争を続けており、交渉などまるで出来ないのが現状です」
「そうだな……」
ダキアもヴェステンラントもゲルマニアから見るとマトモではない。彼らには和平という考えがまるでないのだ。
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